学術会議会長「活動に著しい
制約」大臣「協力し改善策」

井上科学技術担当大臣は29日、日本学術会議を初めて訪れ、梶田会長ら幹部と意見を交わしました。この中で、学術会議側が会員候補6人が任命されなかったことについて危惧を訴える一方、井上大臣は、会員の多様性を持たせるため協力して対応したいと伝えました。
また、梶田会長は29日、記者会見し、「会員候補6人が任命されなかったことが運営や活動の著しい制約になっている」として、菅総理大臣に対し引き続き理由を明らかにするとともに任命を求めていく考えを示しました。

学術会議 梶田会長「任命されなかったこと 活動の制約に」

日本学術会議は29日、梶田会長の就任後初めてとなる記者会見を開きました。

梶田会長は推薦した会員候補6人が任命されなかったことについて、「青天のへきれきという事態で、学術会議の運営や活動に著しい制約となっている。未来志向の対話を政府と学術会議が行う上で任命されなかったことが大きな妨げになることを危惧している」と述べ、菅総理大臣に対し引き続き理由を明らかにするとともに任命を求めていく考えを示しました。

また、会見では、学術会議の活動に関するさまざまな誤解があるとして、選考方法や会員について説明が行われ、会員が次の会員の候補者を選ぶ方式は、世界の多くのアカデミーで採用されているほか、現在、女性の会員の割合は37%あまりになっていることや地域性など多様性に配慮した選考が行われているという見解を示しました。

梶田会長は「正確なデータに基づき、議論をしていただき、よりよい活動ができるように今後も改革を進めていきたい」と話していました。

日本学術会議は正確な情報発信を強化したいとして、次はおよそ2週間後に記者会見を行うとしています。

井上大臣「会員の多様性持たせるため協力して対応を」

井上大臣は、東京・港区にある日本学術会議を初めて視察に訪れ、梶田会長ら幹部と意見を交わしました。

この中で、学術会議の幹部からは、推薦した会員候補6人が任命されなかったことについて、「健全な活動のための条件が損なわれていると言わざるを得ず、極めて遺憾だ。一刻も早く事態が是正されないと、政府との信頼関係が損なわれ、会議が果たすべき役割を果たすことが困難にならないか、危惧している」などという意見が出されました。

また、会員候補の選び方については、「膨大なリストから、ふさわしい業績を持つ人を、地域やジェンダー、研究分野などに目配りしながら適切に選んでおり、かなり慎重に進めている。個人が指名することは全くできない」と説明しました。

これに対し、井上大臣は、「個人の業績を評価しながらもより多様性を持たせるためにどうすればいいのか、協力しながら改善策を考えたい」と伝えました。

視察のあと、井上大臣は、記者団に対し、「国民の関心も高いので、スピード感を持ちながら学術会議のあり方を検証していく。会員の任命に関する意見は、菅総理大臣にも伝えたい」と述べました。

会員選出方法と法解釈

日本学術会議の会員は昭和24年の設立以降、全国の科学者による選挙で決められていましたが、昭和58年に日本学術会議法が改正され、研究分野の学会ごとに候補者を推薦し、その推薦に基づいて総理大臣が任命する仕組みに変わりました。

法律の改正案が審議されたこの年の参議院文教委員会で政府側は、「形だけの推薦制であって、学会の方から推薦をしていただいた者は拒否はしない」と答弁しています。

その後、学会の仲間うちで会員を引き継ぐなれ合いなどが問題視され、会員の選出方法は、平成16年の法改正で、現役会員などが候補者を推薦する現在の方式に変更されました。

この年の1月、当時、学術会議を所管していた総務省が法改正の際に内閣法制局への説明用として作成した内部文書には、「学術会議から推薦された会員の候補者につき、内閣総理大臣が任命を拒否することは想定されていない」と記されていて昭和58年の国会答弁を踏襲する形になっています。

一方、政府内ではおととし11月、総理大臣による会員の任命権についての見解を整理したとする文書をまとめていて、「内閣総理大臣に学術会議の推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」と記されています。

今回の任命拒否と過去の国会答弁との整合性について政府側は「必ず推薦のとおりに任命されなければならないわけではないという点は、内閣法制局の了解を得た政府としての一貫した考えだ」としていて法律の解釈を変更したものではないとしています。

文書めぐって当時の会長と事務局の説明が食い違い

「内閣総理大臣に学術会議の推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」。こう記された文書をめぐっては、学術会議の当時の会長と事務局の説明が食い違っています。

