【日米首脳会談と共同会見
 
・抑止力と対処力強化確認
・G7サミット広島開催方針
・日本の常任理事国入り支持
・IPEF立ち上げ日本参加へ

岸田総理大臣はアメリカのバイデン大統領と東京 港区の迎賓館で日米首脳会談を行いました。

この中で岸田総理大臣はバイデン大統領の日本訪問はアメリカのインド太平洋地域への関与を示すものだとした上で「ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがすものであり、力による一方的な現状変更の試みは世界のどこであっても絶対に認められない」と指摘し、日米両国で国際社会を主導する考えを示しました。

バイデン大統領は、中国への対抗を念頭に、TPP=環太平洋パートナーシップ協定に代わる枠組みとしてIPEFを立ち上げる考えを示しました。

バイデン大統領 日本に到着

バイデン大統領は22日午後5時すぎ、東京のアメリカ軍横田基地に大統領専用機「エアフォースワン」で到着しました。バイデン大統領が日本を訪問するのは就任後初めてです。

そしてヘリコプター「マリーン・ワン」で横田基地を出発し、午後5時50分ごろ東京 港区のアメリカ軍基地「ハーディー・バラックス」に到着しました。その後、東京 港区赤坂のアメリカ大使館に向かい、東京 港区のホテルに滞在しました。

バイデン大統領は大統領専用の車両「ビースト」で、23日午前10時45分、東京 港区の迎賓館に到着しました。岸田総理大臣も午前10時すぎに迎賓館に到着していて、両首脳は日米首脳会談に臨みました。

日米首脳会談 岸田首相 日米で国際社会を主導する考え示す

岸田総理大臣はアメリカのバイデン大統領と東京 港区の迎賓館で日米首脳会談を行いました。

岸田総理大臣「日米で国際社会をリード」

岸田総理大臣とアメリカのバイデン大統領との日米首脳会談は、東京 港区の迎賓館で23日午前11時すぎから始まり、両首脳はまず、木原官房副長官らを交えて意見を交わしました。

このあと、両首脳は同席者を限定した少人数会合に臨み、冒頭、岸田総理大臣は「バイデン大統領の今回の日本訪問は、いかなる状況にあってもアメリカがインド太平洋地域への関与を強化し続けることを示すものであると、心から歓迎する」と述べました。

その上で「ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがすものであり、力による一方的な現状変更の試みは世界のどこであっても絶対に認められない。このような時だからこそ、基本的価値を共有する日米両国で、法の支配に基づく『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けて、国際社会をリードしていきたい」と強調しました。

そして「今回のバイデン大統領の日本訪問、日米首脳会談が意義あるものになることを心から期待したい」と述べました。

バイデン大統領「IPEF立ち上げ」

バイデン大統領は会談の冒頭「日米同盟は長きにわたりインド太平洋地域の平和と繁栄の礎となっており、アメリカは日本の防衛への責任を完全に果たす」と述べ、中国が覇権主義的な行動を強める中、日米同盟を一層重視していく考えを示しました。

そして「地域の国々との連携を強化しインド太平洋地域の人々に利益をもたらすためにIPEF(アイペフ)=インド太平洋経済枠組みをきょう立ち上げることにしている」と述べ、中国への対抗を念頭に、TPP=環太平洋パートナーシップ協定に代わる枠組みとしてIPEFを立ち上げる考えを示しました。

ウクライナ情勢をめぐっては「日本は世界のリーダーの1つとして、G7の各国とともに、ウクライナ侵攻を続けるプーチンの責任を追及し、われわれが共有する民主主義の価値観を守るために立ち上がっている。岸田総理大臣のリーダーシップと、ウクライナの人々への支援を感謝している」と述べました。

また、バイデン大統領は「あすのクアッドの会合を主催してくれることを感謝する。われわれはインド太平洋地域の民主主義国家として、常に協力して課題に取り組む方法を模索しているし、今後も話し合っていくことを楽しみにしている」と述べました。

さらにバイデン大統領が「フミオ、歓迎してくれたことに感謝する」と述べ親しみを持って岸田総理大臣を「フミオ」と名前で呼びかける場面もありました。

このあと、両首脳は、迎賓館内の別の部屋でワーキングランチを行い、午後1時15分ごろに日米首脳会談は終了しました。

バイデン大統領 日本の防衛能力強化の決意を評価

アメリカのホワイトハウスは日米首脳会談を受けて声明を発表し「バイデン大統領は岸田総理大臣の日本の防衛能力を強化しようとする決意を評価し、強固な日米同盟はインド太平洋地域の平和と安定の礎だと言及した」としています。

そのうえで「両首脳は、北朝鮮の核・ミサイル開発や国際法に反する中国の威圧的な行動などの安全保障上の課題に対処するために緊密に連携していく決意を示した」としています。

日米首脳共同記者会見
・抑止力と対処力の早急強化を確認
・来年のG7サミットは広島の方針
・日本の常任理事国入り支持表明
・IPEF立ち上げ日本参加へ
・台湾海峡の平和と安定維持を支持

