NHK INFORMATION
業務報告書


 

日本放送協会平成12年度業務報告書
に添付する監事の意見書




 これは、放送法第38条第1項の規定に基づき、日本放送協会が総務大臣に提出する「平成12年度業務報告書」に添付する監事の意見書である。

平成13年5月



日本放送協会   
監事 中里   毅
監事 梶谷 陽一
監事 内川 芳美




総合所見
 平成12年度、日本放送協会(以下「協会」という。)は、公共放送の使命を達成するため、平成12年度事業計画に基づき、公正で信頼される報道と多様で質の高い番組の放送を行うとともに、12月1日から衛星デジタル放送を円滑に開始した。また、NHK情報公開基準を定め、自主的な情報公開を実施することとした。放送受信契約は、増加計画を達成できず、受信料収入は予算を下回ったが、経費の節減など、経営全般にわたり効率的な業務運営に努めた結果、財政の安定を維持した。
 これにより、12年度において、協会は、おおむね所期の成果を収めたものと認める。
特記すべき事項は、次のとおりである。

国内放送
 協会は、国内放送において、災害時の緊急報道をはじめ、激動する内外の諸情勢を的確に伝えるとともに、長引く経済不況をはじめ、青少年を巡る問題、急速に進展する高齢化、地球環境等の国民的関心事について幅広い視点から取り上げるなど、多様で豊かな番組を放送し、視聴者の信頼と期待にこたえた。また、衛星デジタル放送は、実験放送、試験放送を経て、12月1日に本放送を開始した。
 テレビジョン総合放送においては、平日午後10時台に大型のニュース番組「NHKニュース10」を新設するなど、ニュース・情報番組の充実を図り、小渕首相の入院とこれに続く森政権の発足、西鉄高速バス乗っ取り事件、第42回衆議院議員総選挙、白川英樹氏のノーベル化学賞受賞、KSDを巡る一連の事件、宇和島水産高校実習船のアメリカ原子力潜水艦による衝突沈没事故、韓国と北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の首脳会談、ユーゴスラビアの政権崩壊、オーストリア・アルプスのトンネル内火災事故など、内外の重大な出来事について迅速かつ的確な報道に努めるとともに、「NHKスペシャル」や「クローズアップ現代」等でその背景や問題点を多角的に紹介した。有珠山、三宅島雄山の噴火や伊豆諸島、鳥取県西部、芸予地震等相次いだ災害時には、機動的な編成できめ細かく報道し、公共放送の使命を果たした。また、九州・沖縄サミットでは、会議の経過などのほか、沖縄の歴史、文化等を多角的に取り上げ、またアメリカ大統領選挙では、ブッシュ大統領当選確定までの緊迫した状況を随時放送した。
 平日午後9時台に、幅広い視聴者に向けた質の高い番組を新設し、なかでも「プロジェクトX 挑戦者たち」は、戦後の日本を支えた無名の人たちを描き、大きな反響があった。国民の関心が高い青少年を巡る問題については、3つの殺傷事件を検証したNHKスペシャル「17歳の衝動」、日曜討論「相次ぐ少年犯罪 子どもたちに何が起きているのか」などの番組で多角的に放送した。また、NHKスペシャル「世紀を越えて」では、遺伝子診断により病気を予知する最新医療の行方など21世紀に引き継がれる諸課題を取り上げ、視聴者の関心にこたえた。連続テレビ小説「私の青空」「オードリー」、大河ドラマ「葵 徳川三代」「北条時宗」なども視聴者に好評であった。
 オリンピック・シドニー大会、パラリンピック・シドニー大会については、中継、ニュース、特集番組等で多彩に放送し、国民の関心にこたえた。
地域放送では、平日午後5時台の生活に密着した情報番組の各県向けの放送を拡充したほか、地域の課題を取り上げる情報番組を土曜と日曜の夕方から金曜夜間の視聴好適時間帯に移設し、地域の視聴者の期待にこたえた。
