ージス・アショア
配備計画停止を表明

河野防衛大臣は、新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の山口県と秋田県への配備計画を停止する考えを表明しました。これにより日本のミサイル防衛計画の抜本的な見直しが迫られることになります。

「イージス・アショア」は、アメリカ製の新型迎撃ミサイルシステムで、政府は、山口県と秋田県にある、自衛隊の演習場への配備を計画していました。

このうち、山口県の演習場への配備について、河野防衛大臣は15日夕方、記者団に対し、迎撃ミサイルを発射する際に使う「ブースター」と呼ばれる推進補助装置を、演習場内に落下させると説明していたものの、確実に落下させるためには、ソフトウェアの改修だけでは不十分だと分かったことを明らかにしました。

そのうえで「ソフトに加えて、ハードの改修が必要になってくることが明確になった。これまで、イージスアショアで使うミサイルの開発に、日本側が1100億円、アメリカ側も同額以上を負担し、12年の歳月がかかった。新しいミサイルを開発するとなると、同じような期間、コストがかかることになろうかと思う」と述べました。

そして「コストと時期に鑑みて、イージス・アショアの配備のプロセスを停止する」と述べ、配備計画を停止する考えを表明しました。

こうした方針をNSC=国家安全保障会議に報告して、政府として今後の対応を議論するとともに、北朝鮮の弾道ミサイルには当面、イージス艦で対応する考えも示しました。

さらに河野大臣は、山口県と秋田県の両知事に15日、電話で報告したとしたうえで、できるだけ早い時期におわびに赴く考えを明らかにしました。

政府は、北朝鮮の弾道ミサイル攻撃への対処能力を高めるためとして、3年前の2017年にイージス・アショアの導入を閣議決定していましたが、ミサイル防衛計画の抜本的な見直しが迫られることになります。

「イージス・アショア」とは

「イージス・アショア」は、弾道ミサイルに対処できる海上のイージス艦と同様の機能を地上の施設として整備した地上配備型の迎撃ミサイルのシステムです。

アメリカが開発したもので、大気圏を高速で飛ぶ弾道ミサイルを追尾できる高性能レーダーと日本国内に落下のおそれがある場合などに撃ち落とす迎撃ミサイルのSM3などで構成されます。

イージス艦と同じように弾道ミサイルを大気圏の外で迎撃できる能力があり、防衛省はこのシステムの導入によって現在、2段構えとなっている弾道ミサイルの迎撃態勢を3段構えにしたいとしています。

具体的には、弾道ミサイルに最初に対応するのが海上に展開したイージス艦で、撃ち漏らした場合や複数のミサイルが飛来してきた場合などにイージス・アショアが迎撃し、さらに地上近くで迎撃するPAC3が備えるというものです。

「イージス・アショア」の仕組みと運用

防衛省によりますと、イージス・アショアに使用する高性能レーダーは、イージス艦で使用しているレーダーに比べてさらに探知の範囲が広いタイプを計画しているということです。

また、迎撃ミサイルは、日米が共同で開発を進めている「SM3ブロック2A」という新型で、イージス艦に搭載されている現在のSM3に比べ、大幅に能力が向上するとしています。

射程が伸びることに加えて、赤外線センサーを使って対象を探知し、自動で向かっていく能力が上がるということです。

こうした能力の向上によって、防衛省は現在のイージス艦に比べ防護の範囲が広がるとしていて、イージス・アショアでは2基で防護が可能だとしています。

また、イージス・アショアは地上に設置するため、海上に展開するイージス艦に比べて隊員の負担が少なく、常時、運用する態勢がとりやすくなるということです。

防衛省は、弾道ミサイルへの備えとして、ふだんはイージス・アショアで対応し、情勢が緊迫した際にはイージス艦を加えて態勢を強化する運用方針を検討しています。

当初 山口県萩市と秋田市が候補地に

防衛省は、イージス・アショア2基で日本全域を効果的に防護するには秋田県付近と山口県付近に配備する必要があるとして、当初、山口県萩市にある自衛隊のむつみ演習場と、秋田市にある自衛隊の新屋演習場を配備の候補地としていました。

防衛省は、地元と調整するなどしてきましたが、このうち秋田市の演習場については、防衛省のずさんな調査などで地元で反発が広がり、候補地をゼロベースで検討するとして、再調査を行ってきました。

外務省の幹部は

外務省幹部は午後6時すぎ、記者団に対し「日本の防衛のために日本の防衛省が判断した話であり、アメリカが何か言ってくることはないのではないか」と述べました。

一方で、別の外務省幹部はNHKの取材に対し「日本の国内事情を理由に配備を停止することになり、アメリカに丁寧に説明しないと、日米同盟や、トランプ政権との関係に悪影響を及ぼすおそれがある」と指摘しました。

秋田県 佐竹知事「賢明な判断」

秋田県の佐竹知事は「ミサイルのブースターの落下地点を正確にコントロールすることは周辺地域の安全確保に不可欠な重要な要素だ。この点に関し、ソフトウェアのみならずハードウェアとしてのミサイル本体の改修も必要となれば、さらに多額の費用と相当の期間が必要となり、改修が成功したとしても、その間の他のミサイル類の技術的進歩を考えれば、そもそも能力的な問題が生じる。したがって、プロセスの停止、現行配備計画を停止することは賢明な判断だと考える」とコメントしています。

