ルガ銀行「多くの行員が
偽装関与」第三者委が認定

7日公表されたスルガ銀行の第三者委員会の調査結果では、融資の審査を通りやすくするための書類の偽装などについて、「支店長レベルが一部の偽装行為に直接関与するなど、多くの行員が偽装に関与していた」として、組織的に不正が行われていたと認定しました。

偽装の件数については、2014年以降の一定の融資を調べた調査で延べ795件に上ったとして、「投資用不動産ローンの全般にまん延していた」としました。

不正が広がった原因については、融資に疑問を示した審査の担当者に営業担当の幹部が威圧的に反論して融資を実行させるなど、審査体制に問題があったこと、営業現場の実態を考慮しない厳しい営業ノルマがあったことなどを挙げました。

そのうえで創業家出身の岡野光喜会長について、取締役会などで十分な対応を取っていなかったことが一部、法令違反にあたるとし、最も重い経営責任があると指摘しました。

調査結果を受けてスルガ銀行は、経営責任を明らかにするため、7日付けで岡野会長と米山明広社長を含む5人の取締役が辞任したと発表しました。

スルガ銀行は個人向けの融資に特化する独自のビジネスモデルで高い収益を上げてきましたが、その陰で組織的に不正が広がっていたことになり、銀行の経営体制が厳しく問われる事態になりました。

第三者委が認定した不正は

スルガ銀行の第三者委員会が認定した主な不正は次のとおりです。

まず、融資の書類の改ざんは、シェアハウス関連だけでなく、アパートなどの投資用不動産向け融資全般に広がっていたとしました。

具体的には、手元の資金や収入が基準に満たない顧客にも融資を行うため、収入を実際よりも多く見せるように預金通帳の残高や源泉徴収などの資料を偽装していたということです。

また、より多額の融資を実行するため、不動産の売買契約書について、本物とは別に、売買価格を実際より高くした偽の契約書をつくり銀行に提出する、「二重契約」と呼ばれる不正もあったとしています。

さらに、シェアハウス向けなどの融資を行う際に、顧客が望んでいないのに、より金利の高いフリーローンと呼ばれる別のローンを抱き合わせで組むよう求めていたとも指摘しています。

第三者委員会はこうした不正は一部では支店長レベルが直接関与するなど、組織的に行われたとしています。

また、第三者委員会が行員を対象に行ったアンケートでは、「10件あれば10件とも、どこかしらに不正があった」とか、「不正が全くない案件は全体の1%あったかなかったか、そのレベル」などといった回答があり、不正が銀行全体にまん延し、法令順守の意識が極端に欠如していたと厳しく指摘しました。

第三者委は経営者の責任 厳しく指摘

スルガ銀行によるずさんな融資について調査を行った第三者委員会の委員長の中村直人弁護士は、多くの行員が関与していたことを認定したうえで、「大切な現場の情報が全く経営陣に届かない、情報の断絶が起きていた。営業を担当する専務執行役員が分隊長のように現場で暴れ回っていたが、ほかに誰も文句を言える人がいなかった。今回の問題のいちばんの責任は無責任な営業推進体制をつくった経営陣にある」と述べて経営陣の責任を厳しく指摘しました。

実際の書類の改ざんは

問題の融資では、シェアハウスに投資してオーナーになろうとするサラリーマンらに対して、1億円を超える多額の融資が行われ、審査に使われた書類の改ざんが相次いで見つかりました。

これらの書類はシェアハウスの販売会社を通じてスルガ銀行に提出されていて、改ざんされたことを知らなかったオーナーもいたということです。

あるオーナーの預金口座の残高を示す書類では、実際には29万円余りだった残高が、441万円余りに書き換えられていました。
確定申告の書類でも収入を示す欄が改ざんされていました。
本来は690万円でしたが、「6」の数字が書き換えられて1090万円とされていました。
また、預金通帳のコピーでは、95万円程度だった残高の数字に「3」と「0」の数字が書き加えられ、残高が3000万円も水増しされたケースもありました。

これらの改ざんは、審査を通りやすくするために行われたと見られています。

「地銀の優等生」の転落

スルガ銀行は、歴史的な低金利で地方銀行の経営環境が厳しさを増す中でも独自のビジネスモデルで高い収益を上げて来たことから、「地方銀行の優等生」とも言われてきました。

