ロシア平和条約交渉中断を表明 非難 抗議 懸念の声 元島民は…

ロシア外務省は、日本との北方領土問題を含む平和条約交渉を中断する意向を表明しました。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対して日本政府が厳しい制裁措置を講じたことに反発した形です。

ロシア外務省は21日、「日本政府の決定に対するロシア外務省の対応について」とする声明を発表しました。

この中で、北方領土問題を含む平和条約交渉について「継続するつもりはない」として中断する意向を表明しました。

その理由について「ウクライナ情勢に関連して日本による一方的な規制措置が明らかに非友好的であることを考慮した。2国間関係の基本文書について議論を行うことは不可能だ」としています。

また、平和条約交渉の前進に向けた北方四島での共同経済活動に関する対話からの離脱や、北方領土の元島民らによるいわゆる「ビザなし交流」などの交流事業を停止する意向についても合わせて明らかにしました。

ロシア外務省は「2国間協力や日本の利益を損なうすべての責任は、反ロシア的な行動をとる日本側にある」と一方的に非難し、日本がG7=主要7か国と足並みをそろえて貿易上の優遇措置などを保障する「最恵国待遇」の撤回やプーチン大統領ら政府関係者への資産凍結など、厳しい制裁措置を講じたことに反発した形です。

元島民「また振り出しに戻った」

歯舞群島の勇留島出身で千島歯舞諸島居住者連盟根室支部の角鹿泰司支部長代行(84)は、根室市内でNHKの取材に応じ「私だけでなく、返還運動を続けてきた元島民は皆、大きなショックを受けている。戦後77年たったが、また振り出しに戻った。今まで一生懸命になって親から引き継いで、後継者も含めて大変な思いでやってきたことがいちからやり直しになるのかと皆心配している」と述べました。

そのうえで、角鹿さんは「元島民は平均年齢86歳を超え高齢化が進み、せっぱ詰まっている状態だ。国は交渉を進める責任があるし私たちは諦めることはできない。まずはウクライナ問題がとにかく早く解決して平常を取り戻してほしい」と話していました。

北方四島の元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟の河田弘登志 副理事長(87)は「ロシアのウクライナ侵攻が北方領土問題にまで影響すると思っていなかったので、びっくりしている。ことしは自由訪問に参加して故郷の多楽島を訪れようと思っていたが、ことしがダメなら次に行けるかどうかもわからない」と落胆した表情で話していました。

そのうえで、河田さんは「返還運動を諦めるつもりはない。日本政府には、われわれの思いをしっかり受け止めて、ロシア側と交渉してほしい」と話していました。

北海道 鈴木知事「極めて不当 断じて受け入れられない」

北海道の鈴木知事は、22日の道議会の予算特別委員会で「ロシアによる一方的な表明はすべて、ロシアのウクライナ侵略に起因するもので、日ロ関係に転嫁しようとするロシア側の対応は、北海道とロシア諸地域との地域間交流に努めてきた両国住民の思いや努力を損なうものだ。人道的な見地から行われてきた『自由訪問』の停止など、元島民や道民の心情を考えると対応は極めて不当で、断じて受け入れられない」と述べ、非難しました。

そして、札幌市にあるロシア総領事館に対し、抗議する考えを示しました。

そのうえで、鈴木知事は「今後とも、わが国固有の領土である北方四島の1日も早い返還に向け、元島民をはじめとする関係者の声を聞きながら、北方領土問題を解決し、平和条約を締結するという政府の方針を支え、後押しとなるよう最大限の役割を果たしていく」と述べました。

維新 鈴木宗男参院議員「知恵のある 考えた外交を」

北方領土問題に長年取り組んでいる、日本維新の会の鈴木宗男参議院議員は、国会内で記者団に「日本から先に経済制裁をかけていたので、交渉の中断は当然で、ロシア側からすれば遅いくらいだ。ロシア側の声明文には『現状においては』というただし書きが付いていて、ロシア側もそれなりに配慮したのではないか」と述べました。

そのうえで、ウクライナ情勢への対応について「過去の例から見ても、制裁で成果はあがっておらず、今回も、ロシアが引くことはないと思う。岸田総理大臣は先頭に立って『解決には話し合いしかない』と強く求めてほしい」と述べました。

