G7広島サミットの成果踏まえ外交努力継続へ

21日に閉幕したG7広島サミットについて、岸田総理大臣は、ウクライナのゼレンスキー大統領の出席も得て国際秩序を守り抜く決意やG7の連帯を示すことができたとしています。

今回打ち出したメッセージをもとに国際社会に行動を促し、ロシアによる侵攻の停止などの具体的な成果につなげたい考えです。

ロシアのウクライナ侵攻が続く中、3日間にわたって開かれたG7広島サミットでは、ロシアに対する制裁やウクライナ支援の継続・強化を確認したほか、G7としては初めて核軍縮に焦点をあてた成果文書を発表し、現実的なアプローチを通じて「核兵器のない世界」を目指していくことで一致しました。

また「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国を含む招待国との拡大会合を開き、こうした国々が直面する食料・エネルギー問題に協力して取り組んでいくことも確認しました。

さらに、最終日の21日はウクライナのゼレンスキー大統領のほか、欧米とロシアの間で中間的な立場をとってきたインドを含めた招待国も討議に加わり、力による一方的な現状変更を許さないことの重要性などを共有しました。

岸田総理大臣は、サミット閉幕後の記者会見で「ゼレンスキー大統領を招き、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を確認し、守り抜く決意を新たにするとのメッセージを、世界に向けて力強く示せたことは意義深い」と強調しました。

また岸田総理大臣は、21日夜、ゼレンスキー大統領と個別に会談し、日本からの追加支援として自衛隊の車両を提供することなどを伝え、今後、一層、緊密に連携していくことを確認しました。

岸田総理大臣としては、今後もことしのG7議長国として、今回のサミットで打ち出したメッセージをもとに国際社会に具体的な行動を促し、一刻も早いロシアによる侵攻の停止や核軍縮・不拡散体制の強化など、具体的な成果につなげていきたい考えです。

成果は、そして今後は

Q.ゼレンスキー大統領が参加したことに対する日本側の受けとめは。

A.今まさに侵攻を受けている国のリーダーとともに、被爆地・広島から、平和と安定や核軍縮の重要性などを発信できたことは画期的だと評価する声が大勢です。ある政府関係者は「これまで日本で開催したサミットの中では、最も強い発信力があったのではないか」と指摘しています。また、ゼレンスキー大統領のみならず、ウクライナ情勢で中間的な立場をとってきたインドなども加わった討議で、力による一方的な現状変更の試みを許さない立場を共有できたことも、大きな成果だとしています。その反面で「強すぎるメッセージは、ロシアや中国などを刺激し、かえって分断を深める懸念がある」という声もありまして、国際情勢への影響は冷静に見ていく必要がありそうです。

Q.厳しい戦況のなか来日したゼレンスキー大統領だが、滞在中の動向やメッセージは?

A.30時間という限られた滞在の中で、時折、疲れた様子を見せつつも、少しでも多くの支援を取り付けようと直接働きかけていました。ゼレンスキー大統領は滞在中、2つの討議に参加し、10人を超える首脳らと次々に会談を行うなど、精力的に外交を展開しました。このうち中立な立場を保つインドなどのグローバル・サウスと呼ばれる国の首脳も参加した討議では、いまウクライナで起きていることは世界全体の問題なんだと英語で訴えかけ、理解と支援を求めたといいます。そして、ロシアの激しい攻撃を受けて破壊されたウクライナの街をかつての広島と重ね合わせ、平和を取り戻し、いずれ復興を成し遂げると決意を新たにしていたのが印象的でした。

Q.一方、ロシアの反応は。

A.ロシア外務省は21日に声明を発表し、G7広島サミットについて「ウクライナの指導者を呼び込み広島のイベントをプロパガンダのショーに変えた」としてゼレンスキー大統領の参加を批判しました。そして、ゼレンスキー大統領がウクライナを不在にしているタイミングをねらったかのようにロシア国防省は東部の激戦地バフムトを完全に掌握したと発表しました。ウクライナ側は否定していますが、ロシアの通信社は、「プーチン大統領がバフムト解放作戦の完了を祝福した」と伝えています。ウクライナが近く大規模な反転攻勢に出るとみられるなか、ロシアとしては戦果ををアピールし、軍事侵攻を続ける姿勢を示すねらいがあるとみられます。