 テレビジョン教育放送においては、放送時間を日曜深夜を除いて1日24時間とした。また、次代を担う青少年に向けた番組をいっそう強化  し、10代の少年少女たちがお互いの考え方や悩みを語り合う「真剣10代しゃべり場」を新設したほか、親と教師が教育改革について討論する長時間特集番組などを放送した。さらに、14年度の小中学校の新教育課程実施に向け、インターネットを活用した双方向型学習番組の開発を進めた。また、老後の生き方やボランティア、介護の問題を考える番組を新設するなど福祉番組を充実した。
 ラジオ放送においては、第1放送で、ニュース、生活情報をきめ細かく伝えるとともに、災害等の緊急報道に迅速に対応し、“安心ラジオ”としての役割を果たした。第2放送では、10月から深夜の放送時間を1時間30分拡大して、生涯学習波としてのサービスの強化を図った。FM放送では、音質特性を生かして音楽番組の充実を図った。
 衛星デジタル放送においては、九州・沖縄サミットにおける実験放  送、オリンピック・シドニー大会等における試験放送を経て、12月1日、デジタルハイビジョン放送と、衛星第1・衛星第2テレビジョンのサイマル放送の3波により、1日24時間の本放送を開始した。デジタルハイビジョン放送については、「NHKニュース おはよう日本」「NHKニュース7」「NHKニュース10」などの定時ニュース番組をハイビジョン放送で初めて編成したほか、1か月余の特別編成を組み、海外からの長時間多元中継やドラマスペシャル、データ放送を使った視聴者参加番組など高画質・高音質・高機能の特性を生かした番組を放送し、普及促進を図った。
 衛星デジタル放送で新しく始まったデータ放送については、ニュースや気象情報、福祉関連情報など日常の暮らしや緊急時に役立つサービスのほか、大河ドラマ「北条時宗」の出演者紹介など、番組関連情報の提供等を開始した。
 アナログハイビジョン放送については、6年11月以来、民間放送事業者と共同で実施してきた実用化試験放送が11月30日をもって終了したため、12月1日から協会単独で、“デジタル方式の放送へ円滑に移行するための放送”として実施することになり、協会は、デジタルハイビジョン放送のサイマル放送を1日24時間放送した。
 衛星第1テレビジョンにおいては、世界各国からのニュース枠を拡充し、激動する内外の動きをより的確に伝えるとともに、韓国と北朝鮮の首脳会談や九州・沖縄サミットの関連番組、アメリカ大統領選挙の特別番組を分厚く放送するなど、内外総合情報波として充実を図った。ま  た、オリンピック・シドニー大会の全競技を放送したほか、アメリカ大リーグやサッカーのアジアカップ等を中継し、視聴者の関心にこたえた。
 衛星第2テレビジョンにおいては、第一級の娯楽や芸術、文化を紹介する波として、BSスペシャル「世界の歌姫競演」など番組の充実を図るとともに、地域からの長時間中継番組「地域スペシャル」や、衛星放送のキャラクターをローカル線の各地に派遣し、地域の素顔を紹介する公開番組等を新設した。また、難視聴解消のため、テレビジョン総合放送およびテレビジョン教育放送の主な番組を編成した。
 障害者向けサービスについては、字幕放送を、テレビジョン総合放送、テレビジョン教育放送、衛星第2テレビジョンで、計画的に拡充するとともに、デジタルハイビジョン放送でも開始した。手話放送は、「NHK手話ニュース845」などを引き続き放送した。また、視覚障害者向けの解説放送では、学校放送番組の一部で拡充し、「連続テレビ小説」「きょうの健康」などで引き続き実施した。
 放送番組の制作委託にあたっては、関連団体との連携を適正に推進 し、多様で質の高い番組の確保に努めた。
 放送倫理については、引き続き強調月間を設定し、セミナーや勉強会を集中して開催するなど、その徹底を図った。また、放送と青少年問題への対応については、4月から日本民間放送連盟と共同で、自主的に第三者機関「放送と青少年に関する委員会」を放送番組向上協議会の中に設置した。
 放送文化に関する調査研究では、20世紀に日本の放送がたどってきた歴史を、海外の放送についても触れながら詳細に記述した「20世紀放送史」を刊行したほか、日本人の生活実態の変化を5年ごとにとらえる「国民生活時間調査」を、今回は都道府県別の結果も分かる、10年に1度の大規模な調査として実施した。

