学術会議 おととしの人事
官邸が「順位入れ替えを」

おととし、日本学術会議の会員人事で学術会議が挙げた候補者に総理大臣官邸が難色を示したことをめぐり、当時の学術会議の会長が、官邸側から「1位と2位を入れ替えるべきとの発言があった」とその具体的な内容を説明していたことが、NHKが入手した学術会議の内部文書で分かりました。

日本学術会議の会員をめぐっては、ことし6人の候補が任命を拒否される前から、総理大臣官邸が、学術会議側が挙げた候補者に難色を示すなど人事に関与していたことが、学術会議の複数の元幹部への取材でわかっています。

NHKはおととしと4年前、定年で退任する会員の補充人事をめぐって学術会議が開いた選考委員会の議論を記録した内部文書を情報公開請求で入手しました。

それによりますと、まず、おととしの人事について、当時、学術会議の会長だった京都大学の山極壽一前総長は、任命手続きが円滑に進むよう官邸側に「候補者の現状」を説明したことを明かしたうえで、退任する会員の後任として挙げた2人の候補者について、官邸側から「原案の1位と2位を入れ替えるべきとの発言があった」とその具体的な内容を説明していました。

学術会議側が2人の候補者に順位をつけて官邸側に示したところ、これに異論が出されたことを意味する説明です。

このあと山極氏は「理由については特段の説明は受けていない」と話し、翌月に行われた選考委員会では「再度、感触をうかがってみたところ『総合判断である』と言われた」と説明していました。

また、今回入手した内部文書によりますと、その2年前の2016年には、当時、会長だった東京大学の大西隆名誉教授が、退任する3人の会員の補充人事をめぐって開かれた選考委員会で経緯を説明していました。

この中で大西氏は、3人の後任として2人ずつ、合わせて6人の候補者を、それぞれ「1位」「2位」と順位をつけて示したところ、官房副長官からの回答は学術会議側が「1位」とした人ではなく、「2位」の候補者のうち2人に丸印をつけたものだったと述べていました。

このあと大西氏は「改めて官邸に行って官房副長官と話をしてきたが、理由については明言しないとのことであった。ただし、順番が明記されていることに異論が述べられた。次回以降について、官邸側は、推薦順位をつけない名簿の提示を期待している」と説明していました。

おととし、4年前ともに学術会議側は候補者を差し替えず、退任後は欠員状態が続きました。

政府は24日、日本学術会議の在り方をめぐり政府としての考え方を直接、伝える方針です。

「断固抗議すべき」委員から懸念の声

NHKが入手した4年前の選考委員会の議事の記録からは、当時の会長の説明に対し、委員から懸念の声が相次いでいたことが分かります。

ある委員は「学術会議は独立して活動を行う機関であり、よほどの理由がないかぎり、学術会議からの推薦者をそのまま任命するのが当然で断固抗議すべきと思う。官邸の方針に従って候補者を差し替えてはならない。政治的任用に近い形にされたら独立した提言などもできなくなる」と述べています。

また、別の委員は「任命権者の代理者である官房副長官が理由を明言しないということが理解できない。理由がないかぎり、受け入れることは難しい。きちんとステップを踏んできた、われわれの決定が尊重されないのでは今までの真剣な議論は何だったのか」と話しています。

さらに「重要な問題が起こった。理由もわからないまま官邸の意向をのめば、これが前例となり、理由不明のまま会員が選ばれる事態が恒常化してしまう。今回、きちんとした対応をすることが重要だ」と述べた委員もいて、総理大臣官邸の関与に対し、当時から、学術会議側が問題意識を持っていたことが見て取れます。

ことしの会員任命めぐる内閣府文書に「外すべき者」

今回、NHKが情報公開請求で入手した資料の中には、ことしの会員任命をめぐって内閣府が作成した、政府の意思決定の過程に関する文書があります。

この中の1つには、6人を除外して99人を任命する人事が起案された日と同じ令和2年9月24日という日付とともに、手書きで「外すべき者(副長官から)」と記されています。

ただ、これ以外の部分は黒塗りになっていて、内容を知ることはできません。

この文書は今月11日に開かれた参議院予算委員会の理事懇談会でも議論になり、政府側は文書に書かれている「副長官」が杉田和博官房副長官だと説明しましたが、黒塗りになっている部分に何が書かれているかについては「人事に関することなので答えられない」として説明しなかったということです。

同じ日、加藤官房長官は記者会見でこの文書について「総理の判断が内閣府に伝えられ、事務方が記録したものだ」と述べています。