この文書はおととし11月13日付けで内閣府の日本学術会議事務局が作成したもので、総理大臣による会員の任命権についての見解を整理したものだとしています。

この文書の内容について作成当時、学術会議の会長を務めていた山極壽一さんは、NHKのインタビューに対し「これまで説明は受けておらず、全く知らない。文書の存在すら知らされていなかった」と証言しています。

一方、内閣府の学術会議事務局の担当者は、今月21日に開かれた野党側の会合で「山極前会長には文書の内容について報告をしていると聞いている」と述べています。

この文書を作成した経緯について今月7日の衆議院内閣委員会の閉会中審査では学術会議の事務局長が、「今回の改選に向けて、被任命者よりも多い候補者を推薦することと、推薦と任命の関係について法的整理を行った」とした上で、総理大臣官邸からの指示でまとめたものではないと説明しています。

山極前会長「2年前も難色 理由示さず恐ろしい」

日本学術会議が推薦した会員候補6人が任命されなかったことを受けて、推薦の責任者で、先月まで日本学術会議の会長を務めた山極壽一さんが初めてこの件についてインタビュー取材に応じました。

この中では、今回の件よりも2年前、定年によって会員の補充が必要になった時に、学術会議側が検討していた候補の名前を伝えたところ、官邸から難色が示され、この時も理由が示されなかったということで、当時の経緯を詳細に語りました。

山極前会長は、「学術会議で議論をし直す場合は理由が必要なので、『理由を教えて下さい、そのために官邸に出向きます』と、杉田官房副長官に事務局を通じて何度も申し上げたが、『来る必要はない。理由も言うつもりはない』とそれ一辺倒なので非常に困りました」と語り、最終的には欠員とせざるを得なかった状況を語りました。

そして、今回の6人が任命されなかったことについては、任期がはじまる今月1日の直前に知らされたということで、「9月28日の晩に内閣府から内示があり、6人が任命されないことを知り大変驚いた。推薦したなかに官邸が渋っている人たちがいるとうわさはあったが、文書や電話での正式な連絡は一度もなかった。すぐに菅総理大臣に宛てて理由を尋ねたものの、まったく回答が得られなかった。理由があれば議論できるが、理由を示さないことが恐ろしいところだ。まずは理由を説明していただきたい」と話しました。

また、会員の任命をめぐって、今月開かれた野党の会合で、政府はおととしまとめた文書を提出し、その中で「内閣総理大臣に、会議の推薦通りに任命すべき義務があるとまでは言えないと考えられる」などとする見解を示していて、この文書について山極前会長は「これまで説明は受けておらず、文書の存在すら知らされていなかった」と話しています。

その上で山極前会長は「さまざまなところで任命権者が理由なく人事を認めないことがまかり通るようにならないか心配している。国が人事にまで介入してくると、大学をはじめとする学術界全体の自立性が大きく損なわれかねない」と強い危機感を示していました。

坂井官房副長官「答えは差し控える」

山極前会長が、NHKの取材に対し、2年前の会員候補の人事で官邸から難色が示され、理由が示されなかったなどと話していることについて、坂井官房副長官は、記者会見で、「人事に関することなので、お答えは差し控えさせていただきたい」と述べました。

百地氏「首相の任命権 自由裁量ある」

「日本学術会議」の会員候補6人が任命されなかったことについて、憲法が専門の百地章国士舘大学特任教授は、「総理大臣の任命権は、ある程度の自由裁量はある」などと述べ、政府の対応に理解を示しました。

この中で、百地特任教授は、「私は結論的には任命拒否はあり得ると考えている。菅総理大臣はいろいろなバランスとか総合的に考えたと言っており、総理大臣の任命権は、学術会議の推薦に拘束されるものではなく、ある程度の自由裁量はある。法律の解釈は変わらない。運用で少し変化が出たと私は理解している」と述べ、政府の対応に理解を示しました。

その上で百地氏は、「学術会議そのものにも問題があるようだと考える人たちも増えている。本来のあり方に持っていこうということで、改革の動きが出てきているのは当然ではないか」と述べました。

また、百地氏は、「学問の自由を侵し、萎縮を招く」といった批判が野党などから出ていることについて、「私から言わせるとナンセンスだ。学術会議の会員になれなかったからと言って、学問の自由は侵害されないのではないか」と述べました。