席停止処分は不当」
のどあめを口に質疑の市議

熊本市議会でかぜを理由に、のどあめを口に含んだまま質疑をした緒方夕佳議員が出席停止処分を受けた問題で、熊本市の市民団体が「懲罰は法や規則を恣意(しい)的に解釈したものだ」などとして、市議会に対し詳しい説明を求める公開質問状を、9日提出しました。緒方議員はNHKの取材に応じ、「出席停止処分は非常に不当だ」と述べて、市議会の対応を強く批判しました。

この問題は、熊本市議会の緒方夕佳議員が先月28日、市議会閉会日の本会議で、かぜを理由にのどあめを口に含んだまま質疑を行い、「議員は議会の品位を重んじなければならない」という規定に抵触するおそれがあると指摘されて、審議が中断したものです。

その後、市議会の議会運営委員会が謝罪を求めましたが、緒方議員は「聞き苦しくならないよう薬用のどあめをなめていただけだ」と謝罪を拒否したため、緒方議員は出席停止処分を受けました。

この問題について、緒方議員はNHKの取材に応じ、「振り返ってみると、今回の問題は、のどあめをなめたかや謝罪をしたかどうかではなく、男性優位の地方議会で女性が現状を変えようとする中で起きた出来事だ」と述べました。

また、この問題で議会がおよそ8時間、中断したことについては「非常に残念だった」と述べるにとどめました。

そのうえで、出席停止処分について「議員が市民の意見を代弁するという市民の権利を剥奪するもので、非常に不当だ」と述べ、市議会の対応を強く批判しました。

緒方市議とは

緒方議員は、国連開発計画の職員などを経て、3年前の熊本市議会議員選挙で「育児や介護、観光施策の充実」を訴えて、無所属で初当選しました。

議員活動では、女性の働きやすい環境づくりを訴え、2人の子どもを育てる母親として、同世代の女性らと「子育てしやすい熊本を実現する会」を設立し、子育ての課題解消などに取り組んできました。

そして、去年11月の熊本市議会の開会日に、当時、生後7か月だった長男を議場に連れてきて、議会の規則に反するとして退席を求められ、議会の開始が40分遅れたことから、議長から厳重注意処分を受けました。

市議会での経緯

この問題が起きた際、緒方議員は、みずからが紹介議員となって市民団体が提出した議会基本条例の制定などを求める7つの請願が、市議会の議会運営委員会でいずれも不採択となった経緯や理由を質問していました。

緒方議員の質問の途中、議場にいた議員から次第に「同じような質問をするな」などとヤジが飛ぶようになり、質問が1時間近く続いたあと、緒方議員が演壇でのどあめを口に含んだ行為が指摘されて、およそ8時間にわたり審議が中断しました。

原口議会運営委員長「苦渋の決断」

一方、一連の議会の対応について、熊本市議会の原口亮治議会運営委員長は「今回の問題は、議会対女性議員という構図ではなく、あくまで、一般的な社会常識と議員としての礼儀・礼節の問題で、相談もせずに演壇でのどあめをなめたのは不適切だ。また、緒方議員もすぐに謝れば済んだことで、懲罰動議が提出され出席停止処分にまで至ったのは、議会としても苦渋の決断で、大変残念だ。緒方議員は礼儀にのっとり、議員活動に励んでほしい」と話しています。

市民団体が公開質問状

9日、市民団体の「熊本自治基本条例をより良くする会」のメンバーが市議会の事務局長と面会し、議長に宛てた公開質問状を提出しました。

市民団体側は「今回の懲罰は『議会の品位』に関する法や規則を恣意(しい)的に解釈し、地方自治法に反していて正当性に疑いが生じている」としたうえで、「議会の品位を損ねる」とする規則上の根拠や、出席停止という懲罰の適切性などについて、今月19日までに詳しく回答するよう求めています。

市民団体の浦崎勇一事務局長は「出席停止処分により、市民の請願の権利が奪われてしまった。市民のための議会になるようきちんと回答してほしい」と話しています。

ネット上ではさまざまな声

先月、熊本市議会の本会議でかぜを理由にのどあめを口に含んだまま質疑を行った緒方夕佳議員が出席停止処分を受けたことをめぐり、ネット上では緒方議員や市議会に対し、さまざまな声が出ています。

緒方議員に対し、ほかの議員からヤジが上がり、8時間にわたって審議が中断したことについて、ネット上では、「(ほかの議員の)心が狭い」、「税金のむだ」といった意見のほか、「飛び交うヤジや議長のやり方のどこに議会の品位があるのか」、「あめをなめただけで議会が8時間もストップするのは異常」などといった指摘もあります。

一方、「発言する予定がわかっているのだから、事前に病院に行って、せき止めの薬などを処方してもらえばいいのに」、「質疑をする時ぐらい、あめを口から出すのがマナー」などと緒方議員の姿勢を疑問視する声も出ています。

また、「どちらの肩も持つ気になれない」、「どっちもどっち」など、緒方議員と市議会双方に対し、批判的な意見もありました。

海外メディアでも取り上げられる

今回、熊本市議会で起きた出来事は、海外のメディアでも取り上げられ、話題となっています。

このうち、イギリスの有力紙「ガーディアン」は、緒方議員が去年11月に当時、生後7か月だった長男を議場に連れてきて退席を求められたことを引き合いに、「今度は、のどあめをなめて退席に」という見出しで、今回の経緯を報じています。

また、イギリスの新聞「テレグラフ」は、「彼女の何の問題もない行為によって、本会議が8時間も延長された」とか、「議会内における飲食に関する規則がないにもかかわらず、あめをなめたことで、『(市議会の)品位の尊重に違反する』と言い張った議員もいた」と批判的に伝えています。

さらに、「テレグラフ」は、同じ記事の中で日本の社会についても触れ、「安倍総理大臣が『女性活躍』を強く押し進めているにもかかわらず、日本はほかの先進国に比べて職場の男女平等がはるかに遅れている」とも指摘しています。

専門家「極めてさまつな話」

地方議会制度に詳しい山梨学院大学の江藤俊昭教授は「住民に開かれた議会を目指すうえで、空間的に自由に議論できることが大事で、議員があめ玉をなめたかどうかが問題になるのは、極めてさまつな話だ」と指摘しています。

そのうえで、江藤教授は海外の地方議会の例を挙げ、「カナダには、自由に飲み物を飲んだり、マフィンを食べたりしながら議論する地方議会もあり、自由な議論というのはそういうところから生まれる。議会が議論を行うための空間と運営のしかたを抜本的に変えていく必要がある。住民のためになるような議事をどうやっていくのか、今回の問題をきっかけに議論してもらいたい」と話しています。

また、熊本市議会で指摘された「議会の品位」について、江藤教授は「議員は住民に選ばれた代表なので、みんな『品位がある人』のはずだが、時々、寝てしまったり、議事を妨害したりすることもある。何が『品位』なのか、もう一度、本質を議論すべきではないか」と話しています。