立憲民主党代表 枝野幸男
単独インタビューで語る

立憲民主党の枝野幸男代表は、「クローズアップ現代+」(1月19日放送)の単独インタビューに応じました。インタビューでの発言の概要です。
(聞き手・武田真一キャスター)

野党第一党としてコロナ禍にどう向き合う

武田 新型コロナウイルス感染症の国内の感染確認から1年がたちました。今国民は大きな不安のなかにあるわけですが野党第一党の党首として、この不安にどう向き合っていこうとお考えですか。

枝野 事業の継続や暮らしが成り立たないというような方に対する支援が不十分であると。これは、この間も一歩ずつ前へ進めてきましたが、さらに強力に支援をしていかなければならない。もう1つは感染拡大をいかに防ぐか、徹底した検査をわれわれは繰り返し申し上げてきましたが、もう自治体などでも世田谷区や埼玉県など、すでにわれわれがずっと提案してきた幅広の検査をスタートさせたところもあります。これを国全体で進めていくことで早く感染を封じ込める、そのことのために、さらに具体的な提案を進めていきたいと思います。

武田 去年、ほぼ1年間、コロナと闘い続けてきて、年明け、年末年始からまた感染確認の件数が大幅に増えています。こういった状況をどういうふうな危機感で受け止めていますか。

枝野 感染拡大防止と経済を同時に進めようとしてきた戦略が間違いであったということを早く認めて方針転換すべきだと思っています。台湾やニュージーランドなど、まずは徹底して感染を抑え込む、国内の感染を、ほぼゼロにする状況のなかではじめて経済を回していけるという成功例があります。一方で感染がある程度広がった状況では経済を回せば回すほど感染が広がるということを、日本を含めて欧米の多くの国は繰り返している。今こそ方針転換が求められていると思っています。

武田 枝野さんご自身も危機感を持っていらっしゃる、大きな危機感を持っていらっしゃる。

枝野 もう危機感を超えていると思っています。医療はもはや、崩壊状態だと、逼迫(ひっぱく)を超えています。救急車もたらい回しで、新型コロナウイルス感染症ではない方でも命の危機にさらされています。あるいは自宅待機、ホテル療養のあいだに命を落とされる、病床が不足しているということで命を落とされている方が出ている状況です。もはや医療は崩壊しているという前提、危機感を超えた思いで方針転換をして、徹底した感染の封じ込めに取り組んでいくべきだと思っています。

今、政治に何が足りないのか

武田 枝野さんは今年の初め、「日本の政治が機能していないことで命が失われている」と発言されていたと思います。枝野さんご自身も野党第一党の党首として日本の政治を担っていらっしゃるわけですが今政治に何が足りないのでしょうか。

枝野 最悪の事態を想定して、菅さんがよく先手先手とおっしゃっていますが実態は後手後手です。先手を打って命と暮らしを守っていく。私どもも「Go Toキャンペーン」の停止、緊急事態宣言を早く出せ、特別措置法の改正案など先手先手で提案してきましたが、残念ながら政府与党に受け入れさせることができず結果につながっていないことを大変申し訳なく思っています。ぜひわれわれの提案を実現をさせるということで、今の状況を転換させていきたいと思います。

武田 さまざまな提案をしながらも実現できない、まさに野党の立場だからということだと思いますが、政治が機能するということは、いったいどういう状態なのか、野党に政治が機能するために今求められていることは何ですか。

枝野 国会の動きと、国民の皆さんの声がうまくつながっていけば政治を動かすことができます。実際、昨年検察庁法の改悪問題であるとか、大学入試の問題など国会では少数派であるわれわれの提案が国民の世論に押されて実現することができたという成功例をわれわれは経験しています。これをうまく生かして、さらに今、直面している緊急事態に対応していかなければならないと思っています。

武田 今、まさに緊急事態に対応するために求められている野党の役割とは。

枝野 政府の対応の問題点を厳しく追及していくこと。何が問題かを国民の皆さんに共有していただかなければ物事は進みません。そのうえで、どう改善するか、どう転換するかを、しっかりと示して、それに国民の皆さんの賛同を得ていく。これを国会の内外で進めていくことだと思っています。

世論調査をどう見るか

武田 NHKの最新世論調査(1月調査)では菅内閣を支持すると答えた人が40%、支持しないと答えた人が41%で、菅内閣発足以降初めて支持と不支持が逆転しました。菅政権の何が支持率下落につながっているとお考えですか。

