「黒い雨」裁判 総理談話
判決問題あるも救済早急に

政府は、広島への原爆投下直後にいわゆる「黒い雨」を浴びて健康被害を受けたと住民などが訴えた裁判で、上告しないことを決めたのを受けて、27日、持ち回りの閣議で総理大臣談話を決定しました。2審の広島高等裁判所の判決には重大な法律上の問題があると政府の立場を明らかにする一方、原告と同じような事情にあった人も救済できるよう、早急に対応を検討するなどとしています。

決定された総理大臣談話では、今回の広島高等裁判所の判決について「原子爆弾による健康被害の特殊性に鑑み、国の責任において援護するとの被爆者援護法の理念に立ち返って、救済を図るべきだと考えるに至り、上告を行わないこととした」としています。

そして、原告が相当な高齢で、さまざまな病気も抱えていると指摘し「1審、2審を通じた事実認定を踏まえれば、一定の合理的根拠に基づいて、被爆者と認定することは可能であると判断した」としています。

一方で「今回の判決には、原子爆弾の健康影響に関する過去の裁判例と整合しない点があるなど、重大な法律上の問題点がある。とりわけ『黒い雨』や飲食物の摂取による内部被ばくの健康影響を、科学的な線量推計によらず、広く認めるべきとした点は、これまでの被爆者援護制度の考え方と相いれず、容認できるものではない」と指摘しています。

そのうえで「政府としては、本談話をもって、この判決の問題点についての立場を明らかにしたうえで、上告は行わないこととし、84名の原告の皆様と同じような事情にあった方々については、訴訟への参加・不参加にかかわらず、認定し救済できるよう、早急に対応を検討する」としています。

原告弁護団「国は早急に対応を」

広島に原爆が投下された直後に放射性物質を含む、いわゆる「黒い雨」を浴びて健康被害を受けたと住民などが訴えた裁判で、国は26日原告の住民全員を、法律で定める被爆者と認めた2審の広島高等裁判所の判決を受け入れ最高裁判所に上告しない方針を決めました。

これを受けて原告や弁護団が27日広島市内で記者会見し竹森雅泰弁護士は、「原告以外で黒い雨を浴びた人も被爆者と認定されるよう国は早急に対応してほしい」と述べました。

そのうえで、政府が今後被爆者を認定するための指針の見直しを行うことについて、「認定の新たな基準を設ける作業が今後行われるので、早期の救済に向けて弁護団も協力したい」と述べました。

原告団長 高野正明さん「黒い雨浴びた全員の救済が国の責務」

また、原告団長の高野正明さん(83)は、「国が上告を断念した判断は、裁判の途中で亡くなった原告たちへの哀悼になると思う。黒い雨を浴びた全員を救済することが国の責務だ」と述べ、早期に対応するよう訴えました。

広島市 松井市長 被爆者健康手帳「8月中にも交付したい」

広島市の松井市長が報道陣の取材に応じ、原告以外で「黒い雨」を浴びた人たちの救済に向けて、国や県と協力して早期に協議を進めたい考えを示しました。

この中で、松井市長は「原告以外の人たちの支援をどうするかについて国の意見を聞きながら、対応したい。こうした人たちがしっかりと救済されるよう準備したい」と述べました。

また、2審の判決で認められた原告の住民全員への被爆者健康手帳の交付については「速やかに手帳を交付できるよう手続きを進めている。8月中にも交付したいと考えており、できれば8月6日の前に交付できたらよいと思っている」と述べ、できるだけ早期に交付したい考えを示しました。

田村厚労相「被爆者に寄り添った援護行政進めたい」

田村厚生労働大臣は、記者団に対し「最終的に、菅総理大臣の判断でこういう形になった。今後とも、放射線と健康被害に関する科学的、合理的な根拠を踏まえつつ、被爆者に寄り添った援護行政を進めていきたい」と述べました。

また、原告と同じような状況で被害にあった人の救済について「1審と2審で事実認定されている内容を把握しながら、広島市と広島県と相談して対応する。早急に救済をしなければならないと思っており『同じような状況』がどういう状況なのかを踏まえて、早く対応したい」と述べました。

【全文】「黒い雨」判決 総理大臣談話

広島への原爆投下直後にいわゆる「黒い雨」を浴びて健康被害を受けたと住民などが訴えた裁判で、上告しないことを決めたのを受けて、政府が、持ち回り閣議で決定した総理大臣談話は、次の通りです。

「黒い雨」被爆者健康手帳交付請求等訴訟の判決に関しての内閣総理大臣談話令和3年7月27日閣議決定本年7月14日の広島高等裁判所における「黒い雨」被爆者健康手帳交付請求等訴訟判決について、どう対応すべきか、私自身、熟慮に熟慮を重ねてきました。

その結果、今回の訴訟における原告の皆様については、原子爆弾による健康被害の特殊性にかんがみ、国の責任において援護するとの被爆者援護法の理念に立ち返って、その救済を図るべきであると考えるに至り、上告を行わないこととしました。

皆様、相当な高齢であられ、様々な病気も抱えておられます。

そうした中で、1審、2審を通じた事実認定を踏まえれば、一定の合理的根拠に基づいて、被爆者と認定することは可能であると判断いたしました。

今回の判決には、原子爆弾の健康影響に関する過去の裁判例と整合しない点があるなど、重大な法律上の問題点があり、政府としては本来であれば受け入れ難いものです。

とりわけ、「黒い雨」や飲食物の摂取による内部被曝の健康影響を、科学的な線量推計によらず、広く認めるべきとした点については、これまでの被爆者援護制度の考え方と相容れないものであり、政府としては容認できるものではありません。

以上の考えの下、政府としては、本談話をもってこの判決の問題点についての立場を明らかにした上で、上告は行わないこととし、84名の原告の皆様に被爆者健康手帳を速やかに発行することといたします。

また、84名の原告の皆様と同じような事情にあった方々については、訴訟への参加・不参加にかかわらず、認定し救済できるよう、早急に対応を検討します。

原子爆弾の投下から76年が経過しようとする今でも、多くの方々がその健康被害に苦しんでおられる現状に思いを致しながら、被爆者の皆様に寄り添った支援を行ってまいります。

そして、再びこのような惨禍が繰り返されることのないよう、世界唯一の戦争被爆国として、核兵器の廃絶と世界の恒久平和を全世界に訴えてまいります。