<要望事項>
 協会は、今後とも、公共放送の役割と責任を再確認し、公正で的確な報道と多様で質の高い番組を放送することが重要である。特に、衛星デジタル放送については、その特性を生かした魅力ある番組を積極的に開発し、普及促進に努めることが必要である。さらに、地上、衛星の各波の役割を明確にしながら、総合的に調和のとれた番組編成を行うことが求められる。地域放送については、より地域に密着したサービスの強化を図ることが必要である。特に、災害などの緊急時には、迅速かつ的確な報道に引き続き万全を期することが重要である。また、青少年の健全な成長に役立つ番組や高齢化問題を考える番組、経済再生に資する番組などを放送し、視聴者の信頼と期待にこたえていくことが求められる。障害者向けサービスについては、字幕放送など引き続き拡充することが必要である。放送倫理については、公共放送としての責任を自覚し、いっそうの徹底を図ることが望まれる。


国際放送等
 国際放送に関して、協会は、テレビジョン国際放送において、諸外国における日本理解を促進するため英語によるニュース・情報番組を拡充し、あわせてアジアに関する情報発信を充実した。また、海外の日本人への情報提供の強化を図るため「海外安全情報」を新設した。ラジオ国際放送においては、「海外安全情報」の放送回数を増やし、ライフラインとしての機能を強化した。また、フランスの超音速旅客機墜落事故、ギリシャのバス乗っ取り事件等の緊急報道にあたっては、テレビジョンとラジオで克明に伝えた。
 通信衛星での伝送による海外への番組提供では、配信先としてニュージーランド等の放送事業者等を新たに加え、いっそうの拡大を図った。

<要望事項>
 協会は、今後とも、国際放送等において、諸外国における日本理解に資する番組の充実と海外の日本人への情報提供の拡充に努めることが重要である。また、テレビジョン国際放送での英語による情報発信を強化することが必要である。さらに、テレビジョン国際放送のいっそうの周知に努めるとともに、受信地域の拡大を図ることが望まれる。


放送設備の整備等
 放送設備の整備に関して、協会は、衛星デジタル放送の開始に向け、送出設備とデータ放送の設備のほか、地上送信設備等を整備した。また、ニュースセンターの制作、送出系の設備や伝送車等のハイビジョン化を計画的に推進した。外国電波の混信等による難視聴に対処するため、放送局の開設等、受信状況の改善を図った。さらに、良質で安定的な放送の確保を図るため、老朽設備の更新を行ったほか、緊急報道体制強化のため、全国のヘリコプターへの高感度カメラの配備を進め、完了した。
 放送技術の研究では、地上デジタル放送の実用化に向けた機器の研究開発を進めた。また、データ放送で送られてくる文字や図形などの情報を、視覚障害者が点字や音声で受信できる装置を開発した。さらに、次世代放送サービスの開発に向けて、基盤技術の研究を進めた。

<要望事項>
 協会は、衛星デジタル放送の充実に向け、ハイビジョン設備の整備を進めるとともに、地上デジタル放送の開始に備え、さまざまな技術的諸課題に着実にこたえる研究開発を推進していくことが重要である。外国電波による混信対策のため、引き続きテレビジョン放送と中波放送の受信状況の改善に努めることが必要である。さらに、本格的なデジタル時代を展望し、超高精細映像システム等、より豊かで、視聴者が利用しやすい次世代の放送を目指した先導的な研究開発を推進していくことが望まれる。


営業活動等
 視聴者関係業務に関して、協会は、12月に開始した衛星デジタル放送 の普及促進に努めるとともに、イベントや公開番組等と連動させて、視聴者との結びつきを強め、公共放送・受信料制度への理解を深める活動を推進した。営業活動では、厳しい環境の下で、特に単身世帯や事業所への集中対策を実施したほか、ケーブルテレビ事業者との連携をいっそう強化するなど、放送受信契約の増加と受信料収入の確保に努めた。また、視聴者がホームページで受信契約の届け出が出来るようにするとともに、衛星デジタル放送の自動表示メッセージ機能の活用による衛星受信者の把握を開始した。しかし、有料受信契約は、契約総数、衛星契約のいずれも増加計画に達せず、受信料収入は予算を下回った。なお、受信料収納を、より効果的、効率的に進めるための新しい営業システムについて、13年度からの導入に向けて準備を進めた。

