アッド首脳会合終わる
・一方的な現状変更を許さず
・4か国のさらなる連携強化

日米豪印4か国の枠組み、クアッドの首脳会合が5月24日、総理大臣官邸で行われ、岸田総理大臣は、ウクライナ情勢などを踏まえ「法の支配に基づく国際秩序を根底から揺るがす事態が起きた」と述べ、インド太平洋地域で同様の事態を起こさないよう4か国で連携して対応していく考えを示しました。

会合には、岸田総理大臣、アメリカのバイデン大統領、23日就任したばかりのオーストラリアのアルバニージー首相、インドのモディ首相の4か国の首脳が参加しました。

冒頭、岸田総理大臣は「去年9月の会合以降、われわれが重視する法の支配に基づく国際秩序を根底から揺るがす事態が起きた。ロシアによるウクライナ侵略は国連憲章でもうたわれている諸原則への真っ向からの挑戦でインド太平洋地域で同じようなことを起こしてはいけない」と述べました。

そのうえで「こうした厳しい情勢の中だからこそ、われわれが一堂に会して4か国の連帯と『自由で開かれたインド太平洋』という共通のビジョンへの強固なコミットメントを国際社会に示す意義は極めて大きい」と述べました。

また岸田総理大臣は「地域諸国とともに歩むことなしに、日米豪印協力の成功はありえない。ASEAN、南アジア、太平洋島しょ国といった地域諸国の声にしっかりと耳を傾け、地域が直面する喫緊の課題の解決に資するような協力を一層進めていく必要がある」と述べました。

会合では、ウクライナ情勢のほか、海洋進出の動きを強める中国などを念頭に、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた連携、経済を含めた幅広い分野の協力の在り方をめぐって協議が行われました。

バイデン大統領「継続的な協力の基盤として大変重要」

クアッドの首脳会合の冒頭、アメリカのバイデン大統領は「私たちのパートナーシップは目標を達成するための中心にあり、そして継続的な協力の基盤として、大変重要だ」と述べました。

そして、3人の首脳に感謝の意を示すとともに、インドに対しては「モディ首相による民主主義の実現に向けた尽力を感謝したい。なぜなら、この会合は専制主義に対抗して、いかに民主主義を実現していくかについて議論するものだからだ」と述べました。

そのうえで「アメリカはインド太平洋地域にとって、強く持続的なパートナーでなければならない。中国の指導者から、なぜインド太平洋地域にこだわるのかと聞かれたことがあったが、それは私たちが同じ地域を共有し、深く関わっているからだ」と述べ、インド太平洋地域に深く関わっていく姿勢を強調しました。

また、バイデン大統領は、ウクライナ情勢について「これはヨーロッパだけでなく、世界全体で取り組むべき課題だ。プーチン大統領は、あらゆる学校や教会、それに博物館を攻撃し、ウクライナの文化を消し去ろうとしている」と述べ、危機感をあらわにしました。

そして「国際秩序、領土の一体性、主権、国際法、それに人権の基本原則は、必ず守られなければならない。それは世界のどこで侵害されてもだ。クアッドには、地域の平和と安定の維持、パンデミックへの対応、気候危機、それに未来の技術がわれわれの価値観に基づいて管理されるようにするといった、多くの仕事が残されている」と述べ、ロシアが力による現状変更の試みを続けるなか、中国を念頭に、インド太平洋地域への関与を強めることは一層重要だとの見方を示しました。

アルバニージー首相「政権交代後も変わらない」


一方、23日に就任したばかりのオーストラリアのアルバニージー首相は「オーストラリアは政権が交代したが、クアッドに関与する姿勢は変わっていない。私たちの連携は、民主主義、法の支配、そして、平和に暮らす権利という共通の価値観に基づいている」と述べました。

そのうえで「私の政権は、気候変動対策に力を入れ、地域のパートナーたちへの支援を拡大させる。気候変動は太平洋地域の島しょ国にとって経済、安全保障の面で最大の課題だ」と述べ、気候変動問題での連携も強化したい考えを示しました。

モディ首相「クアッドは平和と安定を確保するもの」


また、インドのモディ首相は「クアッドは世界において重要な位置を占めている。クアッドの信頼と決意は民主主義に新たな強さをもたらしている。現在、われわれはすべての国の協力で、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて進んでいる」と述べ、クアッドの枠組みの重要性を強調しました。

岸田首相 一方的現状変更許してはならない認識共有

日米豪印4か国の枠組み、クアッドの首脳会合を終えた岸田総理大臣は記者会見しました。ロシアによる軍事侵攻が続く中、中国などを念頭に力による一方的な現状変更をいかなる地域でも許してはならないという認識を共有したと強調し、4か国のさらなる連携強化を図る考えを示しました。

会見で岸田総理大臣は「ウクライナ情勢がインド太平洋地域に及ぼす影響について率直な議論を行い、インドも参加する形でウクライナでの悲惨な紛争について懸念を表明し、法の支配や、主権と領土の一体性などの原則は、いかなる地域でも守らなければならないことを 確認した」と述べました。