また、今後の日ロ関係について、鈴木氏は「日本は、平和条約の締結や北方領土問題の解決という大きな課題を抱えており、知恵のある、考えた外交をするべきだ。ロシアではプーチン大統領以上に、日本に関心を持っている人はおらず、プーチン大統領がいてこそ初めて、交渉が進む」と述べました。

岸田首相 参院予算委でロシアの日ロ関係に責任転嫁 厳しく非難

岸田総理大臣は、総理大臣官邸で記者団に対し「今回の事態は、すべてロシアによるウクライナ侵略に起因して発生しており、それを日ロ関係に転嫁しようとするロシア側の対応は極めて不当で、断じて受け入れることができず強く抗議する」と述べました。

そのうえで「日本政府として、領土問題を解決して平和条約を締結するという、対ロ外交の基本方針は不変だ。平和条約締結交渉などについてこの時点で何か言える状況にはない」と述べました。

また、記者団からG7=主要7か国の首脳会議で、北方領土問題をめぐるロシアの動きを報告するか問われ「こういった状況もアジアの1つの状況であり、G7の中で情報を共有することは大事ではないか。今後の状況について確たることは言えないが、いろいろな状況の変化に対応できるよう、注視していかなければならない」と述べました。

また、日本とロシアで進めてきた産業振興やエネルギー開発など8項目の経済協力プランを白紙に戻すか問われ「ロシアとの間にはさまざまなプロジェクトがあり 単なるビジネスでロシアに協力することはあり得ないが、日本が権益として確保していることは大事にしていかなければならない。ロシアとの関係をどのように続けていくのか、国益の観点から冷静に判断していくことが重要だ」と述べました。

松野官房長官「厳しく非難 ロシア側に抗議」

松野官房長官は記者会見で「ロシアによるウクライナ侵略は力による一方的な現状変更の試みであり、国際秩序の根幹を揺るがす行為だ。明白な国際法違反で、断じて許容できず、厳しく非難する」と述べました。

そのうえで「今回の事態はすべてロシアによるウクライナ侵略に起因して発生しているもので、それを日ロ関係に転嫁しようとするロシア側の対応は極めて不当で断じて受け入れられない」と述べ、外務省の山田外務審議官がロシアのガルージン駐日大使に抗議したことを明らかにしました。

そして「日本政府として、領土問題を解決して平和条約を締結するとの基本方針は不変だ。わが国としては、国際秩序の根幹を守り抜くため国際社会と結束して、引き続ききぜんと行動していく」と述べました。

自民 茂木幹事長「極めて遺憾 2国間での約束守ること重要」

自民党の茂木幹事長は記者会見で「ロシアの暴挙に国際社会全体が批判の声をあげ、G7をはじめ、多くの国が制裁措置をとっているわけで、仮に制裁に対して、これまで行ってきた国際交渉を取りやめるということであれば極めて遺憾だ。2国間で約束したことを守ることも国際社会においては極めて重要だ」と述べました。

外務省 森事務次官 ロシア駐日大使に強く抗議

外務省の森事務次官は22日夕方、ロシアのガルージン駐日大使を外務省に呼び、今回の事態は、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に起因して発生しているもので、それを日ロ関係に転嫁しようとする対応は極めて不当で断じて受け入れられないとして、強く抗議しました。

このあと、ガルージン駐日大使は記者団に「われわれに非友好的な行動が行われている中では、平和条約交渉を続ける意図がないということを明確に伝えた」と述べました。

また、元島民が高齢化する中での今回の対応は、人道上問題があるのではないかと問われ「停止するのは、1991年と1999年の合意文書に基づく交流であり、墓参を停止しているわけではないことだけ付け加えておきたい」と述べました。

モスクワの日本大使館「断じて受け入れられない」

ロシア外務省が日本との北方領土問題を含む平和条約交渉を中断する意向を表明したことについて、モスクワの日本大使館はコメントを出しました。

この中で「平和条約の締結交渉は、両国間が締結した国際約束である日ソ共同宣言においてその継続に合意し、その後、両国の首脳間の諸合意に基づいて真摯(しんし)に取り組まれてきたものであり、ロシア側から一方的に継続しないという決定は、極めて遺憾であり、断じて受け入れられない」としています。