金融庁によりますと、全国に106ある地方銀行は、融資などの本業で半数以上が赤字になっていて、人口減少や長引く低金利を背景に厳しい経営環境が続いています。

こうした中でスルガ銀行は去年3月期まで、5年連続で過去最高益を更新するなど、地方銀行の中で、際だって収益力が高いことで知られていました。

好業績を支えていたのは、個人向けの融資に特化した独自の経営方針で、勤続年数などの審査基準を緩めた住宅ローンや女性向けの住宅ローンなど、ほかの銀行になかった特徴的な商品で顧客層を広げていきました。
また最近では、今回、問題となったシェアハウス向けのローンなど、不動産投資向けの融資も大きく伸ばしていました。

一定のリスクを取った融資を増やしてきたことで、スルガ銀行の貸出金利は平均で3%台と、ほかの地方銀行に比べて高い水準になっていました。

独自のビジネスモデルを収益につなげる経営姿勢は、金融庁幹部も高く評価していましたが、今回の問題で、そのビジネスモデルは根本から揺らぐことになりました。

ことし3月期の決算では、シェアハウス関連の損失などを計上したことで最終利益が一転して80%を超える減益になったほか、ことし1月には2500円を上回る水準だったスルガ銀行の株価も、6日の終値で568円と、大幅に下落しています。

金融庁行政処分へ

金融庁は、ことし4月からスルガ銀行に立ち入り検査に入っていて、7日公表された調査結果も踏まえ、近く、業務の一部停止命令を含む厳しい行政処分を行う方針です。

金融庁は、シェアハウスのオーナーへのずさんな融資が明らかになったことを受けてことし4月、スルガ銀行に立ち入り検査に入り融資の審査や業務管理の実態を調べてきました。

検査はまもなく終わる見通しで、7日公表された第三者委員会の報告書も踏まえ、近く、業務の一部停止命令を含む厳しい行政処分を行う方針です。

また、シェアハウスのような投資用の不動産向け融資について、ほかの金融機関でも問題がないか、今後、調査を行うことも検討しています。

投資の男性は憤り示す

スルガ銀行の第三者委員会の調査結果について、銀行から融資を受けてシェアハウスに投資を行った男性の1人は、銀行による組織的な不正に憤りを示しました。

都内に住む40代の男性は、シェアハウスに投資するため土地代と建物の建設費用として、スルガ銀行からおよそ1億9000万円の融資を受けましたが、シェアハウスの運営会社、スマートデイズの経営破綻で多額の借金が残った形になっています。

男性は、第三者委員会の調査結果について「銀行が組織的に不正に関与していたということが明るみになってほっとしているが、報告書を見て、銀行のていをなしていないと改めて感じた」と話し、強い憤りを示しました。

そのうえで、「私を含め、被害にあった人たちは銀行に対して怒りしかない。精神的に参ってしまった人もいる。今回、組織的な関与が明らかになったので、世の中や私たちに対して謝罪し契約の白紙撤回を認めてもらいたい」と訴えていました。

オーナー弁護団「一刻も早く抜本的救済を」

銀行の融資でシェアハウスなどを購入した270人余りのオーナーの代理人を務める弁護団が都内で会見を開きました。

この中で団長の河合弘之弁護士は「報告書には、スルガ銀行が詐欺的な融資を上から下まで組織的に行っていたことが具体的に書かれている。根深い病巣を掘り下げ、改善策まで踏み込んだ点は一定の評価ができる」と指摘しました。

そのうえで「オーナーの中には多大かつ不当な債務を負うことになった結果、すでに自己破産した人や命を絶った人もいる。スルガ銀行は、被害の重大性を強く認識し、一刻も早く抜本的な救済措置を講じる責任がある」として、被害回復に向けた取り組みを急ぐよう求めました。

弁護団は、オーナーたちの深刻な被害が明確になったとして、7日、スルガ銀行に被害の救済措置を命じるよう求める申し入れ書を金融庁に提出したということです。

この問題で弁護団は、スルガ銀行の行員らが融資の審査に使われた書類の改ざんにかかわった疑いがあるとして、警視庁に告発状を提出しています。

厳しい処分行う考え 麻生金融相

7日の閣議のあとの記者会見で、麻生副総理兼金融担当大臣は「金融業をなりわいにしていくのなら顧客や利用者を保護して法令を守り、経営陣による適切な経営管理の中で業務運営が実現されていくのは当然のことだ。その内容にどこか問題があるならば適切に対応していきたい」と述べました。

そのうえで、金融庁としての行政処分について「調査の内容次第だ」と述べ、第三者委員会の調査結果も踏まえ、今後、厳しい処分を行う考えを示しました。