韓国 梨泰院 転倒事故 日本人も死亡 過去にも国内外で群衆事故

日本人2人含む154人死亡 133人けが

韓国ソウルの繁華街のイテウォン(梨泰院)で10月29日夜遅く、ハロウィーンを前に仮装した大勢の若者が密集し、折り重なるようにして倒れ154人が死亡した事故で死者に日本人が2人含まれていたことが分かりました。日本の政府関係者が明らかにしました。

韓国転倒事故 亡くなった1人は北海道出身の20代女性 留学中に
韓国政府などによりますと、ソウルの繁華街イテウォン(梨泰院)で29日午後10時すぎ、大勢の人が折り重なるようにして倒れた事故では、これまでに154人の死亡が確認されました。

このうち140人余りは身元が判明しているということです。

また、133人がけがをし、このうち37人は重傷だとしています。

日本政府関係者によりますと、死者に日本人2人が含まれていることが分かりました。

関係者によりますと10代の女性が1人、20代の女性が1人だということです。

今回の事故で死傷者の多くは10代と20代の若者で、現場では、当時、ハロウィーンを前に仮装などをした大勢の若者が狭い路地に密集し、地元メディアは、大勢の人が坂の上の方から次々と折り重なるように倒れていったという目撃者の証言を伝えています。

韓国の通信社、連合ニュースは、事故当時、現場で救命活動に当たった医師の話として、死亡した人の多くは窒息が死因だったとしたうえで「ほとんどは心臓マッサージをしても蘇生できない状態だった」と振り返ったと報じています。

警察は、およそ500人規模の捜査本部を設置し、引き続き事故の経緯や原因を捜査するとともに、遺族やけが人への対応などにあたっています。

事故発生当初 現場の様子は…

現場では、救急隊員たちがストレッチャーに乗せた人たちを次々と搬送していたほか、災害や事故が発生した際に派遣される専門の医療チームも事故に巻き込まれた人たちの手当てを行っていました。

現場は、バーなどの飲食店がある狭い路地で、坂になっています。

イテウォンはここ数年、ハロウィーンの時期に仮装などをした若者でにぎわっていて、ことしは、新型コロナウイルスの規制の緩和を受けて3年ぶりに大勢の若者が繰り出し、地元メディアによりますと29日夜は、およそ10万人が訪れたとみられるということです。

地元メディアは、大勢の人が坂の上の方から次々と折り重なるように倒れていったという目撃者の証言も伝えていて、警察は、現場の状況などを調べています。

現場近くにいた20代の男性は「大勢の人が倒れていて、救急隊員などが心臓マッサージを行っていました」と事故直後の様子を話していました。

また、20代の会社員の男性は「救急隊員たちが現場に来て、亡くなったとみられる人たちの対応にあたり、阿鼻叫喚ともいえる状況でした」と話していました。

事故現場付近には、イ・サンミン(李祥敏)行政安全相も訪れ、現場の状況を確認する姿も見られました。

事故現場 地下鉄「イテウォン駅」出てすぐ細い坂道

消防や韓国メディアによりますと事故現場は、地下鉄のイテウォン駅を出てすぐの、飲食店とホテルに挟まれた狭い通りです。幅4メートルほどの細い坂道で、長さは45メートル程度です。

事故が起きた10月29日午後10時15分ごろ、現場やその周辺には数万人が集まっていたとみられ、突然、坂の上の方から次々と折り重なるように人々が倒れていったということです。

公共放送のKBSが放送した当時の現場付近の映像ではすし詰めになった人たちの波が行ったり来たりしている様子も確認できます。

現場にいた人は韓国メディアに対し「みんなで『押さないで』と大きな掛け声をあげたが突然、悲鳴に変わった」と混乱した様子を語ったほか「5、6人が折り重なっていた」という証言も出ています。