Q.岸田総理は、今後、どのような外交を展開しようという考えか。

A.国際社会に「行動」を促していく考えです。いかに力強いメッセージを発したとしても、いざ行動となると、各国それぞれの事情や地政学的な背景から、足並みが乱れがちなのが外交でもあります。実際、インドなどの招待国を招いて開かれた、21日の会合でも「立場は共有したが、ロシアを名指しで非難するのは避ける国もあった」と政府関係者は明かしています。岸田総理としては、G7など先進国の論理だけで物事が動かなくなっている現実も踏まえ、G20など、ほかの枠組みの国々とも連携強化を図り、ロシアによる侵攻の停止や、核軍縮・不拡散体制の強化など、具体的成果につなげる外交努力を続ける方針です。

経済安全保障の強化など実効性が課題に

21日に閉幕したG7広島サミットでは、ウクライナ侵攻や米中対立が続くなか、経済安全保障の強化やデジタル分野のルールづくりなどにG7として結束して取り組む姿勢を打ち出しました。

今後はその実効性が問われることになります。

経済分野では経済安全保障について、ウクライナ侵攻をきっかけにぜい弱性が浮き彫りとなった重要鉱物や半導体などのサプライチェーン=供給網を新興国や途上国とも協力して強化することで一致しました。

また、中国を念頭に禁輸などの措置で他国の政策や意思決定に影響を与えようとするいわゆる「経済的威圧」に対抗するため、 G7として被害を受けた国々を支援する「調整プラットフォーム」を立ち上げることで一致しました。

さらにデジタル分野では、ChatGPTなど生成AIの急速な普及を受けて、「広島AIプロセス」として信頼できるAIの普及に向けて閣僚級で議論し、年内に報告をまとめることで一致しました。

一方、気候・エネルギーの分野では、石炭火力発電の廃止時期の明示や、電気自動車の導入の数値目標を設定するよう求める欧米諸国と、慎重な立場の日本との間で調整が続きました。

しかし、ウクライナ侵攻や中国が影響力を拡大させるなか、G7の結束などを優先させようという思惑もあり、サミット直前に開かれた閣僚会合の内容を引き継ぐ形で決着しました。

議長国の日本としては、「グローバル・サウス」とも呼ばれる新興国や途上国とも連携して経済分野の課題に結束して取り組む姿勢を強く打ち出せたと評価していますが、今後はその実効性が問われることになります。

岸田首相 サミット閉幕会見 ウクライナとの連帯など成果を強調

G7広島サミットの閉幕にあたり議長を務めた岸田総理大臣は21日平和公園で記者会見を行いました。ウクライナのゼレンスキー大統領の対面での参加を得て、連帯を示せたことは意義深いなどと成果を強調しました。そして、今後も法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けた取り組みを主導していく決意を示しました。

岸田総理大臣は今回のサミットについて、「G7首脳と胸襟を開いて議論し『核兵器のない世界』に向けて取り組んでいく決意を改めて共有し、G7として初めてとなる核軍縮に焦点を当てた『広島ビジョン』を発出できた。被爆地を訪れ、被爆者の声を聞き、被爆の実相や平和を願う人々の想いに直接触れたG7首脳が、このような声明を出すことに歴史的な意義を感じる」と述べました。

そのうえで「夢想と理想は違う。理想には手が届く。われわれの子供たち、孫たち、子孫たちが、核兵器のない地球に暮らす理想に向かって、ここ広島から、きょうから、1人1人が広島の市民として、一歩一歩、現実的な歩みを進めていこう」と呼びかけましたそして、「力による現状変更のための核兵器による威嚇、ましてやその使用はあってはならない。核兵器を使わない、核兵器で脅さない。人類の生存に関わるこの根源的な命題を、今こそ問わなければならない」と述べました。

ウクライナ情勢をめぐっては「主権や領土一体性の尊重といった、先人が築き上げ、長年にわたり擁護してきた原則が挑戦を受ける真っ只中でサミットは開催された。ゼレンスキー大統領を招き、G7とウクライナの揺るぎない連帯を示すとともにG7として、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を確認し、これを守り抜く決意を新たにするとのメッセージを、世界に向けて力強く示せたことは意義深い」と述べました。

その上で「G7として、1日も早くウクライナに公正かつ永続的な平和をもたらすべく努力していく」と述べ、ロシアへの制裁や制裁回避を防ぐ取り組みを強化することで一致したと明らかにしました。
一方で、岸田総理大臣は、「世界は今、ウクライナ侵略に加えて気候変動やパンデミックなど、複合的な危機に直面し『グローバル・サウス』や脆弱な立場の人々が甚大な影響を受けている。こうした国や人の声に耳を傾け喫緊の幅広い課題に協力する姿勢を示さないことには、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くとの訴えも空虚なものとなりかねない」と述べました。

