察庁法の改正案 不信任
決議案提出で採決見送り

検察庁法の改正案をめぐり、野党側は武田国家公務員制度担当大臣に対する不信任決議案を提出し、15日の採決は見送られました。与党側は来週、決議案を否決したうえで改正案を採決したい考えで、与野党の攻防が激しくなる見通しです。

検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案は、国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げるための法案とともに15日午後、衆議院内閣委員会で、武田国家公務員制度担当大臣のほか、森法務大臣も出席して質疑が行われました。

その後、理事会で、与党側は「野党側の要望を受けて森大臣が出席し、しっかりとした質疑ができた」などとして、直ちに採決したいと提案しました。

一方、立憲民主党、国民民主党、共産党、社民党の野党4党は、15日の採決を阻止するため、武田大臣に対する不信任決議案を衆議院に提出しました。

決議案では「武田大臣は、無責任かつ不誠実な答弁を繰り返し、説明責任を果たそうという姿勢がみじんもない」などとしています。

これを受けて委員会は散会し、15日の採決は見送られました。

与党側は、来週19日の衆議院本会議で決議案を否決したうえで改正案を採決したい考えで、与野党の攻防が激しくなる見通しです。

武田大臣「引き続き職務全うしていきたい」

武田国家公務員制度担当大臣は記者会見で「不信任決議案が提出された事実を受け止め、あとは国会の判断に委ねなければならないが、引き続きしっかりと職責を全うしていきたい」と述べました。

自民 森山氏「極めて遺憾」

自民党の森山国会対策委員長は記者団に対し「不信任決議案が提出されたことは極めて遺憾だ。武田大臣は、よく勉強し、誠意を持って答弁している」と述べました。

その上で「われわれは誠心誠意努力しているつもりで、国民に理解してもらうために、森法務大臣の出席も必要だと判断し、きょう審議した。かなり審議が進んでおり、委員会通過を急ぎたい。来週、不信任決議案を処理して、正常化を図りたい」と述べました。

そして、野党側が求める改正案の撤回や修正は「考えていない」と否定し、今の国会で成立を図る考えを強調しました。

自民 井上氏「ありえないやり方」

衆議院内閣委員会で与党側の筆頭理事を務める自民党の井上信治氏は記者団に対し「私から理事会で採決をお願いし、野党側が反対して、委員長が意見を聞いている中で、武田大臣の不信任決議案が出されたという情報が飛び込んできた。本当に遺憾に思う。与野党で何とか合意を探ろうと協議している最中に全く知らないところで出され、暴挙で、ありえないやり方だ」と述べました。

立民 安住氏「立ち止まって考えて」

立憲民主党の安住国会対策委員長は記者団に対し「武田大臣は、検察庁法の改正案について聞くと『法務省に聞いてくれ』と答弁し、質疑にならない。国民は、政治権力が自分たちの思うような人事をしようという、よこしまな考えを持つのは、やめた方がいいと思っている。『安倍総理大臣も与党も、もう1回立ち止まって考えて下さい』という、私たちなりのメッセージだ」と述べました。

国民 玉木氏「多くの国民が不要不急と感じている」

国民民主党の玉木代表は、記者団に対し、「武田大臣も森大臣も、定年を延長する基準を答えられなかったが、作ったとしても、あいまいな『ザル基準』になるのではないか。多くの国民が、政府は不要不急の法案の審議をしていると感じているので、定年延長を可能にする規定の削除を勝ち取りたい。また、声を上げていない与党議員にも良識ある判断を求めたい」と述べました。

共産 穀田氏「国民の声は否決できない」

共産党の穀田国会対策委員長は記者団に対し「三権分立を踏みにじり、法治主義を後退させるのを止めるため、不信任決議案を提出した。国会では数をもって否決できても、国民の声は否決できない」と述べました。

また自民党が、採決が強行された場合に退席する意向を示した、みずからの党の議員を内閣委員会の委員から外し、差し替えたことについて「言語道断で、自民党の執行部の体質が現れている」と批判しました。

社民 福島氏「検察制度の根幹に関わる問題」

社民党の福島党首は記者会見で「ツイッターを通じた国民の声や野党の結束によって、きょうの衆議院内閣委員会での採決を阻止することができた。検事総長や検事長の定年延長を個々に内閣が決めるというのは、検察制度の根幹に関わる問題だ。引き続き法案が成立しないよう、全力で頑張りたい」と述べました。

衆院 内閣委 森法相も出席の質疑は

検察庁法の改正案をめぐり、森法務大臣は衆議院内閣委員会で「検察の人事は、時の政権に都合のいい者を選ぶことがあってはならない」と述べ、法案の成立後も検察官の人事は、検察権を適正に行使する観点から行われる必要があるという考えを示しました。

