SNSで広がる
ゆるーい政治参加

10月19日公示、31日投開票の日程で行われる衆議院選挙。
「投票に行こう」と声高に呼びかけるのではなく、肩の力を抜いてSNSで投票を啓発する輪が、愛媛の10代の学生の間に広がっています。
(森裕紀)

こんな投票啓発が

愛媛県に住む大学1年生の徳永彩羽さん(19)はツイッターに動画を投稿しました。

投票箱に見立てた箱を手に持ち「早く海外や県外に気軽に行けるようになりたい」と話しかけています。

投票できる年齢になって初めての選挙を前に「投票の先には自分の願いがかなう将来がある」という前向きな思いを込めて、この投稿をしたそうです。

「同世代からは『選挙ってめんどくさいよね』という声も聞いたことがあるので、投票を夢や社会につながるポジティブなイメージに変えていきたい」

「投票に行こう」など直接的なメッセ-ジはあまり使わずにSNSで呼びかけるこの啓発運動は「投票箱チャレンジ」と呼ばれています。

そう。
2014年に世界的な現象になったALS=筋萎縮性側索硬化症の患者を支援するチャリティー運動「アイスバケットチャレンジ」を参考にしています。
アイスバケットは頭から氷水をかぶり次の挑戦者を指名しましたが、こちらは投票箱に見立てた箱をつないでいきます。

投票箱チャレンジのルール

参加者は、自分で作ったオリジナルの箱を持って、将来の夢や社会へのメッセージを語る動画をSNSに投稿するのがルールです。

参加者を増やすために、投稿する人は知り合いを次の投稿者として指名することにしています。10月から始まった、この投稿のリレーは県外にも広がりを見せ始めています。

投票箱は夢が詰まる箱?

投票箱チャレンジを始めたのは、愛媛県内にあるNPO法人「NEXT CONEXION」です。

この団体には生徒や学生など約60人が所属していて、ふだんは若い人たちの社会参加を啓発する催しなどを開催しています。

総務省の主権者教育アドバイザーも務める、代表の越智大貴さん(34)に狙いを聞きました。

「投票箱は、有権者1人1人の「夢」とか「将来」が詰まる箱であるべきだと思っています。『選挙に行こう』とか『投票日はいつです』と一方的に言うのではなく、子どもたちには投票にネガティブなイメージではなく、憧れを持つようになってほしいなと思います」

政治を難しく考えないで

(総務省の資料をもとに作成)

選挙権年齢は2016年に「18歳以上」に引き下げられました。それ以降に行われた3回の国政選挙の投票率を見ると、初回の2016年の参議院選挙こそ18歳と19歳の投票率は46.78%でしたが、その後は32%~40%にとどまり、全体の平均よりも10ポイント以上低くなっています。

若い人たちがもっと投票に行きたくなるように考えることは大切なことなんです。

越智さんは、「選挙」や「政治」は難しいものだと考えさせてしまっていることが要因だと指摘します。

「捉え方によりますよね。ニュースはある意味とても高度な話で若い世代にとっては難しく感じることもありますが、極端なことを言えば、部活動とか家族のことのようにもっと身近に捉えられると思うのです。若い人が投票に行かない理由には『自分の1票で何が変わるんだろう』という疑問があるのだと思います。投票箱チャレンジは、政治をもっと身近に感じてもらい『投票って何となくいいね』ということを若者が中心になってやることで、じわーっと若者に響くという期待があります」

政治を自分ごととして

実際に「身近に捉える」ことが政治を考えるきっかけになったと話す大学生もいます。

大学2年生の板倉菜々帆さん(19)です。

「この団体に所属するまでは、『政治』と聞くと、時々、政治家の方がやっている街頭演説しか思い浮かばなかったんです。今でも政治は難しいと感じることはありますが、身の回りの生活をより良くする身近なものというか、少なくとも避けるものではないなと思うようになりました。投票箱チャレンジを通じて『政治は自分たちにも関わりがある』という考え方が広まればいいなと思います」

大学1年生の有光陸人さん(19)はー

「同級生を見ると、政治に関心のある人はやっぱり少ないと思います。政治は社会のいろいろなことに関係すると思いますが、そういうことを考える機会が少ないことも、政治を遠く感じる要因だと思います。政治のイメージを変えるためにも、投票箱チャレンジがもっと広がってほしい」

衆議院選挙を前に始まった投票箱チャレンジ。今回の選挙はもちろん、この先に控える選挙に向けても、若い人たちの目線に立った、無理のない選挙啓発のリレーがつながれば、より多くの声が政治に届くようになるかもしれません。

松山局記者
森 裕紀
2015年入局。青森局でりんごの輸出戦略などを取材。2020年から松山局で政治・経済取材を担当。