その上で「こうした国々とG7を橋渡しすべく対応しなければならないさまざまな課題について真剣な議論を行った」と今回のサミットの意義を説明しました。

また、喫緊の課題である食料危機に、G7と招待国が連帯して取り組む行動声明をまとめたほか、気候変動問題について各国の事情に応じた多様な道筋で脱炭素社会を目指す認識を共有できたという認識を示しました。

さらに新型コロナが収束する中で、次の感染症危機に備えるための連帯も確認したとした上で、国際保健分野で日本として、官民合わせて75億ドル規模の貢献を行う意向を明らかにしました。

その上で「世界の諸課題の解決に向けた貢献は、常に、G7の中核的な使命であり続けてきた。今こそ、G7としてさまざまな課題に直面する国際的なパートナーの声を聞き連携しつつ、課題にきめ細かく対応していく決意だ」と述べました。

一方、世界経済をめぐっては、ロシアのウクライナ侵攻が長期化する中、インフレ圧力などの問題が深刻だとして、サミットの議論を踏まえ、国際社会全体の経済的強じん性と経済安全保障の強化の取り組みを推進していく考えを示しました。

さらに、中国への対応をめぐっては「率直な対話を行い懸念を直接伝える重要性やグローバルな課題などについて協働する必要性で一致するとともに、国際社会で責任ある一員として行動すべきことや、対話を通じて建設的かつ安定的な関係を構築する用意があることなどについて認識を共有した」と述べました。

最後に「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜き、議長年の務めをしっかりと果たしていく。『グルーバル・サウス』を含めた国際的なパートナーと連携する機会も続く。ここ広島での充実した議論を引き継ぎ、さまざまな課題をともに解決するべく、これらの国々との連携強化を主導していく」と決意を示しました。

予定された質問後 呼び止められ

一方、会見で、岸田総理大臣は、予定されていた質問に答えて、会場を離れようとした際、記者から「核軍縮ビジョンについて教えてください。総理、逃げるんですか」と呼び止められました。

このため岸田総理大臣は演台に戻り、核保有国に、透明性の向上を促すことなどを明記した核廃絶への日本の行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」の内容を詳しく説明しました。

その上で「G7の歴史上初めて独立文書としてまとめられた成果文書の中で『ヒロシマ・アクション・プラン』を高く評価し、その考え方に基づいてG7で努力していくということを確認した。こうした考え方に基づいて努力を続けていきたい」と述べました。

「メッセージをより力強く国際社会に発信できた」

岸田総理大臣は、記者会見で「ロシアによるウクライナ侵略に対し、国民の先頭に立って立ち向かうゼレンスキー大統領にも議論に参加してもらい、メッセージをより力強く国際社会に発信することができたことは非常に有意義だった」と述べました。

また招待国の首脳らを交えたセッションについて、「各国からきたんのない意見が出され、実質的な意見交換が行われた。予定の時間を大幅に越え、希望する発言者すべてから発言をいただき議論を深めた」と振り返りました。

さらに「ロシアによる核の威嚇が行われる中、ゼレンスキー大統領を迎え、議論を行ったことは力による現状変更のための核兵器による威嚇、ましてやその使用はあってはならないというメッセージを緊迫感を持って発信することになった」と述べました。

「ロシア制裁 第三国を通じたう回、回避を防ぐことが重要」

岸田総理大臣は、記者会見で「ロシアに対する制裁をいっそう効果的にするためには、第三国を通じた制裁のう回、回避を防ぐことが重要だ。G7を超えた多くの国に協力を求めていく必要があり、今回、第三国への働きかけを継続していくことを確認した」と述べました。

その上で、ロシアに協力的な中国企業などへの対応について「日本としても、どのような措置をとることが最も効果的なのかという観点に立って対応を考えていかなければならない」と述べました。

「北朝鮮の完全な非核化を目指していく」

岸田総理大臣は、記者会見で、サミットでの討議について「私から北朝鮮が前例のない頻度と新たな態様で弾道ミサイルの発射などを行っており、深刻に懸念する旨を述べ、G7として北朝鮮によるたび重なる弾道ミサイル発射を強く非難した。G7を含む国際社会と協力しながら関連する国連安保理決議の完全な履行を進め、北朝鮮の完全な非核化を目指していく」と述べました。

「いま解散・総選挙については考えていない」

岸田総理大臣は記者会見で、野党が内閣不信任決議案を提出した場合には、衆議院解散の大義になると考えるかと問われ「いま重要な政策課題に結果を出すことに最優先で取り組んでいる。そうした取り組みを続けているところであり、いま解散・総選挙については考えていない。この考えは従来と変わっていない」と述べました。