検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案は、国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げるための法案とともに、15日午後、衆議院内閣委員会で、森法務大臣も出席して質疑が行われました。

国民民主党の後藤祐一氏は、検察官が検事長などの幹部ポストに、63歳の「役職定年」以降もとどまることができる特例に関する新たな規定について「どういう場合に認めるかの基準を明確にする必要がある。検察に特化した説得力がある厳格な基準を作るつもりはあるのか」とただしました。

これに対し森大臣は「新たな人事院規則に準じて、内閣が定める事由で、より具体的に定めるが、現時点で人事院規則が定められていないので、具体的にすべて示すことは困難だ。人事院規則に従って、より具体的に定めたいし、その手続きも閣議了解などの適切な手続きをとる。具体的な要件を定めるべくしっかり検討していく」と述べました。

そのうえで森大臣は「勤務延長などがあくまで定年制度の例外であることを踏まえ、検察官の定年延長等については限定的に運用されていくと理解している」と述べました。

共産党の藤野保史氏は「幹部人事が、内閣の支配下に置かれれば、『巨悪を眠らせるな』という使命が果たせなくなる。内閣の恣意(しい)的な判断の余地が生まれるのではないか」と指摘しました。

これに対し森大臣は「検察の人事については、時の政権にとって都合のいい者を選ぶということがあってはならない。検察の人事は、国民にとって、検察権を適正に行使できるかという観点を持って選ばれるものだ」と述べ、法案の成立後も、検察官の人事は、検察権を適正に行使する観点から行われる必要があるという考えを示しました。

政府側の主張は

政府は国家公務員の定年引き上げや、特例を設けてさらに延長することは、高齢職員の豊富な知識や経験を最大限活用するためだとしていて、検察官も同様だと説明しています。

また、東京高等検察庁の黒川検事長の定年延長とは何ら関係はないとしています。

一方、内閣が認めれば、最長で3年まで定年を延長できるという規定については、「従来から、人事権者は内閣または法務大臣であり、法改正の前後で変わらず、恣意的な人事が行われることはない」としています。

そして、特例が認められる場合の基準については、法案成立後、施行までに新たな人事院規則に準じて、明確にするとしています。

この時期の審議を野党側が批判していることに対しては「国会に提案した法案をできる限り成立させ、政策を実現していくことは政府の重要な責務だ」としています。

野党側の主張は

野党側は国家公務員と同様に、検察官についても定年を段階的に65歳に引き上げることには異論はないとしています。

一方で、「内閣が認めれば、最長で3年まで定年を延長できる」とした規定は「時の政権が恣意的に人事を行うことも可能で、検察の独立性や三権分立が損なわれかねない」として、撤回を求めています。

また、ことし1月の黒川検事長の定年延長については「法解釈の変更による不当なものだ」として、「法改正によって、後付けで正当化しようとしている」と批判しています。

そして、定年延長を判断する際の基準を法案審議の中で、明確にすべきだと求めています。

さらに「いまは、新型コロナウイルス対策に万全を期すべきだ」として、この時期の審議自体を批判しています。

定年延長の仕組みは

検察庁法の改正案は、国家公務員法などあわせて10本の法律の改正案が束ねられた「国家公務員法などの改正案」として、一括して審議が行われています。

一連の改正案は、少子高齢化が進む中、意欲と能力のある人が長く働ける環境を整えることが狙いです。

このうち検察官を除く国家公務員は現在60歳となっている定年を65歳に引き上げるとしています。

また、これまでの法律にある通り、公務の運営に著しい支障が生じる場合は、特例で、最長3年間、延長することができます。

そして「役職定年制」を新たに設け、60歳になった時点で管理職は原則として役職から外れますが、特例で最長3年間、役職にとどまることができます。

特例を認める判断は法案の成立後、人事院が作成する規則に基づき、各大臣などが1年ごとに行うことになっていますが、2回目からは人事院の承認を得る必要があります。

検察官については定年を63歳から65歳に引き上げ、ほかの国家公務員と同様に特例で、定年を最長3年間、延長することができます。

そして、ほかの国家公務員の「役職定年制」と同様の趣旨の制度を導入し、次長検事と検事長、検事正、上席検察官は、63歳になった時点で原則として退き、一般の検察官となります。

ただ、公務の運営に著しい支障が生じる場合は、次長検事と検事長は内閣、検事正と上席検察官は法務大臣の判断で、最長3年間、役職を延長することができます。

特例を適用する基準は、内閣と法務大臣がそれぞれ定めることになっていますが、現時点では具体的に示されていません。こうした改正は、法案が成立すれば、2年後の、令和4年4月から施行されます。