森 再処理工場 新規制
基準に適合 事実上合格

国が進める核燃料サイクル政策の要の施設、青森県の再処理工場について、原子力規制委員会は、事故対策などが新しい規制基準に適合しているとして、事実上の合格を示す審査書案を取りまとめました。しかし、本格操業には地元の了解などが必要なほか、取り出すプルトニウムの利用先を明確にすることなども求められ、多くの課題があります。

青森県六ヶ所村の再処理工場は、原子力発電所で使い終わった核燃料からプルトニウムを取り出して再利用する、国の「核燃料サイクル政策」の要の施設で、建設は27年前に始まりました。

総事業費は14兆円近くに上る見通しで、原子力規制委員会は日本原燃からの申請を受けて、6年前から工場の事故や災害への対策が新しい規制基準に適合しているか審査してきました。

この中で想定される地震の揺れを、当初の450ガルから700ガルに引き上げ、必要な耐震対策が議論されたほか、大量の放射性物質が漏れ出すのを防ぐ対策などが審議されてきました。

そして、最終的に日本原燃のまとめた対策は規制基準に適合しているとして、審査の事実上の合格を示す審査書案を13日取りまとめました。

今後、一般から意見を募るパブリックコメントなどを経て、問題がなければ、ことし夏ごろには正式な合格となる見通しで、日本原燃は、来年度上期には工事を終え、2年後には本格操業に入りたいとしています。

しかし、再処理工場を巡ってはプルトニウムを利用する国内の高速炉開発が「もんじゅ」の廃炉などで滞っているほか、プルトニウムを通常の核燃料に混ぜて一般の原発で使う「プルサーマル発電」も計画どおりに進んでいません。

また、核兵器の原料ともなるプルトニウムは、利用目的のないものは持たないことを国際的に公約していることから、利用先を明確にすることも求められるほか、今後、地元自治体の了解も必要になります。国と日本原燃は本格操業にあたり、こうした課題に応えていくことが求められています。

原子力規制委員長 対象機器多く6年余かかった

原子力規制委員会の更田豊志委員長は会見で、これまでの審査を振り返り、「再処理工場は原子炉などに放射性物質が集中する原子力発電所と違い、核燃料が溶かされ、液状になり、配管を通じて面的に施設に広がっているのが特徴。ある意味、原発よりも化学工場に似た構造なので、設備や系統がどう配置されているのかなどを注意深く確認することが審査のポイントだった」と述べました。

審査に6年余りをかけたことについては「率直に長くかかったと思う」と話し、理由として、対象の機器が多かったことや再処理工場特有の構造などを挙げました。

日本原燃「引き続き審査合格に全力」

再処理工場を運営する日本原燃は「審査書案が了承されたことは大きな前進であり、引き続き、審査合格に向けて全力で取り組んでまいります。審査で約束した安全性向上対策を確実に反映し地域の皆さまに安心して頂ける工場を作り上げます」とするコメントを発表しました。

青森県 三村知事「国の対応状況を注視」

青森県の三村知事は「審査書案が取りまとめられたことは大きなステップだと受け止めています。意見の募集などの手続きが残されていることから、県としては引き続き、国の対応状況を注視していきます」とするコメントを発表しました。

市民団体が抗議「放射性廃棄物の管理困難」

再審査が行われた東京 港区のビルの前には午前中から複数の市民団体のメンバーら10人余りが集まりました。

原子力規制庁の担当者に、使用済み核燃料を再処理するとあとに残る放射性廃棄物の管理が難しくなるなどとして「審査合格を認めないで!」と書いた要望書を手渡しました。

また建物の前で「再処理工場を合格させるな」などと書かれた大きな紙を掲げて、再処理工場や原発の運転に反対を訴えていました。

審査のポイントは

日本原燃は、再処理工場の本格操業を目指し、2014年(平成26年)1月に、福島の原発事故を受けて作られた新しい規制基準に適合しているかどうかを確認する審査を原子力規制委員会に申請しました。

規制委員会は、6年余りの期間をかけて地震や津波、竜巻といった自然災害のほか、重大事故への備えについて審査を行いました。

このうち、巨大地震については、敷地の北東を通る「出戸西方断層」という活断層が評価の大きなポイントでした。

日本原燃は、それまでは450ガルとしていた最大の揺れの想定を600ガルに引き上げて申請しましたが、審議の中で、規制委員会は、断層の長さをより厳しくみるべきと指摘、評価すべき長さを10キロから11キロとしました。

