“往診でも抗体カクテル療法
可能に”検討を指示 菅首相

新型コロナウイルス対策で、菅総理大臣は、入院や外来の患者などに使用が限られている「抗体カクテル療法」を往診でも可能とするよう田村厚生労働大臣に検討を指示したことを明らかにしました。

菅総理大臣は15日午後、医療機関と連携して夜間や休日に医師による自宅療養者の往診を行っている東京 新宿区の会社を視察しました。

このあと、菅総理大臣は記者団に「全国的に見て、新型コロナの感染者数は縮小傾向にあるが、多くの方が自宅で療養し、不安な日々を過ごしており、しっかりとした医療体制を築くのが政府の役割だ」と述べました。

そのうえで、この会社の医師からの要請も踏まえ、入院や外来の患者などに使用が限られている「抗体カクテル療法」を、往診でも可能とするよう田村厚生労働大臣に検討を指示したと明らかにしました。

そして「コロナはゼロになることはないので、まずは感染拡大を最小限に収束させ、次に、こうした体制をしっかりと組み、国民の安全安心を心がけていきたい」と述べました。

加藤官房長官「現場の声も聴き 早急に検討」

加藤官房長官は午後の記者会見で、菅総理大臣が「抗体カクテル療法」を往診でも可能とするよう検討を指示したことを受けて「厚生労働省で、現場の声も聴きながら、投与後に適切な経過措置ができることを確保するための要件など、早急に検討を進め、自宅への往診時の使用の具体化を図っていくものと承知している」と述べました。

立民「在宅でも抗体カクテル療法を」 医療体制整備を申し入れ

新型コロナウイルスに感染し、自宅で療養している人への対応を強化すべきだとして、立憲民主党は、在宅でも「抗体カクテル療法」を受けられる医療体制を早急に整えることなどを田村厚生労働大臣に申し入れました。

立憲民主党の長妻副代表ら6人は、国会内で田村厚生労働大臣と面会し、新型コロナ対策の要望書を手渡しました。

要望書では、新規感染者数は減少傾向にあるものの、10万人以上が自宅療養中で、対応を強化すべきだとして、入院や外来の患者などに使用が限られている「抗体カクテル療法」を在宅でも受けられるよう医療体制を早急に整えるよう求めました。

また、訪問診療に取り組む医療機関を支えるため、診療報酬をさらに引き上げるべきだとしています。

田村大臣は「しっかり対応していきたい」と述べました。

このあと、長妻氏は「政府内には『一山越えた』という雰囲気が漂うが、なお10万人以上の自宅療養者がいるので、きちんと対応に専念してもらいたい」と述べました。

「抗体カクテル療法」 往診での使用は慎重に検討 厚労省

新型コロナウイルスの軽症患者などに使用できる「抗体カクテル療法」について、厚生労働省は菅総理大臣の指示を受けて往診での使用を認めるか検討を始めました。一方、まれに副作用が疑われる重篤な症状も報告されていることから、厚生労働省は安全性を確保できるか慎重に見極めたうえで判断する方針です。

抗体でできた2種類の薬を同時に点滴で投与する「抗体カクテル療法」は、軽症患者にも使用できる初めての治療薬として、7月に承認されました。

当初は入院患者だけが対象でしたが、先月以降、宿泊療養施設などに加え、外来での使用も条件付きで認められています。

菅総理大臣は、往診での使用も可能とするよう田村厚生労働大臣に検討を指示し、厚生労働省が具体的な検討に入りましたが、課題となるのが安全性の確保です。

厚生労働省などによりますと、先月21日までに推定で5800人余りが投与を受け、0.46%に当たる27人で発熱や酸素飽和度の低下、狭心症など副作用が疑われる重篤な症状が報告されています。

厚生労働省は、現在、投与から24時間は患者の容体が悪化しても把握できることなどを使用の条件にしていますが、医療関係者からは往診で使用した場合、特に1人暮らしの患者などは把握できないおそれがあると指摘されています。

厚生労働省は「臨床データが限られていて、新しい症状が報告される可能性も否定できない。結論ありきで考えず、往診でも安全性を確保できるか慎重に見極めたうえで使用の可否を判断したい」としています。

投与を受けた1.35%・79人で副作用が疑われる症状

厚生労働省や、関係企業とライセンス契約を結んでいる中外製薬によりますと、ことし7月22日から先月21日までのおよそ1か月間に投与を受けたと推定される5871人のうち、1.35%に当たる79人で副作用が疑われる症状が報告されました。

このうち重篤だったのは27人で、発熱が5人、酸素飽和度の低下が4人、悪寒が2人、狭心症やおう吐、血圧の低下や上昇などがそれぞれ1人となっています。

いずれの症状も投与との因果関係は分かっていないということで、厚生労働省などが引き続き情報収集を進めています。

複数の課題も

新型コロナウイルスに感染し自宅で療養する人の往診を行っている、東京・品川区の「心越クリニック」の岩間洋亮院長は、「抗体カクテル療法」を往診でも使用することについて「患者の重症化を防ぐ手段が増えるのは望ましいことだ」としたうえで、複数の課題があると指摘します。

患者がアレルギーを発症した場合に家族がすぐに気付けるかという懸念や、1人暮らしで見守る人がいないケースも考えられるとして、「訪問看護やヘルパーなどと連携し、経過を丁寧に見守る体制を構築する必要があるが、実現は簡単ではないだろう」としています。

また「抗体カクテル療法に使う薬は1つの瓶に2人分入っているものが主に流通していて、開封後は48時間以内に使い切らなければならない。薬は高価なので、廃棄せずにむだなく使えるよう医師の間で患者を調整するような体制も必要だ」と話していました。

「前向きに捉え、歓迎」

東京・大田区などで自宅療養者の往診を行ってきた「ひなた在宅クリニック山王」の田代和馬院長は「在宅でできる治療は限られていたので、効果的な選択肢が加わるという意味では前向きに捉え、歓迎している」と話しています。

そのうえで、「2つの抗体を混ぜるなど投与前の準備に時間がかかり、投与後も副作用が出ていないか経過観察をしなければならないことを考えると、1日に対応できる患者の数は限られる。病院の空き病床などを活用して複数の患者にスムーズに抗体カクテル療法を行える体制を充実させ、状況に応じて一部、在宅でも対応すれば重症化する人を減らせるのではないかと思う。今のうちから『第6波』に備えてあらゆる機関が連携して抜本的な対策を整えていく必要がある」と話していました。

「適正に使用するためのルールづくりも必要」

自宅療養者の往診を行っている医師のグループ「ファストドクター」の代表、菊池亮医師は「病院や宿泊療養施設といった十分な体制があるところで投与することが前提だ。ただ、入院調整に時間がかかり適切な時期に投与できないケースもあり、在宅でも対応できる体制作りは必要だと思う」と話しています。

そして、菊池医師は、往診の際に抗体カクテル療法が必要だと思った患者がいても、病床がひっ迫して入院できない状況では、治療の選択肢として患者に提案できなかったとしたうえで、「投与の選択肢がせばまってしまうことで、治療が受けられない患者が出てしまうことはよくないと感じていた」としています。

その上で「リスクの高い患者を重症化させないために有効性が高いが、使用経験の浅い薬なので、往診で使用する場合に副作用への対策をどう講じていくかなど、適正に使用するためのルールづくりも必要だ」と指摘しています。