秋田市長「振り回された 防衛省は全く無責任」

配備候補地の陸上自衛隊新屋演習場がある秋田市の穂積市長は「防衛省から事前に連絡もなく突然報道されたが、停止という意味も含めて今後の対応を地元に早急に説明すべきだ。地元がいろいろと振り回されてきたことは誠に遺憾であり、防衛省の姿勢は全く無責任と言わざるを得ない」というコメントを出しました。

新屋勝平地区振興会「中止なら地元も安心」

「イージス・アショア」の秋田市新屋地区への配備計画に反対してきた「新屋勝平地区振興会」の佐々木政志会長は「計画の停止ということは、一度止まったあと、再び計画が動き出すこともあると捉えることができるので、いずれ計画が動くのではないかという心配の要素がある。しっかり中止と言ってもらえれば、地元の人たちにも安心してもらえる」と話しています。

山口県 村岡知事「適切な判断だが詳細説明を」

山口県の村岡知事は15日午後5時すぎ、河野防衛大臣から計画の停止について直接説明を受けたことを明らかにし、「大臣からは『難しい課題を検討いただいた中でこうした形になり、大変申し訳ない。改めておわびと説明に行きたい』ということだった。私からは『わかりました』とだけお話しした」と述べました。

そのうえで「突然のことなので大変驚いた。配備にあたっては地域の安心安全がしっかり守られることが必要だが、その実現が難しいと今回判断されたことは適切なものだと受け止めている。ただ、詳細がわからないので大臣が来た際に直接説明を聞きたい」と述べました。

山口県 萩市長「驚き以外無い」

山口県萩市の藤道健二市長は「これまで2年近く防衛省・市・住民が話し合いをしてきてこういう結果になり、驚き以外、何物でも無い。NSC=国家安全保障会議でイージス・アショアの配備を今後どうするか議論されると思うので、どういった方向にするのか、今後、防衛省から聞くことになるのではないか」と述べました。

山口県 阿武町長「白紙撤回を望んでいる」

山口県萩市の自衛隊演習場に隣接し、配備に反対してきた阿武町の花田憲彦町長は、15日午後6時すぎに河野防衛大臣から直接、計画の停止についての報告と、おわびに訪れたいという内容の連絡があったことを明らかにしました。

そのうえで花田町長は「『演習場の中にブースターを確実に落とす』という、これまでの説明は何だったのか。停止ということばの意味の深いところまでは理解していないが、国家安全保障会議の中で、得策ではないことが認められ、白紙撤回となることを望んでいる」と述べ、計画の停止を歓迎する考えを示しました。

立民 福山氏「国会での説明強く求めたい」

立憲民主党の福山幹事長は記者団に対し「安全保障上、どれほど有効なのかという議論も拙速に行われ、導入や配備先が決められた。非常に大きな政策変更なので安倍政権の責任を問うていく必要がある。これまでの説明との整合性をどう取るのかなど、国会での説明を強く求めたい」と述べました。

海上自衛隊 元海将「もう少し早く判断できたのでは」

「イージス・アショア」の配備計画をめぐり、河野防衛大臣が計画を停止する考えを表明したことについて、海上自衛隊の元海将の香田洋二さんは、「ブースターを民家などの上に落下させないようにするということは、当初から技術的に難しいと予想されたことで、計画の停止はしっかりとした決断だとも言えるが、もう少し早く判断できたのではないか」と話しています。

そのうえで「ブースターを制御して狙ったところに正確に落とすということは、技術的にこれまでやったことがなく、防衛省が目指していた期間やコストで実現し、安全性を確保することは難しいものだった。今回の件は防衛省が専門家の意見を聞かず、みずからの正当性に固執しすぎた結果だと言え、今後、包括的な説明が求められる」と指摘しました。

米 アジア太平洋戦略への影響など検討か

アメリカ政府は公式な反応を示していませんが、イージス・アショアの日本への配備で日米の防衛協力が強化されると評価してきたことから、その影響などを検討しているとみられます。

イージス・アショアの日本への配備をめぐっては去年9月、当時、国防総省で安全保障政策を担当していたルード次官が「アジア太平洋地域における同盟国との連携において日本が2基のイージス・アショアを配備するのは最もよい例だ」と述べるなど、日米の防衛協力が強化されるとして高く評価していました。

また2018年には当時のハリス太平洋軍司令官が「日本の防衛を支援するアメリカ海軍の艦船の負担を減らし、その分の艦艇を南シナ海やインド洋など必要な場所に派遣できる」として、アメリカ軍の負担の軽減と役割の分担につながるという認識を示していました。

このためアメリカ政府として、配備計画の停止が日米の防衛協力とアメリカ軍のアジア太平洋戦略に与える影響などを検討しているとみられ、今後、国防総省やホワイトハウスがどのような反応を示すかが焦点となります。