また、北方四島の交流事業の停止表明については「これまで30年以上にわたり、領土問題が存在する中で日ロ間の相互理解の増進のため、また、人道的見地から実施されているもので、一方的に中止することは、元島民やその家族の気持ちを強く踏みにじるものである」と非難しています。

さらに、共同経済活動に関する対話からの離脱表明については「2016年の安倍総理とプーチン大統領の合意に基づき検討を続けてきた経緯があり、断じて受け入れられるものではない」としています。

そして、「そもそも、ロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みとして、国際秩序の根幹を揺るがすものだ。明白な国際法違反として断じて許容できず、強く非難されるべきものだ」としたうえで、それにもかかわらず、一連の措置を一方的に発表し、その責任を日本側に押しつけようとしているとして強い抗議を表明しました。

ロシア外務省発表の声明全文

ロシア外務省の発表した「日本政府の決定に対するロシア外務省の対応について」とする声明の全文です。

「ウクライナ情勢に関連して日本による一方的な規制措置が明らかに非友好的であることを考慮し一連の措置を講じる。ロシア側は現状において、平和条約に関する日本との交渉を継続するつもりはない。公然と非友好的な立場をとりわが国の利益を損なおうとする国と、2国間関係の基本文書について議論を行うことは不可能だ。ロシアは1991年に合意した『ビザなし交流』、1999年に合意した元島民やその家族がかつて住んでいた場所などを訪れる『自由訪問』の停止を決定した。ロシアは、日本との共同経済活動に関する対話から離脱する。ロシアは黒海経済協力機構の分野別対話パートナーとしての日本の地位の拡大を阻止する。2国間協力や日本の利益を損なうすべての責任は、互恵的協力や善隣関係の発展の代わりに反ロシア的な行動をとることを選んだ日本側にある」

平和条約交渉 これまでの経緯

日本とロシアの平和条約交渉を巡って、安倍元総理大臣とプーチン大統領は、2018年11月、シンガポールで行った首脳会談で、「日ソ共同宣言」に基づいて交渉を加速させることで合意しました。

しかし、ロシア側は「島々は、第2次世界大戦の結果、ロシア領になったと日本がまず認めるべきだ」と主張したり、仮に北方領土を引き渡した場合、アメリカ軍が展開することへの懸念を示したりして、領土交渉に進展は見られていませんでした。

また、おととし7月、ロシアでは憲法が改正され、他国への領土の割譲を禁止する条項が盛り込まれました。

プーチン大統領は、去年2月、平和条約交渉に関連して「憲法に矛盾することはしない」として領土の割譲を禁止した新しい憲法に従って北方領土の引き渡しをめぐる交渉は行わないという考えを強調するなど、一層強硬な姿勢を示していました。

去年9月、ロシア極東のウラジオストクで開催された「東方経済フォーラム」で、プーチン大統領は、「日本との平和条約締結という点においてはわれわれのアプローチを変えるものではない」と明言し日本との平和条約交渉は引き続き進めたい意向を示しました。

ただ、このフォーラムで、プーチン大統領は、北方領土に進出する企業に対し、税制の優遇措置を設ける計画を発表し、今月9日、この措置に関する法律が成立していて、北方領土をあくまで自国の領土だとして開発を進めたい思惑があるとみられています。

日本の岸田内閣が発足してから、去年11月に初めて行われた日ロ外相の電話会談では、ロシア外務省は「ラブロフ外相は、日本側の呼びかけに応じて、2国間関係全体を根本的に新しいレベルに引き上げていく中で平和条約交渉を継続する用意があることを確認した」としていました。

またことし1月、ラブロフ外相は記者会見で、ことし春ごろをめどに、日本を訪問する方向で日本側と調整を進めていることを明らかにし、平和条約交渉については、領土問題を含めず、両国の関係を引き上げるため条約の締結を優先させるべきだと強調していました。

しかし、先月ロシアがウクライナに軍事侵攻し、国際社会との対立が深まるなか、今月3日にロシア外務省のザハロワ報道官は記者会見の中で、北方領土について言及し「日本政界の特定勢力は領有権の主張が実現される可能性を念頭に置いているが、そのような選択肢は今回限りで忘れることを勧めたい」と述べ態度を硬化させていました。