枝野 あまり私は個別の世論調査の数字は直接には反応しない、というのはさまざまな長い大きなトレンドで見なければいけないと思っているので個別の世論調査にはコメントしないということをずっと申し上げています。ただ、菅内閣については発足前から私は菅内閣には菅官房長官がいない、これではおそらく政権は回らないだろうと申し上げてきました。心配したとおりの状況になっている。政権の要役として回せる人がいない。それを総理自身が無理に自分でやろうとして混乱を招いていると思います。

「菅官房長官がいない政権」どういう問題が

武田 菅内閣の菅官房長官がいないという問題によって、今の政権に何が、どういう問題が起きていますか。

枝野 なんといっても感染症対策ですが全体を俯瞰した司令塔がいない。あえていえば菅総理しかいない。これでは、非常に大きな霞ヶ関を動かす、政府与党を動かすことは不可能です。

武田 西村大臣が全体的な対策をとっているようにも見えますが。

枝野 医療関係は厚生労働省ですし「Go Toキャンペーン」は農林水産省、国土交通省、経済産業省など省庁にまたがる課題です。それを西村大臣が各省大臣を束ねるかたちで進めているかというと、そうはなっていません。したがって、各省がそれぞれバラバラに動いて、それを西村大臣はホッチキスで留めているような状況です。これでは効果的な対策は打てない。ちぐはぐな対応になっていると言わざるを得ません。

菅政権のコロナ対応 問題点は

武田 今の菅政権のコロナ対応の一番の問題点は。

枝野 本質的な問題は正常性バイアスに陥っていることだと思います。通常と変わりはないんだということで事態を小さく見すぎてしまっている。「Go Toキャンペーン」も平常時におこなう産業政策としては一理あるかもしれませんが、今は緊急事態であって人の移動を増やせば感染が拡大して、もっと深刻なことになる。それを受け止められない正常性バイアスが働いている。ここを脱却しない限り、この危機を乗り切ることはできないと思います。

武田 もっと危機感を持つべきだと。

枝野 常に危機対応におけるリーダーの役割は、常に最悪を想定しながら対応していくことだと思っています。私自身が東日本大震災のとき、それを痛感しながら対応に当たっていました。むしろ今、菅さんは最悪どころか、最善のシナリオを描いて、そこになんとかもっていこうとしている。これは危機管理のあり方として根本的に違っていると思います。

立民と自民に支持率の差 何が足りないのか

武田 立憲民主党の支持率は今月6.6%と自民党に大きく水をあけられています。菅政権への批判の受け皿となり得ていないのではないかと思いますが、何が足りないのでしょうか。

枝野 政党として再出発したのは(去年)9月15日です。そんなに簡単に支持率が飛躍的に上がるということはむしろ、あり得ません。いかに地道に、じわじわと立憲民主党がしっかりと役割を果たしているなと、そして、あなたのための政治ということを訴えていますが、そうした活動を進めているなということを、いかに地道に伝えていくか、私は総選挙の公示日に政権の選択肢として認めてもらえる、そのことを目標に今しています。そこに向けては着実に前に進んでいると自負しています。

武田 そうは言っても多くの国民が政権に不満を持っている今こそ、野党が存在感を発揮できるのではないかと思いますが、そこはどうお考えですか。

枝野 国会の内外で地道な活動を繰り広げていって地道に理解を深めていく以外に、あることをすれば奇策を打って支持率を跳ね上げるというような邪道を歩んではいけないと、あくまでも王道を歩んでいかなければいけないと私は思っています。

政権を担ったら感染症対応はどう変わる

武田 立憲民主党が政権を担当するとしたら、新型コロナウイルス感染症対応は、どこが変わりますか。

枝野 まず徹底した感染抑止のためにあらゆる資源を投入します。例えばニュージーランドで成功しているゲノム解析は、日本でほとんど進んでいません。PCR検査も民間で私費でおこなわれている検査は、非常に広がっていますので、そうした皆さんにも協力を求めていくことは十分可能です。しっかりと国民の皆さんの理解を得られるかたちで徹底して感染を抑え込む。実際にニュージーランドや台湾では国内での感染がゼロという状況を長く続けています。これさえできればマスクをせずに安心して会食にも旅行にも行ける、こういう状況をつくるための感染抑止を徹底しておこないます。

武田 感染を抑えて命を守る、経済を回して仕事や暮らしを守る、非常に難しい舵取りが求められると思いますが、枝野さんはどうバランスをとられますか。

枝野 そのバランスという考え方が間違っているということです。つまり、経済を活発にすれば感染は広がるという相関関係にあるわけですから、まずは、感染をゼロに限りなく近づける。幸い日本はニュージーランドや台湾と同じような島国です。水際対策さえしっかりすれば国内で封じ込めれば、マスクや旅行に行くなとか、こうしたことは、全部、取っ払えるんです。まずは徹底して感染を抑えること、それが最大の経済対策です。その間は、いかに事業を支えるか、暮らしを支えるか、災害対策のような考え方で実際に地震や津波で避難されている方は生活を全面的に災害救助法で支えるんです。私は一貫して、これは災害だと、したがって生活できない方、事業ができない方は災害と同じように支える。このことでつなぎながら感染を抑止することができると思っています。