【リンク】共同記者会見の詳細はこちらから

岸田総理大臣は、バイデン大統領との日米首脳会談のあと、東京 港区の迎賓館でそろって記者会見し、覇権主義的行動を強める中国などを念頭に、日米両国の抑止力と対処力を早急に強化することを確認し、日本の防衛力を抜本的に強化する決意を示しました。
また、来年、日本が議長国を務めるG7サミット=主要7か国首脳会議について、被爆地で岸田総理大臣の地元の広島市で開催する方針を明らかにしました。

岸田首相「今ほど同盟国や同志国の結束求められている時はない」

この中で岸田総理大臣は「ウクライナ侵略という国際秩序の根幹を揺るがす危機に直面しており、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を断固として守るべく、今ほど同盟国や同志国の結束が求められている時はない」と述べました。

そのうえで、ウクライナ情勢をめぐり、力による一方的な現状変更の試みはいかなる場所であれ断じて許容できないとして、G7=主要7か国をはじめ、国際社会とともに引き続き、きぜんと対応し、ウクライナ政府と国民を全力で支えていくことを改めて確認したと説明しました。

さらに、ウクライナ情勢がインド太平洋地域に及ぼす影響も議論し、中国の東シナ海や南シナ海での力を背景とした現状変更の試みに強く反対するとともに、人権問題を含めた中国をめぐる諸課題への対応に引き続き日米で緊密に連携していくことで一致したと明らかにしました。

また、台湾をめぐっては「両国の基本的な立場に変更はないことを確認し、 国際社会の平和と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促した」と述べました。

そして、覇権主義的行動を強める中国などを念頭に、日米両国の抑止力と対処力を早急に強化することを確認しました。

また、北朝鮮をめぐって「ICBM=大陸間弾道ミサイル級の弾道ミサイル発射をはじめ、核・ミサイル問題について深刻な懸念を共有したうえで、日米、日米韓で一層緊密に連携していくことを確認した」と述べました。

そのうえで、日本の防衛力を抜本的に強化する決意を示し、防衛費を増額するとともに、いわゆる『反撃能力』を含め、あらゆる選択肢を排除しないという方針を伝え、バイデン大統領から強い支持を得たと明らかにしました。

さらに「バイデン大統領から、日本の防衛へのコミットメントが改めて表明され、今後も『拡大抑止』が揺るぎないものであり続けることを確保するため、閣僚レベルも含め、日米の間で一層緊密な意思疎通を行っていくことで一致した」と説明しました。

IPEF(アイペフ)=インド太平洋経済枠組みをめぐっては「歓迎し、日本は参加し協力していく。そのうえで日本としては、戦略的な観点から、アメリカがTPP=環太平洋パートナーシップ協定に復帰することを期待している」と述べました。

また、最先端の半導体の開発を含む経済安全保障分野や、宇宙などに関する具体的な協力で一致したほか、ウクライナ情勢の影響でエネルギーや食料をめぐる状況が悪化していることを踏まえ、G7や国際機関で連携して対処していく方針を確認したと明らかにしました。

一方、来年、日本が議長国を務めるG7サミット=主要7か国首脳会議について、被爆地で岸田総理大臣の地元の広島市で開催する方針をバイデン大統領に伝え、成功に向けてともに取り組んでいくことを確認したと明らかにしました。

このほか岸田総理大臣は「私から安全保障理事会を含めた国連の改革と強化の必要性を述べ、バイデン大統領から改革された安保理において、日本が常任理事国となることを支持するとの表明があった」と述べました。

バイデン大統領 「台湾海峡の平和と安定の維持を支持」

日米首脳会談のあとの共同記者会見で、バイデン大統領は「アメリカは日本の防衛について揺らぐことはない。安全保障環境が厳しさが増す中で、さらに協力を深めることを歓迎する」と述べ、日米同盟をさらに発展させていく考えを示しました。

そのうえで中国を念頭に「台湾海峡の平和と安定を維持することを支持し、東シナ海と南シナ海での航行の自由を促進し、北朝鮮を抑止することを望む」と述べました。

また、24日に行われる日米豪印の4か国でつくる枠組み、クアッドの首脳会合については「オーストラリア、インドとともに、民主主義の国どうしの連携によって大きな成果を上げることを世界に示す。インド太平洋地域の未来に向けた前向きなビジョンを前進させるための機会に感謝する」と述べ、期待感を示しました。

また、みずからが提唱する新たな経済連携IPEF=インド太平洋経済枠組みについては「21世紀の最も重要な課題である安全保障の充実、信頼に基づいた経済の構築、サプライチェーンの保護、反汚職への取り組みについて地域のパートナーとともに取り組むものだ」と意気込みを述べました。

