2019年10月15日

外務省 経済局政策課長 横地晃さん

あますっぱからい味??

2019年10月15日

外務省で、日本の経済外交を取りまとめる、経済局政策課長の横地晃さん(51)です。

都内のレストランで、中国の珍しい郷土料理を紹介してくれるというのですが…

真っ赤な香辛料がたっぷりかかった串刺し肉。唐辛子を使ったあえ物も。見るからに辛そーですが、これ、どこの地域の料理ですか?

「エンペンですね」

え、エンペン??

「中国にある『延辺朝鮮族自治州』です」

延辺朝鮮族自治州は、中国北東部にあり、自治州の人口の4割近く、75万人の朝鮮族が住んでいます。

看板や道路標識も、漢字とハングルが併記された独特の街並みなんです。

若手官僚時代に、中国に留学経験のある、いわゆる「チャイナ・スクール」の横地さん。実はこの延辺の大学にも留学したことがあるんだとか。

「北京に1年留学後、延辺で7か月間滞在しました。大学時代、朝鮮半島を研究していたので、朝鮮語やその文化にも触れたかったんです。でも、当初、外務省からは反対されましたよ。『中国語を学ぶのに適した場所じゃない』ってね…」

朝鮮族でもある料理長の鄭春福さんが、料理を説明してくれました。

まずは、きゅうりのあえ物。延辺料理って、あえ物の種類が豊富なんですって。

鄭さんによると、味付けは、「あますっぱからい」が特徴。聞き慣れない表現ですが、確かに、辛いだけでなく、甘みと酸味が利いた奥深い味わい。

そして、横地さんの一番の思い出の味が、この羊肉の串焼き。

「日本人留学生が5人だけだったので、週1回ぐらいは集まって、食べてましたね。当時は若かったから、食べ過ぎるほど食べちゃいましてね。懐かしい」

食欲をそそる香辛料の香りも相まって、ついつい、「生ビール下さーい!」と言いたくなりますね。

ちなみに、外務省で、延辺大学に留学したのは、後にも先にも横地さんただ1人なんだそうです。

「延辺大学では、多くの授業が朝鮮語でした。私も中国語を学びつつ、朝鮮族の学生に朝鮮語を教えてもらっていました。確かに、中国語を勉強する場所としては、おすすめはできないですね(笑)」

これまで、北京の大使館勤務や、外務省本省で、中国や朝鮮半島担当の経験もある横地さん。留学の経験はどう生かされましたか?

「キム・ジョンイル(金正日)総書記が、存命中、極秘で中国を訪問した際に、関連情報を入手したこともありました。それから、延辺近くの都市の幹部を日本に招いて、交流にもつながりました。留学していた縁が活用できた例ですね」

そんなお話で盛り上がっているところで、シメの料理になりました。それが、こちら、タッコム。

朝鮮人参で、もち米と鶏肉を炊いた、伝統的な薬膳料理です。同じく薬膳料理として有名な韓国の参鶏湯(サムゲタン)にどことなく似ているようです。

最後に、北京でもソウルでもなく、延辺に行ったからこそ学べたことは何でしたか?

「国や地域を複合的に見て理解する土台になっているかもしれませんね。漢民族とは違うし、同じ民族とはいえ、韓国とも北朝鮮とも違う。延辺の朝鮮族の人々は、各地に活動の場を広げ、その人たちがまた戻ってきて独自のアイデンティティーを作っているんです。そうした彼らの精神性や、歴史・文化に触れることで、韓国や北朝鮮に対する理解も深まったし、今後も理解の助けになると思っています」

「あますっぱからい」という味つけと同じように、留学時代の経験は、外交官としての仕事に、奥深さを与えてくれたということなんでしょうね。

ごちそうさまでした。