ただ、大音量で音楽が流れていたため、こうした掛け声が聞こえにくかったとも伝えられています。

また、人が密集した原因については地下鉄の駅を出て繁華街に向かうため坂を上がる人と、繁華街から駅の方向へと下りる人の動線が重なったためだという見方が出ています。

事故発生時には、壁をよじ登ったり、飲食店に駆け込んだりして難を逃れた人もいたということです。

発生から1時間で消防には「十数人が下敷きになっている」などの通報がおよそ80件寄せられたといいます。

KBSは「人混みや道路が混み合い、救助隊がすぐに現場にたどりつくのが難しかったうえに到着したあともあまりにも対応すべき人が多かったため、時間がかかった」と伝えています。

消防は30日午前、事故の原因について「調査中だ」と説明していて、今後、警察とともに詳しく調べることにしています。

現場を通った日本人女性「身動き取れない状態」

事故が起きる3時間ほど前の現地時間の29日午後7時ごろ、現場の路地を通ったというソウル在住の20代の日本人女性に話を聞きました。

その時について女性は「人がとても多く、身動きも取れない状態でした。ふだんなら最寄り駅から歩いて5分ほどで着く場所まで、20分ほどかかりました。現場は原宿の竹下通りよりも狭いくらいで、満員電車以上の混雑でした。前後から人に押されて体が圧迫され、一時はとても息苦しくなりました。周りでは『危ないから店に入ろう』などという声も聞こえました」と話しました。

女性はその後、現場近くにある友人の飲食店を手伝い、店内にいたということで、午後10時すぎに外を見ると、辺りが騒然としていて、ぐったりした状態の人が担がれるなどして運ばれていたということです。

女性は「真っ青な顔をした人や全身に力が入っていない人が男女問わず20人ほど運ばれていて、大きな事故が起きたのだと思いました。大声で『道をあけろ』とか『医者や看護師はいないか』と叫ぶ声が聞こえ、心臓マッサージをしている様子が見えました。自分も通った場所で悲惨な悲しい事故が起きて、胸が痛いです」と話しました。

海外では過去にも大勢の人が亡くなる事故

海外では過去にも、人が密集して、折り重なるように倒れて大勢の人が亡くなる事故が起きています。

今月1日、インドネシアの東ジャワ州マラン県でプロサッカーリーグの試合後に大規模な混乱が起きて地元の保健当局によりますとこれまでに135人が死亡しました。

グラウンドに入り込んだ観客に対し、警察が催涙ガスを発射したことが主な原因で、観客がパニック状態になり、出口に集中した人たちが折り重なるように倒れるなどしました。

また、2015年9月にはサウジアラビア西部にある聖地メッカの郊外で、イスラム教徒の大巡礼・ハッジのために訪れていた大勢の巡礼者が折り重なるように倒れる事故が起きました。

サウジアラビア政府の発表では769人が死亡、一部のメディアは各国が発表した情報を取りまとめて死者数が1000人を超えたと伝えました。

さらに2010年11月、カンボジアの首都プノンペンでは、祭りの見物に来ていた大勢の人たちが橋の上などで折り重なるように倒れ、ロイター通信によりますと少なくとも350人が死亡したということです。

群集事故 最も危険な「群集雪崩」

人が多く集まっている場所で多くの人が倒れて亡くなったりけがをしたりするのが「群集事故」です。

韓国での事故の詳しい原因はまだわかっていませんが、その中でも最も危険なのが「群集雪崩」です。全く身動きがとれないほど人が密集した時、何かのきっかけで一気に多くの人が崩れるように倒れて折り重なります。密集した状況で過度に体が圧迫され、呼吸すらしづらい状況になります。

過去には国内外でも事故が起きています。2001年、兵庫県明石市の歩道橋で花火大会の見物客が折り重なって倒れ、多くの犠牲者やけが人がでました。

また、海外でも宗教の巡礼に訪れた場所で多数の死者が出る事故などが起きています。

群集雪崩に巻き込まれた場合は抵抗することがほぼできない状況です。こうした事故から身を守るためには、人が密集している狭い路地や駅の前、人の流れが食い違うような場所などをあらかじめ予想して近づかないようにするしかありません。

