物価上昇で緊急対策「国民生活守り抜けるよう万全の備え」首相

ウクライナ情勢に伴う物価の上昇を受け、政府は、石油元売り会社に対する補助金の拡充や、低所得の子育て世帯への給付金の支給などを盛り込んだ緊急対策を決定しました。
これを受けて岸田総理大臣は、今年度の補正予算案を編成し、今の国会での成立に向けて早期に作業を進めるよう指示しました。
政府は、26日夕方、総理大臣官邸で関係閣僚会議を開き、物価の上昇を踏まえた緊急対策を決定しました。
それによりますと、原油価格の高騰への対応として▽ガソリン1リットル当たり172円程度としている価格抑制の基準を168円に引き下げたうえで、▽石油元売り会社への補助金を拡充し、補助額の上限を25円から35円に引き上げるとともに、さらに価格が高騰した場合でも超過分の2分の1を支援する制度を設けるとしています。
また、生活困窮者への支援策として、▽住民税が非課税の子育て世帯や児童扶養手当が支給されているひとり親世帯に対し、子ども1人当たり5万円の給付金を支給するなどとしています。
会議で岸田総理大臣は「新たな財源措置を伴うものに対しては、週内にも今年度予算の予備費の使用を決定し、直ちに実行に移して、コロナ禍からの経済社会活動の回復を確かなものとしていく」と述べ関係閣僚に対し、影響を受けている人たちに必要な支援を速やかに届けるとともに、国民に分かりやく情報発信を行うよう求めました。
そのうえで原油価格高騰への対策を継続するため、鈴木財務大臣に対し、今年度の補正予算案を編成し、今の国会での成立に向けて早期に作業を進めるよう指示しました。
政府が決定した物価高騰の緊急対策に盛り込まれた主な項目を見ていきます。
1.生活困窮者支援
コロナ禍で物価高騰に直面し、生活に困っている人への支援として、1兆3000億円程度を充てることにしています。
▽住民税が非課税の子育て世帯や児童扶養手当が支給されているひとり親世帯に対し、新たに子ども1人当たり5万円を給付するほか、▽住民税の非課税世帯を対象とした1世帯当たり10万円の給付金を確実に受け取れるよう、今年度、新たに非課税となった世帯も給付を受けられることを通知します。
さらに、▽収入が減少した人が生活費を借りることができる「緊急小口資金」などの申請期限を現在の6月末から8月末まで延長します。
このほか、▽生活に困っていながらも「緊急小口資金」などの貸付制度を利用できない世帯を対象に、1世帯当たり最大30万円を給付する「生活困窮者自立支援金」も申請期限を8月末まで延長したうえで、ハローワークで月2回の相談を受けるなどの求職活動の給付要件を緩和するとしています。
2.原油価格高騰対策

原油価格の高騰対策では、1兆5000億円程度を充てることにしています。

▽ガソリンなど燃料価格の上昇を抑えるため、石油元売り会社への補助金について、現在の1リットル当たり25円から35円に引き上げます。
また、支給の基準価格について、いまはレギュラーガソリンの小売価格の全国平均が1リットル当たり172円程度を超えた時点から適用されていますが、168円に引き下げます。
こうした対策によって消費者物価指数の上昇を0.5ポイント程度抑える効果が見込まれるとしています。
▽また、LPガスを使うタクシー事業者に対しても燃料価格の上昇を抑えるための支援を行います。
3.エネルギー・原材料・食料安定供給対策

