【解説】ここがポイント!G7 原爆資料館訪問の狙いは?成果は?

G7広島サミットが5月19日に開幕。議長国・日本は、ロシアや中国の動向を踏まえ、法の支配に基づく国際秩序の維持・強化に向けてG7の結束を示したい考えです。また被爆地・広島でのサミットで、核廃絶に向けてどのようなメッセージを打ち出せるのかも焦点です。
今回のサミットについて解説します。

Q.そもそも、なぜ広島が開催地になった?

A.岸田総理大臣の地元であり、被爆地だからというのが大きな理由です。
衆議院広島1区選出の岸田総理大臣は「核廃絶」をライフワークに掲げてきました。それだけに、みずからが議長を務めるサミットでは、被爆地・広島から「核兵器のない世界」の実現に向けたメッセージを発したいという強い思いがあり、広島開催は、総理大臣に就任した時から温め続けてきました。

岸田総理大臣は、去年5月に行われた日米首脳会談でバイデン大統領に広島開催の方針を説明しました。
この際、岸田総理大臣は、ロシアによるウクライナ侵攻や、核兵器の使用リスクが高まったことを受けて「唯一の戦争被爆国である日本の総理大臣として、広島ほど平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所はないと考えている」と、理由を説明しました。

また、サミットを前に行ったNHKのインタビューでは「原爆で壊滅的な被害を受け、その後、力強く復興を遂げた、この広島という場所にG7をはじめ世界のリーダーが集まって、平和や安定について議論する。この意味は大変大きい」とも強調しました。

Q.広島の原爆資料館に各国首脳を招いた狙いは?

A.岸田総理大臣は、サミットの広島開催にあたって、G7の首脳を広島の平和公園に招き、特に、原爆資料館を訪問してもらうことに強くこだわってきました。原爆資料館に展示されている原爆の惨状を伝える展示物を見てもらい、被爆の実相に触れてもらうことで、核のない世界の実現に向けた取り組みに、各国の共感を得ることが狙いです。

岸田総理大臣は、外務大臣時代の2016年、オバマ大統領がアメリカの現職大統領として初めて広島を訪問した際には、その実現に尽力し、安倍総理大臣とともに原爆資料館などで被害の実態を説明しました。

同じ年の伊勢志摩サミットに伴う外相会合も広島で開催され、各国の外相を平和公園に招き、原爆資料館も案内しました。核保有国の現職の外相が平和公園を訪れたのは、この時が初めてで、アメリカの当時のケリー国務長官の訪問が、オバマ大統領の広島訪問にもつながったとされています。

首脳らが視察を終えたあと、松野官房長官は記者会見で「G7首脳に被爆の実相に効果的に触れてもらいたいとの考えのもと、原爆資料館の主な展示テーマに即した形で重要な展示品を見ていただけるよう準備した。広島市の平和公園にある『原爆の子の像』のモデル、佐々木禎子さんが病床で折り続けた折り鶴『禎子の鶴』のストーリーを知って頂き、何点かの展示品について岸田総理大臣からも説明を行った」と明らかにしました。

Q.核保有国が原爆資料館を訪れるハードルは?

A.岸田総理大臣は、G7の首脳らを原爆資料館に招くことに強いこだわりを持っていたが、その実現は容易ではありませんでした。特に、G7メンバー国のうち、広島・長崎に原爆を投じたアメリカをはじめ、イギリス、フランスは核保有国です。外務省の打診に当初は難色を示したということです。

政府関係者は、原爆資料館をこうした首脳らが訪れれば、核兵器の抑止力を必要とし、正当化している国の立場が揺らぎかねないという懸念があるのではないかと指摘していました。

こうした中で、日本が交渉の中で強調したのが、ウクライナ情勢です。ロシアが核兵器使用の威嚇を行う中で、核廃絶に向けた第一歩として、核による威嚇は認められないというメッセージを発する場にしたいと強調して、各国に働きかけたといいます。

Q.サミットの成果はなにが?

A.今回のサミットでは、首脳宣言とは別に、核軍縮に焦点を当てた初めての声明が出される予定で、その案が明らかになりました。

声明案の冒頭でG7首脳らは、原爆が投下された広島と長崎の人々が経験した、かつてない破滅と、極めて甚大で非人道的な苦難を想起させる広島に集い「核兵器のない世界」の実現に向けた決意を再確認するとしています。
そして、原爆投下以降、核兵器が使用されていないことの重要性を強調した上で、ウクライナ侵攻を続けるロシアによる無責任な核の威嚇は危険で受け入れられないと非難しています。

また、中国の核戦力増強への懸念を示すとともに、透明性を確保していくことが重要だと指摘し、核戦力の客観的データを公表していない核保有国にデータの公表を求めています。

そして世界全体で核兵器を減らし続けていくため、NPT=核拡散防止条約の体制を堅持するとしたうえで、岸田総理大臣が表明した核廃絶に向けた日本の行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」を歓迎するとしています。

このほか、CTBT=包括的核実験禁止条約の早期発効が喫緊の課題だと指摘します。そして「われわれが望む世界の実現に向け、道はいかに狭かろうとも世界的な取り組みが必要だ」と強調し、世界各国のリーダーや若者に広島・長崎への訪問を呼びかけています。

Q.ウクライナのゼレンスキー大統領が来日へ。日本側の受け止めは?

A.議長の岸田総理大臣は、サミットの討議の開始にあたって、全体の大きなテーマは世界を分断と対立ではなく、協調を実現することだと訴えました。国際社会の分断と対立を生んでいる大きな要因の1つが、ロシアのウクライナ侵攻であり、こうした事態への対応がサミットの最大の焦点といえます。

こうした中、ゼレンスキー大統領が対面で討議に加われば、日本政府としては、いっそう有意義で具体的な議論が行えると受け止めているとみられます。