核兵器禁止条約が発効
核保有国や日本など参加せず

核兵器の開発、保有、使用を禁じる核兵器禁止条約が22日、発効しました。条約には核保有国や核抑止力に依存する日本などが参加しておらず、核軍縮への弾みになるかどうかは今後、条約への支持がどこまで広がるかにかかっています。

核兵器禁止条約は、核兵器の使用は非人道的で国際法に反するとして開発、製造、保有、使用を禁じるもので122の国と地域が賛成して2017年に国連で採択されました。

去年10月までに批准した50の国と地域で、それぞれ現地時間の22日午前0時を迎えたところから発効しています。

22日現在、
▽批准を済ませた国と地域は51、
▽条約に加わる意思を示した署名は86で、
いずれも核兵器を保有していません。

一方、すべての核保有国と核抑止力に依存するNATO=北大西洋条約機構の加盟国や日本、韓国などは参加していないため、核兵器が直ちに減るわけではありません。

ただ条約の推進国などは、核兵器は違法だという新たな国際規範が確立されれば、将来的に核保有国への圧力になると期待しています。

この条約が核軍縮への弾みになるかどうかは今後、条約への支持がどこまで広がるかにかかっています。

ICAN事務局長「歴史的な瞬間」

核兵器禁止条約の採択に貢献し2017年にノーベル平和賞を受賞したICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンのベアトリス・フィン事務局長はNHKのインタビューで「核兵器そのものが国際法で初めて禁止される歴史的な瞬間だ」と述べ、条約が発効する意義を強調しました。

そのうえで「条約は国際的な規範となり、影響を持つ。より多くの国が批准すれば規範は確固なものになるので、すべての国が参加すべきだ。核の傘の下にある国々が批准すればより大きな影響があるだろう」と述べ、今後は核の傘に頼る安全保障政策を取っている日本やNATO=北大西洋条約機構の加盟国を巻き込んでいく必要があると強調しました。

また、現段階で核保有国や核抑止力に依存する国々が1か国も署名・批准していないことについては「NPT=核拡散防止条約でも中国、フランスのような核保有国が参加するのに20年余りかかった。条約の批准には時間がかかるものだ。現段階で禁止条約に核保有国が参加していなくても強力な法律文書であることに変わりはない」と述べました。

また、1年以内に開かれる1回目の締約国会議については「条約に参加していない国々にもオブザーバーとして参加してほしい。会議で核兵器による被害者への支援などに関する議論があれば、被爆者支援の経験と知識がある日本は、議論に貢献できる」と述べ、日本もオブザーバーとして参加すべきだという考えを示しました。

国連 中満事務次長「日本もオブザーバー参加できれば」

核兵器禁止条約の発効について、国連で軍縮を担当する中満泉事務次長は発効の前にNHKのインタビューに対して「22日を楽しみにしている。発効と同時に責任と役割が出てくる。きちんと実施するために準備している」と述べ、核廃絶を最優先課題の1つと位置づける国連として条約の発効を歓迎し、今後の手続きを支援していく考えを示しました。

条約では、締約国は発効から30日以内に核兵器を保有していたかどうかや核兵器計画を廃棄したかどうかを国連の事務総長に申告するとなっていて、国連はこの手続きを支援することになります。

また、条約は、発効後1年以内に締約国による会議を開催すると定めていて、中満事務次長は会合の時期や優先する議題について、すでに関係国との協議に入っているとしています。

条約では、締約国会議には、条約に参加していない国もオブザーバーとして参加するよう招請するとしていて、中満事務次長はすでに数か国から参加の意向が示されていることを明らかにしました。

そして「日本国内からもオブザーバー参加すべきとの意見が出ているが、ぜひそうなればいいと思う。これから条約に関する議論が始まる過程で、機会を逃さずにとらえていくことは、唯一の戦争被爆国の役割かもしれないと思う」と述べて、日本の参加を重ねて呼びかけました。

サーロー節子さん「やっと獲得した核廃絶への第1歩」

核兵器禁止条約が発効したことについて、13歳の時、広島で被爆し、長年、世界各国で自身の被爆体験を語って核兵器廃絶を訴え続けてきたカナダ在住の被爆者、サーロー節子さん(89)は「飛び上がるほどうれしいです。75年間活動してきてようやく勝ち取ることができたと思います。でもこれは核兵器の『禁止』であって、禁止する状態から廃絶までの長い道のりがあり、ことばにはできない喜びと同時に重い責任感も感じています」と話しました。