日本原燃は、追加の調査などを実施し、最終的に揺れの想定を700ガルにまで上げて耐震の対策をまとめ、規制委員会もこれを妥当としました。

《津波は到達せず》
津波については、日本原燃は最大津波を高さおよそ22メートルと評価して申請。工場の場所は太平洋岸からおよそ5キロと内陸にあって海抜が40メートルの高台にあることから、津波は到達しないとしました。
これについて、規制委員会は日本原燃の津波評価に問題はないとしました。

《重大事故への備え》
このほか、放射性物質が外部に漏れ出すような重大事故が起きた場合の対策も審査のポイントでした。
再処理工場では、使用済み核燃料を処理してプルトニウムを取り出したあとに高レベルの放射性廃液が発生します。タンクで厳重に保管されていますが、放射性廃液は熱を出し続けているため、保管中も冷却する必要があります。もし災害などで電源が失われた場合、日本原燃は、最も早いケースでおよそ11時間で水分が蒸発し、放射性物質がタンクから漏れ出すおそれがあるとしています。
このため日本原燃は、タンクに直接、冷却用の水を注入するバックアップのポンプを新たに設置したほか、放射性物質を含む蒸気を冷やす設備を新たに設けて蒸気のほとんどを屋内に閉じ込める対策を示しました。
これについて規制委員会は、複数の対策でリスクは大幅に軽減されているとして日本原燃の対策を妥当と判断しました。
このほか、近くに三沢基地があるなどするため航空機が墜落する確率についても審議が行われ、より厳しい条件で評価が行われました。

建設開始から27年 計画は大幅遅れ

再処理工場は原発で使い終わった核燃料を処理し、再び原発で燃料として使用する国の「核燃料サイクル政策」の要の施設として、27年前の1993年(平成5年)、青森県六ヶ所村で建設が始まりました。

電力各社の出資でつくる事業者の日本原燃は当初、再処理工場が完成する時期を着工から4年後の1997年(平成9年)としていました。

しかし、国の安全審査が長引いた影響で完成が延びていた中、2001年(平成13年)使用済み核燃料を貯蔵するプールから少量の水が漏れるトラブルが起きるなどして完成時期が延期されます。

ようやく2006年(平成18年)試験運転が始まりましたがこの試験運転でも高レベルの放射性廃液をガラスと混ぜる工程で不具合が続き、日本原燃は完成時期を繰り返し延期しました。

こうした中、2011年(平成23年)東日本大震災と、福島第一原発の事故が起きます。再処理工場は地震や津波による被害はなかったものの、本格操業には原発事故を踏まえて作られた新しい規制基準に適合する必要がありました。

日本原燃は6年前の2014年(平成26年)1月に原子力規制委員会に審査を申請、審査では、地震や津波、竜巻といった自然現象に対し、より厳しい想定が求められるようになったほか、大量の放射性物質がタンクから漏れ出すといった重大な事故への対策も新たに求められました。

審査は日本原燃の当初の見通しよりも長期化する中、4年前の2016年(平成28年)には日本原燃が運営する別の関連施設で、品質管理を担当する部署が、社内で定められた評価をせずに事実と異なる報告をしていた問題が明らかになりました。

さらに2017年(平成29年)には非常用発電機のある建屋で雨水の流入が見つかり、長年、必要な点検を怠っていたこともわかり、日本原燃は安全上、重要な施設にある設備をすべて確認するなどの対応を迫られました。この間、およそ8か月にわたって規制委員会の審査は中断されました。

こうしたことから日本原燃は完成時期をたびたび延期することになり、現時点では「来年度上期」、つまり来年4月から9月の間としています。このように再処理工場の計画は大幅に遅れ、建設開始からすでに27年がたっています。

専門家「必要性について議論を」

原子力委員会の元委員長代理で長崎大学の鈴木達治郎教授は「これまでも再処理工場には年間で1000億円から2000億円くらいの費用がかかっていて、国民の負担となっている。もし操業すると3000億円くらいになると見られ、経済コストも考える必要がある。再処理がもたらすよい面もあると思うが、国民負担を含めた経済性の問題や、プルトニウムがもたらす安全保障上のリスクもある。日本のエネルギーをどうするか議論し原子力が果たす役割を考え、再処理が今後必要かどうかを話し合うべきだ」などと話し、国民的な関心を高めて、客観的な議論が必要と指摘しています。