また、覇権主義的行動を強める中国なども念頭に「東シナ海や南シナ海での一方的な現状変更の試みへの深刻な懸念やミャンマー情勢への対応などについても議論を行った」と述べました。

さらに、核・ミサイル活動を活発化させる北朝鮮をめぐり、完全な非核化に向けた連携や拉致問題の即時解決の必要性で一致するとともに北朝鮮で新型コロナの感染が広がっていることを踏まえ、感染対策の地理的空白を作らないことについて議論したと明らかにしました。

一方、岸田総理大臣は「4か国の枠組みは『自由で開かれたインド太平洋』 の実現のため、幅広い分野で実践的協力を進める場でもある」と述べました。

そのうえで▽インフラ分野について、インド太平洋地域で今後5年間で500億ドル以上の追加の支援や投資を目指すことや、▽宇宙分野の協力として4か国が保有する衛星情報を地域諸国に提供する取り組みを 立ち上げたこと、▽自然災害に対応するため、人道支援や災害救援で連携を強化していくことなどを 説明しました。

そして、岸田総理大臣は「ロシアによるウクライナ侵略という国際秩序の根幹を揺るがす事態が発生する中で、 力による一方的な現状変更をいかなる地域でも、とりわけインド太平洋地域で許してはならないことや、今こそ『自由で開かれたインド太平洋』 が重要であり、実現に向けて力を尽くしていくことを、4か国の首脳が東京から発信できたことは極めて大きな意義がある」と述べました。

また、オーストラリアのアルバニージー首相から、来年の首脳会合をオーストラリアで開催したいと提案があったことを明らかにし「4か国の協力は幅広い分野に広がり、 さまざまなレベルで日々深まっている。 今後も『自由で開かれたインド太平洋』 の実現に向けた連携をいっそう強化していきたい」と述べました。

共同声明を発表“威圧的で一方的な行動に強く反対”

日米豪印4か国の枠組み、クアッドの首脳会合のあと共同声明が発表されました。
中国を念頭に、現状を変更し、地域の緊張を高めるあらゆる威圧的で一方的な行動に強く反対するとしています。

共同声明では、4か国の首脳が「包括的で強じんな自由で開かれたインド太平洋」への揺るがない関与を新たにすると表明した上で、深刻な世界規模での困難の時代に4か国が「善を推進する力」であることを示すとしています。

そして、ウクライナ情勢をめぐり、ロシアを名指しした形での非難を避ける一方、◇自由や法の支配、◇主権と領土の一体性、◇武力による威嚇や行使、◇現状を変更しようとするいかなる一方的な試みに訴えることなく紛争を平和的に解決することなどインド太平洋地域や世界の平和、安定、繁栄に不可欠な原則を強く支持するとしています。

その上で、ウクライナでの紛争や人道的危機への対応とインド太平洋への影響について議論し、すべての国が国際法に従い、紛争の平和的な解決を追求しなければならないことを確認したとしています。

また、中国を念頭に、東シナ海や南シナ海も含めたルールに基づく海洋秩序への挑戦に対抗するため、国際法の順守などを擁護する立場を明確にした上で「現状を変更し、地域の緊張を高めようとする、あらゆる威圧的、挑発的、一方的な行動に強く反対する」と明記しています。

その上で、中国が、南太平洋のソロモン諸島と安全保障に関する協定を結んだことなどを念頭に、太平洋島しょ国との経済協力を、さらに強化するとしています。

また、北朝鮮をめぐっては、ICBM=大陸間弾道ミサイル級を含めた、たび重なるミサイル発射と開発を、地域の不安定化をもたらすと非難した上で、国連安保理決議の義務に従って挑発的な行為を控え、実質的な対話に取り組むよう求めています。

一方、声明では、4か国で実践的な協力を進めていく姿勢も強調していて、具体的な取り組みが明記されました。

◇新型コロナ対応では、安全で有効なワクチンを必要な時に必要な場所に提供し、臨床試験を含めた科学技術分野での協力などを通じ「健康安全保障」の構築に取り組むとしています。

また、◇インフラ分野で、今後5年間で500億ドル以上の支援や投資の実施を目指すほか、◇気候変動問題に対応する新たな枠組みを立ち上げ、クリーンエネルギー分野での協力を進めるとしています。

さらに、◇重要・新興技術の分野では、高速・大容量の通信規格5Gなどの新しい通信規格のネットワークの推進や、競争力のある半導体市場の実現を目指すことや、◇宇宙分野では、防災などの課題に対応するため4か国の衛星データを地域諸国に提供することも盛り込まれています。

声明は、最後に、日米豪印4か国の活動を定例化するとした上で、次の対面での首脳会合を、来年オーストラリアが主催して開催することを明記しています。

来年のクアッド首脳会合 オーストラリアで開催へ

オーストラリアのアルバニージー首相は、2023年のクアッドの首脳会合がオーストラリアで開催されることを明らかにしました。
首脳会合のあと記者団の取材に応じたアルバニージー首相は「来年、オーストラリアでバイデン大統領、モディ首相、岸田総理大臣を迎えることを楽しみにしている」と述べました。