リチウム含む水の処分
経団連などから意見聞く

東京電力福島第一原子力発電所で増え続けているトリチウムなどを含む水の処分方法について、国が関係者から意見を聞く会が初めて東京で開かれ、経団連をはじめ、流通や旅行業などの団体がそれぞれ見解を述べました。

トリチウムなど放射性物質を含む水の処分をめぐっては、ことし2月、国の小委員会が基準以下に薄めて海か大気中に放出する方法が現実的だとする報告書をまとめ、政府は地元や関係団体などから意見を聞いたうえで最終決定するとしています。

福島県に続き、11日は東京で意見を聞く会が開かれ、5つの団体がテレビ会議で参加しました。

このうち、経団連の幹部は具体的な処分方法は挙げませんでしたが、「処分方法は科学的根拠に基づく判断が大前提で、国民の理解を得られる形で最適な方法を決めてほしい」と述べました。

一方、中小の旅行業者でつくる全国旅行業協会は、「多数のタンクが並ぶ状況は観光にマイナスの影響が生じているのではないか。処分を進める重要な時期で、徹底した安全管理と風評対策を前提として、海洋放出が現実的な1つの方法ではないか」と述べました。

また、スーパーなどが参加する日本チェーンストア協会は、水の保管を続ける選択肢に触れたうえで、「安心の確保が重要で、国民の安心が得られないのであれば処分を行わない覚悟も必要だ」と述べ、丁寧な情報発信を求めました。

経済産業省は引き続き、意見を聞く会の開催を実施するとしています。

各団体の反応は…

経団連の根本勝則専務理事は、「処分方法については、科学的根拠に基づいて合理的な判断を下すことが大前提で、できるだけ国民の理解を得られる形で最適な処分策を決定してほしい」と述べたうえで、風評被害への具体策として、ふるさと納税や災害義援金の仕組みを活用して全国で被災地の産品の消費拡大をバックアップする体制を作るべきだと提案しました。

大手から中小まで全国およそ1200の旅行会社からなる日本旅行業協会の志村格理事長は、「処分方法については、専門家の検討を経て地域関係者の合意を得た形で決定されるなら最大限尊重する」としたうえで、観光を振興することで農林水産業などの風評を最低限におさえたいとして、現地の食材購入などで使える地域振興券の発行や、交通アクセスや多言語表記などインフラの向上も図るべきだと指摘しました。

全国5600社の中小の旅行業者からなる全国旅行業協会の有野一馬専務理事は、「福島第一原発に多数の処理水のタンクが並ぶ状況が事故の象徴的な印象として国内外に伝わり、観光にマイナスの影響が生じているのではないか。処理水の処分を進めることが重要な時期に来ている」と述べ、処分方法については、「徹底した安全管理や風評被害対策などを前提として海洋放出する案が、選択しうる現実的な1つの方法ではないか」と述べました。

食料品を主体とした全国82社で作る日本スーパーマーケット協会の江口法生専務理事は、「福島県産の食品の販売は、震災前の状態まで戻っておらず、処理水の問題は新しい風評につながる可能性が高いと懸念している。客が安全であると認知して初めて、買ってもらえるので、SNSなどを使い一般の消費者にいかに安全性を発信できるかが重要だ」と述べました。

全国のスーパーやホームセンターなどで作る日本チェーンストア協会の井上淳専務理事は、「海や大気への放出、それに保管の選択肢があるが、できるなら保管し続けてほしいというのが多くの人の偽らざる心情で、いかに安心を確保するかが重要だ。国民の安心が得られなければ放出を行わない覚悟が必要だ」と指摘したうえで、処分方法を決定するプロセスについて、「多くの国民は、政府や専門家が長い時間をかけて処分方法を検討してきたことを知らない。情報のギャップがあることを認識しないと、結論ありきで押しつけているという不信感につながるので、選択肢のメリットとデメリットを示して、比較判断をともに考える課題共有のプロセスも必要ではないか」と述べました。

一般からの意見 来月15日まで延ばして受け付け

東京で開かれた意見を聞く会のあと、松本経済産業副大臣が報道陣の取材に応じ、先月6日から処分方法や時期、風評被害対策などについて、メールやFAXなどで一般の人からの意見を受け付けていると説明しました。

これまでに1000通ほど寄せられているということで、副大臣は、より幅広い意見を集めたいとして、今月15日の期限を1か月延ばして来月15日までにすることを明らかにしました。

このほか、報道陣から新型コロナウイルスに注目が集まる中、意見を聞く取り組みを行うのは適切ではないのではという質問が出されたのに対し、松本副大臣は「そのような意見を真摯(しんし)に受け止めなくてはいけないと理解しているが、一方で、何らかの決断をどこかでしないといけない状況の中で、この期間に何も意見を聞かないのは機会を減らしていることにつながりかねない。そのあたりのバランスをしっかりとみながら、われわれは意見を聞く場を今回も開催した」と述べ、繰り返し理解を求めました。