六ケ所村 村長「長いトンネルの出口が見えてきた」

青森県六ヶ所村の戸田衛村長は、報道陣の取材に対し「厳しい審査の合格に向けて大きく前進し、長いトンネルの出口が見えてきたと受け止めている。来年度上期という目標に沿って工事を終えてほしい」と述べました。

そのうえで、事故が起きた場合に備えて村が作成を進めている住民の避難計画に関連して「避難に使う道路には修理が必要な部分があるなど課題もある。人命に関わる問題なので県や国に協力を呼びかけていきたい」と話していました。

本格操業には多くの課題も

核燃料サイクルの中核
青森県六ヶ所村にある再処理工場は、各地の原子力発電所から出る使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す国内初の商業用の施設です。
プルトニウムは再び核燃料に加工して原発で使うことができるため、石油などの化石燃料に乏しい日本は核燃料を繰り返し利用してエネルギーの安定供給につなげようと、原子力発電所の導入を決めた昭和30年代からプルトニウム利用の実現を計画していました。
この政策は核燃料をリサイクルして繰り返し使うことから「核燃料サイクル政策」と呼ばれ、プルトニウムを取り出す再処理工場は中核の施設となります。しかし、この政策は当初の計画どおりには進んでいないのが実情です。

燃料の行き先、『高速炉』開発進まず
1つは、再処理工場で取り出したプルトニウムを中心的に使うことを想定していた「高速炉」という特殊な原発の開発の問題です。高速炉は発電しながら使った以上のプルトニウムを生み出す能力があることから、「夢の原子炉」として開発が進んでいました。しかしその研究途上、事業者の国の法人が福井県敦賀市につくった「もんじゅ」でたび重なるトラブルを起こし、コストも増大、ほとんど稼働しないまま、4年前に(2016年)、政府はもんじゅの廃炉を決定し、国内での開発の大きな足場を失いました。
そこで国は「もんじゅ」に代わり、フランスが計画する新型の高速炉の開発に協力して技術を蓄積するとしましたが、フランスも去年(2019年)新しい高速炉の建設を当面見送る方針を示し、高速炉開発の先行きは見通せなくなっています。

もう1つのサイクル、『プルサーマル』
もう1つ、プルトニウムの利用先として、通常のウラン燃料に混ぜて一般の原発で再利用する「プルサーマル」と呼ばれる発電も進めていますが、こちらも当初の計画どおりには進んでいません。
福島第一原発の事故の前、電力各社は平成27年度までに全国の原発16基から18基でプルサーマル発電を実施するとしていましたが、現在、プルサーマル発電を実施できているのは福井県にある高浜原発3号機と4号機、愛媛県にある伊方原発3号機、それに佐賀県にある玄海原発3号機の4基にとどまっています。

さらに政策に必要な他施設は未定
さらに、再処理工場が仮に操業しても核燃料を有効に活用してエネルギー供給を効率的に進めようという政策の目的は達成できません。ほかの関連施設が必要となるからです。例えば、プルトニウムを2回、リサイクルしようとすると、核燃料の組成が変化するため今の再処理工場とは別の「第二再処理工場」と呼ばれる工場が必要になります。しかし、第二再処理工場は構想はあるものの現在、基本的な計画はできていません。
また、今の再処理工場の建設費用は当初7600億円でしたが、たび重なるトラブルや工事の延期、さらに安全対策にかかる費用もあって、最終的に3兆円近くまで膨らんでいます。運営や廃止にかかる費用も含めた総事業費は13兆9400億円に上る見通しです。今後、関連する施設の建設も考えると膨大な予算が必要になることも課題として挙げられています。

余剰プルトニウムの問題
取り出すプルトニウムの利用先を明確に示すことは国際的な約束にもなっています。プルトニウムは核兵器の材料にもなるため、各国は目的のない余剰なプルトニウムを持たないことを原則としていて、日本もこれを国際的に公約し、「核の番人」とも呼ばれるIAEA=国際原子力機関の査察を受け入れています。しかし、日本は2018年末の時点ですでに46トンちかくのプルトニウムを国内外に保有しています。専門家によりますと、核保有国以外の国の中ではかなり多い保有量だということです。再処理工場が今後仮に操業を開始すると最大で年間7トンのプルトニウムを取り出すことができますが、その利用先が明確にならないままでは、国際社会の懸念が高まるリスクもあります。