<要望事項>
 協会は、今後とも、全局一体の取り組みにより、視聴者との結びつきを強化し、公共放送・受信料制度についての理解を深める活動を推進することが必要である。特に、受信料収入の予算に対する減収を厳しく受け止め、受信契約の着実な増加に努めるとともに、受信料の確実な収納を図ることが重要である。さらに、公平負担の徹底を期するため、面接困難な未契約者への対応をいっそう強化し、契約率の着実な向上を図ることが必要である。衛星デジタル放送については、普及を促進するとともに、自動表示メッセージ機能を積極的に活用して、受信者を効率的に把握し、早期の契約締結に努めることが必要である。また、新しい営業システムの定着を図り、業績の向上に資することが求められる。


業務運営・財政
 業務運営に関して、協会は、メディアの変革期における公共放送の役割と今後3か年の事業運営の指針を明らかにした「新たな放送文化と公共性のさらなる追求をめざして〜IT時代のNHKビジョン〜」を策定した。また、視聴者に対する説明責務を果たすため、NHK情報公開基準を定め、この基準に基づく自主的な情報公開を13年7月から実施することとし、円滑な開始に向けて諸準備を進めた。
 衛星デジタル放送については、普及に向けて全局的に取り組むとともに、関係事業者等と協力し、普及・広報活動等を行う推進団体を発足させた。地上デジタル放送については、総務省や民間放送事業者とともに構成する「地上デジタル放送に関する共同検討委員会」において、アナログ周波数変更対策を、国の13年度予算により総務省や民間放送事業者と協力して実施することを確認したほか、変更対策を推進するための協議会の設立に参画した。また、同検討委員会において、関東地方における県域放送の実現を働きかけた。地上デジタル音声放送については、東京と大阪で実用化試験放送を行うための社団法人の設立準備を民間音声放送事業者とともに進めた。
 “改革と実行”“公開と参加”の経営理念に基づき、引き続き、経営全般にわたる業務改革に努めた。また、公共放送に携わる者としての倫理基準や行動規範を示した行動ガイドラインを策定した。
 関連事業については、関連団体との連携の下に節度ある推進に努めたほか、関連団体等の子会社のあり方について、引き続き検討を行い、再編成を進めた。また、関連団体との連結決算の導入へ向け試行を行った。
 財政については、効率的な業務運営と経費の節減等に努めた結果、事業収入は予算に対し35億円の減収となったものの、事業支出は61億円の予算残となり、事業収支差金は25億円改善されて223億円となった。この事業収支差金のうち、198億円は資本支出に充当し、25億円を翌年度以降の財政安定のために使用を繰り延べることとした。年度末における財政安定のための繰越金は559億円となった。

<要望事項>
 協会は、今後とも、主たる経営財源が受信料であることを認識して業務改革に取り組み、視聴者に開かれ、効率的で活力ある業務運営を推進することが重要である。また、受信料収入の確実な確保と経費の節減によって、財政安定の維持に努めることが必要である。情報公開については、NHK情報公開基準を適切に運用し、視聴者への説明責務を果たすことが望まれる。関連事業については、引き続き、公共放送にふさわしい節度をもって進めることが必要である。
 衛星デジタル放送については、魅力ある放送内容とその受信方法をさまざまな機会を活用して視聴者に周知し、普及促進を図ることが必要である。地上デジタル放送については、13年度から開始されるアナログ周波数変更対策を、視聴者の理解を求めつつ、円滑に実施することが重要である。
 本格的なデジタル時代を迎え、放送を巡る環境が大きく変化する中 で、協会は、公共放送としての役割の重要性にかんがみ、新たに策定した「IT時代のNHKビジョン」の具体化を着実に推進してその責任を十全に果たし、視聴者の支持と信頼をより強固にしていくことが必要である。






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