2020年10月30日

自民党 前参議院幹事長

吉田博美の愛した「ちょっと酸っぱい肉野菜炒め」

2020年10月30日

10月26日。
「参議院のドン」と呼ばれた自民党の前参議院幹事長、吉田博美が亡くなって、早いもので1年。
今回は、吉田が好物だった一品を振り返りたい。

気さくな人柄で、食事もテイクアウトの弁当や「町中華」、回転寿司、それに牛丼といった庶民的な物が大好きだった。(生前の記事はこちら

夜の会食は必ず9時半までと決めていた。

「『ココちゃん』にごはんをあげないといけないからな」
肌身離さず持っていたのは、愛犬ココちゃんの写真。

たとえ相手が総理大臣でも、ココちゃんにごはんをあげるため、9時半に会食場所をあとにしたというエピソードがあるほど、誰に対しても分け隔てなく向き合う人だった。

「趣味は仕事」の吉田だったが、「おしゃれ」には気を遣っていた。
こちらは国会でつけていたカフス。

自らのセンスで選んだ、個性的なデザインのものを身につけていた。

休みの日にはおしゃれをしてバスに乗り、自宅から離れたお気に入りの回転寿司屋に行くのが好きだった吉田。メガネもふだんとは違う柄で、チェックのシャツを着て、1時間近く待つ行列にも平気で並んだ。偶然そこで会うと「一緒に並ぶか?」という気遣いもあった。

平日、夜の会合がない日は、秘書やSP、運転手とともに、お気に入りの店に食事に行くのを楽しみにしていた。

吉田のお気に入りだったのは、国会近くにある中華料理店だ。
15年近く秘書を務めた吉武崇さんは、感染防⽌対策にも気を使いながら、今もこの店を訪れている。

「1人でごはんを食べることはあまりなかったですね。だいたい夜は、連日会合が入っていたんですが、会合がない日は、どこで食事をしようかと楽しそうに考えていました。夕刻に打ち合わせをしていると、『早く行かないと混んじゃうよ』とせかされることもありました。それほど楽しみにしていたんです」

必ず注文したのが、肉野菜炒めと半チャーハンだった。

「『肉野菜炒め定食』じゃダメなんです。健康を考えて野菜がいい。でも肉も食べたいということで、肉野菜炒め。ごはんも食べたいけど、1杯は多いから半分。でも、味が付いていた方がいいということで半チャーハン。それぞれ単品。何度も来るうちにこのメニューに行き着き、その後はずっとこの組み合わせでした」

決まった食べ方があったんですよね。
「はい。肉野菜炒めに、必ず酢を3周以上は回しかけて食べていましたよ」

「当たり前ですが、結構酸っぱい!でもこれが美味しいんです。懐かしい吉田の味です。味がしっかりついて、ニンニクの効いたこの肉野菜炒めには、酢がとても合うんです。生前、この酢を回しかける間にも仕事のことを考えていたようで、かけ過ぎてむせながら食べていたこともありました。そんな事も思い出ですね」

どんな人でしたか。
「例えば食に関しても他の物事と一緒で、とにかく『メシは食べたか?』と、周りの人の食事のことも常に気にしていた人でした。愛犬のココちゃんの食事も一緒です。人間も動物もみんな食事はする。そこに優劣はないという気持ちをすごく持っていました」

いまも元気だったら、どうなっていたしょうね。
「ストイックなタイプなので、バリバリと政治家を続けていたかもしれないですし、常に『自分の次の人が出てこなければいけない』とも言っていたので、道を譲って違う立場で汗をかいていたかもしれませんね」

「汗はかきます 手柄は人に 責任はとります」が政治信条だった吉田。

閣僚になることはなく、入院中も病床から議員に指示を出し、最後までみんなの“幹事長”として、その政治信条を実践し通した70年の生涯だった。

そんな吉田博美が愛した、ちょっと酸っぱい肉野菜炒めと半チャーハン。
天国でもおなかいっぱい食べていることだろう。

ごちそうさまでした。