ウォーホル作品3億円で購入「説明が大変な作品を選んだ」

3億円の購入に波紋を広げるアンディ・ウォーホル作品。
税金からのこの支出は適切だったのか、住民の納得を得るためには何が必要か。
行政支出の効率的な使い方や無駄遣いに詳しい慶應義塾大学大学院の太田康広教授に聞いた。

【リンク】特集 ウォーホル作品3億円で購入に波紋
【リンク】作品購入の責任者 鳥取県教育委員会 美術振興監 尾崎信一郎さんに聞く

(プロフィール)
太田康広 慶應義塾大学大学院教授。
主な研究テーマはコーポレート・ガバナンス。国の事業に無駄がないか検証する「行政事業レビュー」に外部有識者として初回から携わっている。

自治体がポップアートを購入する難しさ

Q.美術品を自治体が購入することについてどう考える?
A.印象派などの分かりやすい絵画であれば住民の理解を得やすい。
しかし、ポップアートや現代美術というのは、その背景を説明することで芸術的な価値が高まっているという面があるので、一見すると一般の人には分かりづらく、説明が大変な作品を選んでしまった。

Q.この支出の透明性は?
A.ウォーホル自身は評価の定まった芸術家であり、芸術作品には市場価格があるので、不透明性はないと思う。
著しく高い値段で買ってしまったということでなければ、基本的に販売して回収もできるので、買ったこと自体は取り返しがつかないことではない。
ただ、適切・妥当な支出であったかどうかという議論は別だ。

Q.適切・妥当な支出だった?

A.そのことを考える際には、基本的にその自治体にどれぐらい財政的余力があるかも関係してくる。
鳥取県の人口は50数万人と比較的、小規模な県の1つであることは間違いなく、自主財源もさほど多くない。地方交付税として国から受け取ったものの支出としてこの作品が適切であったかは当然検討の対象になってくる。
一点豪華主義で買ってしまい、鳥取県の予算の規模からいっても、もう少し慎重な検討があってもよかったのではないか。
鳥取県がすでにポップアートの中心地として日本国中で知られているとか、「地域の町おこし、村おこしはポップアートでいくんだ」という、地元のコンセンサスがあればだいぶ違ったのではないか。そういうものが作品の購入に至るところまで熟していなかったということだろう。

住民に説明することの難しさ

Q.住民への説明について、購入前に行うと作品の価格がつり上がるという事情があったが、説明のあり方は?
A.個別の作品で「これを買いたい」ということを事前に開示するとオークション上、不利になるというのは全くその通りだが、県立美術館をつくる段階で「この美術館はこの方針でいくんだ」「こういう作品を中心に集めていくんだ」ということについての十分な説明や理解はあってもよかったのではないか。

ミレー作品購入した山梨県立美術館は

Q.山梨県立美術館では、ミレーの作品を購入した当初、住民の賛否が分かれたが、いまでは「ミレーの美術館」に。この事例とは何が違う?
A.ミレーは農民として生きた芸術家なので、比較的農業が盛んな地域では住民の納得が得られやすいと思う。あとはミレーの作品を山梨県ほどの点数で持っている所は世界的にみても非常にまれで、特色も非常に出せていてバランスのよい方針だった。
鳥取県のケースはポップアートというものがどれぐらい県に根付いているのか、特に鳥取県民の納得がどれぐらい得られるのかということでいうと、難しい作品を選んだように思う。

美術館が成功するには

Q.今後の行政に求められる対応は?

A.ポップアートが鳥取県にふさわしいかどうかは、最終的には住民が判断することだと思うが、ポップアート中心の美術館にするのか、もっと鳥取県の土壌、風土にあった歴史や伝統を踏まえた美術館にするのか、基本に立ち返り、そこから組み立て直す必要もあるのではないか。

一通りの分野の作品を集めたいという考え方もあるかと思うが、予算が限られていれば、特定分野に集中投資をして、エッジの効いた個性のはっきりした美術館にするのが適切で、その方が遠方からも集客できる。

今回の件がニュースになり話題になって一定の集客にはつながると思うが、美術館は1週間や2週間のイベントではないので、長期の作品収集の方針を決めた方がよい。
住民に丁寧に説明しながら方針に沿った作品を適切に集めていくのが美術館の成功になるのではないか。