安倍前首相公設第1秘書を
略式起訴 安倍氏は不起訴

「桜を見る会」の前日夜に開催された懇親会をめぐる問題で、東京地検特捜部は安倍前総理大臣の後援会の政治資金収支報告書におよそ3000万円の懇親会の収支を記載しなかったとして安倍氏の公設第1秘書を政治資金規正法違反の罪で略式起訴しました。一方、安倍氏本人については「会計処理はもっぱら地元事務所が行っており、安倍氏が不記載を把握していたり、共謀していたりする証拠は得られなかった」として嫌疑不十分で不起訴にしました。

略式起訴されたのは安倍前総理大臣の公設第1秘書で、懇親会を主催した政治団体「安倍晋三後援会」の代表を務める配川博之秘書(61)です。

東京地検特捜部によりますと配川秘書は平成28年から去年までの4年間の後援会の収支報告書に「桜を見る会」の前日夜に開催された懇親会で、参加者から会費として集めた1100万円余りの収入や安倍氏側が負担した費用を含む1800万円余りの支出、合わせておよそ3000万円の収支を記載しなかったとして政治資金規正法違反の罪に問われています。

懇親会をめぐっては去年までの5年間の費用の総額がおよそ2300万円に上り、このうち少なくとも800万円以上を安倍氏側が負担していたことが明らかになっています。

しかし収支報告書の保管期間は公表の日から3年間と法律で定められていて、特捜部は選挙管理委員会が報告書の原本を保管していた4年分の不記載の罪で略式起訴したとみられます。配川秘書は4年前まで後援会の会計責任者を兼務し、代表のみになった後も後援会の会計処理を実質的に取りしきっていたということです。

一方、懇親会をめぐっては安倍氏本人に対しても全国の弁護士らから告発状が提出され、特捜部は今月21日、安倍氏から任意で事情を聴きましたが、嫌疑不十分で不起訴にしました。

その理由について特捜部は「会計処理はもっぱら地元事務所が行っており、安倍氏が不記載を把握していたり、共謀していたりする証拠は得られなかった」としています。

安倍氏は事情聴取に対し不記載などへの関与を否定していて、安倍氏周辺の関係者は、去年の年末に、安倍氏本人が事務所の秘書に会費以上の支出がないか尋ねた際、担当者が「5000円以上の支出はない」と事実と異なる説明をしたとしていました。

このほか懇親会をめぐっては安倍氏側が費用の一部を負担したことが選挙区内の有権者への違法な寄付にあたるとして公職選挙法違反の疑いでも告発状が提出されていましたが、特捜部は「参加者に寄付を受けた認識があったとする証拠はなかった」として嫌疑不十分で不起訴にしました。

略式起訴とは

略式起訴は、法廷での正式な裁判ではなく、罰金刑などを求めるもので政治資金規正法違反の不記載の罪のように「100万円以下の罰金または科料」が法定刑に含まれる事件が対象になっています。

容疑者に異議がない場合、検察官が簡易裁判所に起訴状を提出し、裁判所は通常、公開の法廷を開かず、検察官が提出する書面だけで審理します。そして請求が妥当だと認めた場合、罰金などの略式命令を出します。ただ、簡易裁判所が慎重な審理が必要で略式にすべきではないと判断した場合などには、正式な裁判に移行させます。また、略式命令を受けた被告に不服がある場合は、正式な裁判を請求することができます。

略式起訴された事件のほとんどは、簡易裁判所が略式命令を出して手続きを終えていますが、3年前には、大手広告会社「電通」をめぐる違法残業事件で労働基準法違反の罪で法人としての「電通」が略式起訴されたのに対し、東京簡易裁判所は、略式での手続きにすべきではないとして、正式な裁判を開いています。

元検事「起訴すべきか疑問も」

元検事の高井康行弁護士は「今回、後援会が補填(ほてん)したとされる数百万円については、収支報告書に記載するべきもので、不記載の罪が成立することは間違いない。しかし、ホテル側が領収書を出している1人5000円の会費は後援会の収支と言えるのかは専門家の間でも説が分かれる。不記載の総額を会費を含めた3000万円としても過去の不記載の事件と比べて、非常に少ない金額で起訴すべきか疑問だ。ただ仮に起訴猶予にすると検察審査会に『不起訴不当』と議決され捜査が終結しない可能性もあり検察は略式起訴にしたのではないか」と述べています。

そのうえで「今回の事件は安倍前総理大臣の事実と違う国会答弁とセットになって大きな社会問題になっていているが政治的な問題と刑事事件はしゅん別して考えないといけない。一国の総理たる人が国会で答弁した内容が違っていれば政治的責任が発生するのは当然のことで、政治責任をどのように見るかは、安倍氏と有権者が考えることだろう」と指摘しました。