さらに、ウクライナへの軍事侵攻で力による現状変更への試みが行われていることについては「日米は民主主義国家として、経済大国として、力強さを示している。われわれの協力は、特に、プーチンの残酷なウクライナでの戦争の責任を追及するために不可欠だ。ウクライナの人々を支援することは、ルールに基づく国際秩序を守るというわれわれの意思について、強いメッセージを送っている」と述べました。

また来年、日本で開催されるG7サミット=主要7か国首脳会議については「広島で開催するという岸田総理大臣による発表を歓迎する」と述べました。

一方、中国の輸入品に課している関税について、記者から一部を撤廃する考えはあるのか質問されたのに対し「前政権によって課された関税であり、現在、対応を検討中だ」と述べました。

【記者解説】

▼会談の日本側の受け止めは
日米両国がインド太平洋地域に関与していく強い意思を示すことができたと受け止めています。
中国などを念頭に、日米両国の抑止力・対処力を強化し、アメリカの核戦力と通常戦力の抑止力によって日本を守る「拡大抑止」が揺るぎないものであり続けることを確保するため、閣僚レベルの意思疎通を行うとしています。
また、経済面でもアメリカが主導するIPEFの設立が東京で宣言されるなど、日米の連携がより深まったのは間違いありません。
岸田総理大臣は、日本の防衛力を抜本的に強化し、防衛費の増額まで言及しましたが、ウクライナ情勢の影響で、アジア地域でも一方的な現状変更の動きが急速に強まりかねないという危機感の裏返しであるともいえます。
国際ルールを書き換えようとする動きにどう対処していくのか、今後アメリカと綿密に協議しながら日本の防衛政策の基盤となる「国家安全保障戦略」などの改定作業が進められる見通しです。

▼日本のIPEF参加表明 その理由は
中国が経済的な威圧を強める中、アメリカが経済面でもインド太平洋地域への関与を強めるものだと評価しているためです。
インド太平洋地域の経済連携では、日本も含む11か国による自由貿易協定、TPPがあります。
しかし、アメリカは前のトランプ政権でTPPから離脱し、バイデン政権も国内世論を背景に復帰に否定的な姿勢を崩していません。
岸田総理大臣はきょうもアメリカのTPP復帰に期待する考えを示しましたが、現実的には復帰の見通しは立たない状況が続いています。
このため、IPEFがTPPほどの貿易自由化を達成できないものだとしても、積極的に関与し、中国への配慮をみせる東南アジアの国々にも参加をよびかけるとともに、時間をかけてアメリカのTPPへの復帰を促していくことになりそうです。

▼アメリカの会談受け止めは
日米両国の緊密な連携を示せたことに手応えを感じていると思います。
共同声明では、安全保障について力による一方的な現状変更に強く異を唱えるとともに、中国を名指しして南シナ海での威圧的な行動を非難しました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で国際秩序が大きく揺さぶられる中、こうした立場を確認した意義は大きいと思います。
特にアメリカが警戒しているのは中国が台湾統一に向け、軍事力を行使する「台湾有事」です。
こうした状況でバイデン大統領が「日本の防衛への責任を完全に果たす」と発言したことや、声明で核戦力を含む拡大抑止について改めて確認したことも、中国に対する強いメッセージを送ることができたと受け止めているものと見られます。

▼IPEF アメリカのねらいは
中国に対抗するための巻き返しの一手にしたいというのがアメリカの本音です。
アメリカはTPPの交渉から離脱したことで、インド太平洋地域での多国間経済連携の中で存在感が薄れていました。
そのため、TPPに代わるIPEFを打ち出すことで、地域への関与を深めていきたいということです。
しかし、IPEFでは関税の引き下げや撤廃の交渉をしないため、各国にとって大規模な市場を持つアメリカへの輸出拡大につながらず、メリットが見えにくいという指摘もあります。
バイデン大統領にとって就任後初めてのアジア訪問で華々しく打ち出した枠組みを、実効性のあるものにできるかが今後、問われることになります。

▼台湾めぐるバイデン大統領の発言は
アメリカは台湾をめぐり、中国が軍事力を駆使して台湾統一を図ろうとした際の対応をあらかじめ明確にしないことで、中国の行動を抑止する「あいまい戦略」とも呼ばれる、戦略をとってきましたが、バイデン大統領は記者会見で台湾防衛のために軍事的に関与する用意があるかと質問されたのに対し「ある。それがわれわれの決意だ」と答えました。
失言癖があると言われるバイデン大統領が、記者とのやりとりの中で口を滑らせたものではないかと思います。
ホワイトハウスは発言の直後に、火消しを図る声明を発表しました。
会談後の共同声明でも台湾政策に変更はないと明記されていて、今回の発言がアメリカ政府の政策変更を意味しないことは明らかです。
中国外務省が強く反発するなど、単なる失言ではすまされない一面もあります。
台湾問題は中国が最も神経をとがらせるテーマの1つだからです。
実はバイデン大統領はこれまでも台湾問題で同じような、失言ともとれる発言をしています。
これだけ重要なテーマで大統領が失言を繰り返すことは、関係各国にも不安を与えかねないと思います。