そして「条約は私たちがここまで働いてきてやっと獲得した核廃絶に向けた第1歩で、皆さんや将来の人たちへのプレゼントです。私も命あるかぎり働くつもりですが、獲得したことをむだにせず廃絶できるまで運動を盛り立ててほしい」と訴えました。

一方で、日本政府が条約に参加しない方針を示していることについて「被爆者があんなに苦しんで75年も待って訴え続けていることに対して、政府は少しは聞き耳を立ててほしい」と述べて条約への参加を求めました。

そのうえで、日本へのメッセージとして「原爆の投下という考えられないようなことは唯一日本で起きたことで、日本の人たちには同じようなことが二度と起きないように、いま生きている人間とこれから生まれてくる子孫たちの生活を確保するために声を大きくあげなければいけないということを知ってほしい。政府に訴えて動かしていかないといけない」と訴えていました。

日本政府は

核兵器禁止条約について、日本政府はアメリカなど核兵器の保有国が参加していないことから核軍縮を目指すうえで現実的ではないなどとして、参加しない姿勢を明確にしています。

菅総理大臣は今月7日の記者会見で「唯一の戦争被爆国として条約が目指す核廃絶というゴールは共有しているが、核兵器のない世界を実現するためには核兵器の保有国を巻き込んだうえで核軍縮を進めていくことが不可欠だ」と述べ、条約に署名しない考えを重ねて示しました。

また、菅総理大臣は、広島市や長崎市などが求めている核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加についても「慎重に見極める必要がある」と述べています。

核開発を加速させる北朝鮮の脅威が増す中、政府は核による抑止力の必要性は否定できず核保有国も参加する形で粘り強く核軍縮を進めていくべきだとしています。

ことし8月には、世界の核軍縮の方向性を定めるNPT=核拡散防止条約の会議が開かれる方向となっていて、政府としては立場の異なる国々の橋渡し役として議論をリードし国際的な存在感を示していきたい考えです。

核軍縮を米政府に提言 米シンクタンクは

アメリカはこれまで、核兵器禁止条約は核抑止力を必要とする現在の安全保障情勢を考慮しておらず、核軍縮を進める現実的な方法ではないとして一貫して反対の立場を示しています。

核軍縮をアメリカ政府に提言しているアメリカのシンクタンク「軍備管理協会」のダリル・キンボール事務局長は「バイデン政権は条約を支持しないだろうし、署名すると宣言することもないだろうが『条約は、核兵器のない世界という共通の目標に貢献するものだ』と表明することは可能だ」と述べて、新政権が条約を完全に否定するのではなく、一定の理解を示すことに期待を示しました。

その理由としてキンボール氏は、バイデン大統領について「アメリカのどの大統領よりも核兵器の脅威と軍備管理について深い知識と経験を持っている」と評価しています。

さらに、1年以内に開かれる条約の締約国会議では、被ばく者への救済が重要な議題の1つになるとしたうえで「アメリカ政府は過去の核実験や核兵器製造施設で働いていて被ばくした人への補償を続けている。アメリカや他の核保有国が締約国会議にオブザーバー参加することは意味がある」と述べて、アメリカはオブザーバー参加を検討すべきだという考えを示しました。

ローマ教皇「すべての国と市民が核なき世界に向け決意を」

核兵器の廃絶に向けて積極的に取り組むローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は核兵器禁止条約の発効に先立ち、20日、バチカンで声明を発表しました。

この中で、フランシスコ教皇は「この条約は、短時間で多くの人々を襲い、長期にわたって環境を破壊する核兵器を明示的に禁止する初めての法的拘束力のある国際的な手段だ」と述べて、その意義を強調しました。

そのうえで「すべての国と市民が核兵器のない世界に向けて必要な条件をつくるために決意をもって取り組むことを呼びかける。これこそが平和や国際協調の進展につながる」と訴えました。

フランシスコ教皇はおととし、被爆地の長崎と広島を訪れ「核兵器は使うことも持つことも倫理に反する」などと述べて核兵器の廃絶を強く訴え、各国政府に具体的な行動をとるよう求めていました。