野党のメッセージ 伝わっているか

武田 国民の協力を得ることがもっとも大事だと思いますが、国民の協力を得るために政治がどうメッセージを発していくかが大切だと思います。枝野さんは、どうお考えですか。

枝野 しっかりとリーダーが自分の言葉で国民の皆さんに問いかけること、呼びかけること。それから国民の皆さんに代わって、お尋ねをする国会での質疑やメディアの皆さんとの記者会見などで真摯に向き合って正面から答える。今、これが欠けているので何を言っても国民の耳に入らない、届かない状況になっている状況を大変残念に思っています。

武田 野党が主張していることも国民に十分伝わっているのかということもあると思います。そこは野党第一党の党首として、国民にどう訴えかけていくべきだとお考えですか。

枝野 なかなか選挙のとき以外は野党の提案をメディアも大きく取り上げることはできないというのは私も理解しています。したがって、それぞれの地域で、それぞれの議員や候補予定者が地道な活動を展開していく以外には、われわれの主張を十分に届けていくことはできない。幸い、今衆議院では(立候補予定者を含め)200人を超える仲間が次の総選挙に向けて活動できる状況になって、面で発信できる状況になっています。これを生かしていくことができれば総選挙の公示日には政権の選択肢として認めていただけると思っています。

通常国会 どのような対応を

武田 新型コロナウイルス対応に加えて政治とカネの問題が問われています。通常国会ではどう対応されますか。

枝野 それらの問題も大変重要な問題ではありますが、まずは命と暮らしに直接関わる感染症対策に私は徹底したいと思います。できるだけ早い時期に、そうした問題を国会で追及できるような、そうした状況にまで感染症の状況を改善する、まずはそれが目標です。

武田 国民のなかには確かに国難のなかにあって、いつまでもそのスキャンダルだけを追及することに対して批判もあると思いますが、一方で政治というものに対する信頼が今、揺らいでいるのではないかと、そこを正さなければ、正しい政策が遂行されないのではないかという思いもあると思います。やはりまずは追及してほしいという声もあるのではないでしょうか。

枝野 別にやめるわけではなくて、物事には優先順位がある。徹底してまず感染対策に取り組んで、これで一定の見通しが立ってくれば、そうした根本的な問題をやっていかなければならない。したがって、いつやるかという問題だけです。

武田 まずは今のコロナ対応を建設的に議論していく。

枝野 これまでもわれわれのほうが、より積極的に、効果的な提案をし続けてきている。コロナに関しては間違いなく自信を持ってそう申し上げられます。

政権交代への本気度 伝わっているか

武田 今年は衆議院選挙の年です。政権交代への覚悟、気迫が問われると思いますが、その本気度が国民に伝わっているとお考えですか。

枝野 今の国会の議席数のなかで、あまり声高に言っても、残念ながら説得力は私はないと思っています。ですので、私は政権交代そのものよりも、総選挙までに政権交代の選択肢になるという言い方を申し上げています。まさに、そこを今目標として実現できれば必ず選んでいただけるという自信を持っています。こうした本当に100年に一度というような今、危機のなかに日本があります。ただ、私も官房長官という立場で10年前の東日本大震災の原発事故を政権の中心に近いところで仕事をさせていただきました。まさにその経験を、今、生かさなければならないし、今、生かすことが期待されている。そして、生かす自信はあります。したがって今こそ、この国の舵取りをしっかり担わせていただいて10年前の教訓と経験を生かして命と暮らしを守っていきたいと思います。

武田 政権選択の選択肢になることが目標とおっしゃいましたが、いざ選挙になったら政権交代は当然目指していかれる。

枝野 野党第一党の党首が、総理大臣を目指さなければ日本の民主主義は成り立ちません。私は野党第一党の党首選挙に立候補するときには総理になる準備ができているから立候補しています。そして、今もそういう立場にいます。

武田 そして立憲民主党が政権を取れば、今のこの状況、コロナの状況、さまざまな政治状況、国民の暮らし、これは変わりますか。

枝野 こうした危機ですので、100点満点の答えを出せるとは思っていません。しかし少なくとも今の状況から国民の皆さんが将来に希望を持てる方向に転換することは、必ずできるというふうに自信を持っています。

(1月16日取材)