群集事故に詳しい専門家「同じ方向に人が倒れていく現象か」

ソウルで起きた転倒事故について、都市防災が専門で群集事故について詳しい東京大学大学院の廣井悠教授は「現場の詳しい状況はまだ明らかになっていないが、今回の事故は群集事故としては極めて大規模なもので、近年では2015年のサウジアラビア・メッカや、2010年のカンボジア・プノンペンの事故に次ぐ規模ではないか。群集事故にはさまざまなパターンがあるが、今回は狭い空間と坂道で起きたということで、1人の転倒などをきっかけに同じ方向に人が倒れていく現象が発生した可能性がある。1平方メートル当たり3人から5人程度以上の密度の高い空間で発生する現象で、誰かが段差につまずくなど、何らかのきっかけを引き金に同一方向に転倒が波及していく。人が人の上に折り重なって呼吸困難になったり胸が押しつぶされたりするため、特に体の小さな子どもや高齢者にとっては危険な現象だ」と指摘します。

過密空間はリスクあることを知って

廣井教授によりますと群集事故は日本でも起きていて、2001年には兵庫県明石市の歩道橋で花火大会の見物客11人が死亡したほか、1960年には横浜市で歌謡ショーの公開録音に多くの人が集まり、12人が死亡したということです。

そのうえで、日本でもハロウィーンなど多くの人が集まる機会があることを踏まえ、人が密集する『過密空間』にはリスクがあることを知る必要があると指摘します。

廣井教授は「狭い路地などボトルネックと呼ばれる構造や坂道などの状況に加え、誘導員が対応できる人数を超えたり誰かが走り出したりするという状況になると群集事故が起こりやすいと言われている。単に過密な状態だけで起きることは少なく、予想以上の人出だったり人々が興奮状態になると発生のリスクが高まる。人が過密になる場所には行かないことが有効だが、行かざるを得なかったり人が集まっているところを目的にしたりしている場合には、あらかじめ決められたルールを守り、落ち着いて行動することが非常に重要だ」と話しています。

ユン大統領「起きてはならない悲劇」

事故から一夜明け、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は現場を視察したほか、大統領府で記者団に対し「本当にひどい事故で、起きてはならない悲劇だ。亡くなった方のご冥福を祈るとともに、けがをした方が早く回復するよう祈る」と述べました。

そのうえで、「事故の原因を徹底的に調査し、今後同じような事故が起きないよう、抜本的な対策を講じる」と述べ、今後、一定の間、国家としての哀悼期間に定め、事故対応に全力を尽くす考えを強調しました。

韓国メディアは、地元の警察が捜査本部を設置し、目撃者などから話を聞いて事故が起きた経緯や原因を調べるとともに、管轄する自治体が事故を防ぐための措置を事前にとったのかどうかも調査すると伝えています。

外務省 対策室を設置 亡くなった人の家族支援へ

日本人2人の死亡が確認されたことを受けて、外務省は30日午後、安藤領事局長をトップとする対策室を設置し、亡くなった人の家族への支援を行うとともに、引き続き情報収集にあたっています。

また韓国 ソウルの日本大使館に相星大使をトップとする対策本部を設置して対応にあたっています。

岸田首相 「深い悲しみを覚える」ツイッターに投稿

岸田総理大臣はみずからのツイッターに「ソウル・イテウォンで発生した大変痛ましい事故により、未来ある若者をはじめとする多くの尊い命が失われたことに大きな衝撃を受け、深い悲しみを覚えています。犠牲になられた方々やご遺族に対し心からの哀悼の意を表すとともに、負傷された方々の1日も早い快復をお祈りいたします」と投稿しました。

米 バイデン大統領「韓国の人々と悲しみを共有」声明発表

アメリカのバイデン大統領は29日、声明を発表し「愛する人々を亡くした遺族に深い哀悼の意を表する。私たちは韓国の人々と悲しみを共有している。この悲劇的な時に、アメリカは韓国の人々と共にある」と弔意を示しました。