原材料や食料の安定供給対策には5000億円程度を充てます。
▽小麦価格の高騰対策として、メーカーなどが原材料を輸入小麦から、国産の小麦やコメ、米粉へ切り替えることを支援するほか、国産小麦の生産拡大を支援します。
また、▽需要が高まっている国産の木材を増産するためにかかる輸送費などを支援することにしています。
さらに、▽ロシアなどからの化学肥料の原料の輸入が滞る懸念があるため肥料メーカーが輸入元を切り替えることに伴う費用の一部を補助するほか、▽家畜の餌となる穀物の価格が高騰していることから、価格が一定の水準を上回った場合に畜産農家に補填(ほてん)金を支給するための基金を積み増します。
▽半導体の製造に欠かせないクリプトンなどのガスはロシアやウクライナからも輸入しています。
こうしたガスの供給が滞らないよう国内で生産するための設備費用を支援します。
4.中小企業対策
また、原材料価格上昇の影響を受ける中小企業への支援策として、1兆3000億円程度を充てます。
政府系金融機関の▽日本政策金融公庫などがウクライナ情勢や原油価格の上昇の影響を受けている企業に行う「セーフティネット貸付」の金利を引き下げるほか、▽日本政策金融公庫と商工中金などが新型コロナで影響を受けた企業に行う実質無利子・無担保の融資や危機対応融資の申し込みの期限を、これまでのことし6月末から9月末までに延長します。
岸田総理大臣「国民生活を守り抜けるよう万全の備え」
岸田総理大臣は26日夜に記者会見し、物価の上昇を踏まえた緊急対策を決定したことを説明しました。
原油価格高騰への対策を継続するため、今の国会で補正予算案の成立を図り、いかなる事態が生じても国民生活を守り抜けるよう万全の備えをとる考えを強調しました。
この中で岸田総理大臣は「原油価格や物価の高騰が、コロナ禍からの社会経済活動の回復の妨げになることは何としても防がなければならない。ウクライナ情勢やこれに伴う原油・原材料、穀物の価格高騰などは予断を許さず、先手先手で対応を進めていく」と述べ、経済財政運営に万全を期す考えを示しました。
そして、物価の上昇を踏まえた緊急対策を決定したことに触れたうえで「今月中に、一般予備費やコロナ予備費の使用を閣議決定し、速やかに実施に移し、皆様のお手元に各種の支援策を届ける」と強調しました。
緊急対策では、原油価格高騰への対応として、ガソリン1リットル当たり172円程度としている価格抑制の基準を168円に引き下げたうえで、石油元売り会社への補助金を拡充するほか、低所得の子育て世帯に対し、子ども1人当たり5万円の給付金をプッシュ型で支給するなどと説明しました。
また、政府が買い付け、国内の製粉会社に売り渡す輸入小麦について、ことし9月までの間、価格が急騰する前の水準に販売価格を据え置くとともに、輸入小麦から国産のコメや米粉、国産小麦への切り替えを支援する方針を明らかにしました。
さらに、地方創生臨時交付金を大胆に拡充して1兆円の枠を新設し、地域の実情に応じて行う地方の取り組みを後押しする方針も示しました。
また、岸田総理大臣は6月までに、みずからが掲げる「新しい資本主義」のビジョンと実行計画、それにことしの「骨太の方針」を取りまとめ、夏の参議院選挙のあと、実現に向けた方策を具体化する考えを示しました。
そして「5兆円の『新型コロナウイルス感染症および原油価格・物価高騰対策予備費』などの確保や、6月以降の燃料油価格の激変緩和事業を内容とする補正予算案を、今の国会に提出して成立を図り、いかなる事態が生じても国民生活を守り抜けるよう万全の備えをとる」と述べました。
観光船遭難事故“徹底的な安全対策を指示”
岸田総理大臣は記者会見で、北海道の知床半島沖で観光船が遭難した事故に関連し「きょう国土交通省に法的規制も含め、安全対策の在り方について検証や検討を行う検討会を立ち上げ、徹底的な安全対策を講じていくよう指示した。そこでの検討もしっかりと踏まえた上で今後の安全対策も考えていきたい」と述べました。
ウクライナ避難民 “寄り添った支援を”

岸田総理大臣は記者会見で、ウクライナからの避難民の支援について「事態が長期化した場合、避難民の方々がわが国に滞在する期間も長期化する可能性がある。避難民の方々に支援が行き届くように、すべての避難民の方に相談窓口などの手紙を送らせていただき、日本語、ウクライナ語、英語で案内を行い、メールで生活に役立つ情報を届ける取り組みを進めていきたい。さらに、受け入れ先となる地方公共団体への説明会も行っており、引き続き避難民の方々のニーズを丁寧に把握しながら、寄り添った支援をしていきたい」と述べました。

感染の再拡大防止へ 主要な駅や空港で無料の検査実施へ
また、岸田総理大臣は、感染の再拡大を防ぎながら徐々に社会経済活動を回復させていく必要があると強調し、全国の主要な駅や空港で無料の検査を実施する方針を明らかにしました。
この中で、岸田総理大臣は「3年ぶりに『まん延防止等重点措置』や『緊急事態宣言』のない大型連休となるが、油断は禁物だ。感染の再拡大を防ぎながら、徐々に社会経済活動を回復させていくことができるよう、国民に協力をお願いしたい」と述べました。
そのうえで、国民に対し、連休の機会を利用した積極的なワクチン接種や、マスクの着用や消毒、換気、3密の回避といった基本的な感染対策を徹底するよう呼びかけました。
また「帰省する人は、その前に3回目のワクチン接種や検査を受けるようお願いする」と述べたうえで、大型連休中、全国の主要な駅や空港で無料の検査を実施する方針を明らかにしました。
そして「引き続き、平時への『移行期間』として、最大限の警戒感を維持しながら徐々に社会経済活動を回復させていく。国民の理解と協力をお願いしたい」と述べました。
“補正予算 予備費は必要”重ねて強調
岸田総理大臣は記者会見で、補正予算案の必要性について「新型コロナの感染状況やウクライナ情勢は、感染拡大や長期化の可能性があり状況は予断を許さない。さらなる状況の悪化などいかなる事態が生じたとしても迅速に対応し、国民生活を守り抜くために補正予算、予備費は必要だ」と重ねて強調しました。
その上で「予備費を積み増すための補正予算案の編成は国会での監視が甘くなるので慎むべきだという指摘もあるが」と問われ、「今回、設ける予備費は新型コロナと原油価格・物価高騰対策に使いみちは限定しているので、こうした考え方を国会に諮り、丁寧に説明していきたい」と述べました。
“韓国新政権と緊密に意思疎通図る”
岸田総理大臣は記者会見で、韓国のユン・ソギョル次期大統領が派遣した代表団と会談したことに関連し「国と国との約束を守ることは、国家間の関係の基本だ。韓国新政府側の立場をよく見極めた上で、健全な関係に戻すべく、日本の一貫した立場に基づいてユン次期大統領をはじめ、新政権と緊密に意思疎通を図っていきたい」と述べました。