グイス嬢の報酬めぐり
「河井ルール」

自民党の河井案里議員の陣営による選挙違反事件で、広島地方検察庁は去年の参議院選挙でいわゆるウグイス嬢に法律の規定を超える報酬を支払ったとして、河井克行前法務大臣の政策秘書と案里議員の公設秘書ら合わせて3人を公職選挙法違反の運動員買収の疑いで逮捕しました。
NHKが陣営の関係者から入手したLINEには、去年の参議院選挙のおよそ2か月前、陣営関係者がウグイス嬢を仲介する女性との間で報酬について確認するやり取りが残され、「河井ルール」と呼ばれる法律の規定を超える報酬を求める方針が示されています。

NHKが入手したLINEには、去年の参議院選挙のおよそ2か月前、河井議員の陣営で、ウグイス嬢の募集に関わった人物が、ウグイス嬢を仲介する知人の女性との間で集める期間や人数などを相談するやり取りが残されています。

このうち、去年5月21日のLINEでは、陣営関係者が「あとは、ギャラはどうなるのか聞いておきます。河井ルールで行けるようにしたいですね」と伝えると、ウグイス嬢の依頼を受けた仲介役の女性が「そうだね。集まるときには、法定といって集めておきます」と返信しています。

陣営の関係者によりますと「河井ルール」は、ウグイス嬢の報酬を規定の2倍に当たる1日3万円にすることや、選挙カーでのウグイス嬢の行動など、河井陣営のルールの総称だということで、一部の陣営関係者の間で使われたということです。

LINEのやり取りのあと、この陣営関係者が幹部に対しウグイス嬢の報酬額を要望した結果、1日3万円が支払われたということです。

LINEの「あらいぐま」は…

去年の参議院選挙で河井案里議員の陣営関係者が使用していたLINEのグループのやり取りでは、夫の河井克行前法務大臣が陣営のスタッフに対し、運動方針などについて細かく指示を出していたことが見てとれます。

NHKが入手した、去年7月の参議院選挙当時に陣営関係者が使用していたLINEのグループには「あらいぐま」という名前の人物が頻繁にメッセージを発信しています。

複数の陣営関係者によりますと「あらいぐま」は夫の河井前法務大臣だということで、メッセージには「片っ端から電話してください」とか「とにかく今のうちに期日前投票をお願いしてください」などと伝えたうえで、その2分後に「今すぐ徹底してください」と念押しするなど、運動の内容を細かく指示する場面が確認できます。

さらに、発信した内容について、スタッフが把握したかどうかの確認をそのつど求め、多くのスタッフが「承知しました」と立て続けに返信するやり取りも残されています。

陣営の関係者の1人は「克行氏は、どんなことでも把握していないと気がすまない。経理でも1円単位まで必ず把握し、プレッシャーが常にあった。全部のことを克行氏が指示しないと気が済まず、案里氏もそれでいいと諦めていたと思う」と話しています。

「過去の選挙でも1日3万円の報酬」

いわゆるウグイス嬢で、河井案里議員の陣営の選挙活動に詳しい女性がNHKの取材に応じ「河井さんの事務所では、過去の選挙でも規定の2倍の1日3万円の報酬が支払われ、ウグイスの間では有名だった」と証言しました。

この中でウグイス嬢の女性は、河井案里議員が過去に立候補した選挙で陣営に入っていた複数のウグイス嬢から聞いた話として「報酬は1日3万円だったと聞いている。違法だと知ってはいるが、3万円が当たり前な事務所で、ウグイス嬢の仲間では有名だった」と証言しました。

そのうえで「過去の選挙も3万円だったので去年の参議院選挙でも同じ金額でウグイス嬢を集めろという流れになったと思う。ウグイス嬢が途中でやめていくのが長年の流れでわかっているので去年の参議院選挙でも3万円でどうかとお金をちらつかせたのではないかと思う」と述べました。

また、当時の選挙事務所の状況については「河井夫妻の事務所はウグイス嬢が続かないことが有名だ。ウグイス嬢が自信をもって言っているセリフに対し、これを言うな、あれを言うなと言われるので、途中で泣いて車から降りたウグイス嬢もいる」と述べました。

領収書の名目や金額“空白で”

去年7月の参議院選挙で当選した河井案里議員の選挙事務所でウグイス嬢を務めた1人は、NHKの取材に応じ、法定の2倍に当たる1日3万円の報酬を受け取ったと認め、「法定額以上とは知っていたが深く考えずに受け取った」と述べました。

そのうえで「量販店で買った領収書2枚に自分のサインを書き、支払いの名目や金額などは空白の状態で事務所側に渡した。こうした領収書がどのように処理されるかは深く考えなかった。そして、選挙が終わったあと、封筒に入った現金を受け取り、その中に法定の2倍の報酬が入っていた」と話しました。

陣営スタッフ「逮捕された秘書はイエスマン」

去年の参議院選挙で河井案里議員の陣営のスタッフだった人物がNHKのインタビューに応じ、3日逮捕された河井議員の公設第二秘書の立道浩秘書について「ウグイス嬢を乗せた選挙カーの担当を務めていたが、真面目な性格の、いわゆるイエスマンだった。領収書に細工できる立場ではなかったので、立道秘書が勝手にやったことではないと思う」と話しました。

そのうえで「ウグイス嬢の仕事は本当に大変で、取りまとめた人と河井事務所との信頼関係で、報酬は3万円という、あうんの了解があったのではないか」と話しました。

さらに、当時の陣営の態勢について「大きな選挙の際は選対本部長の下に遊説や企業回りなどの責任者がいるが、このときの選挙は選対本部長がいなかったので戸惑った。普通なら選対本部長がいて、候補者はみこしとして担がれるが、このときの選挙では河井夫妻が自分でみこしに乗って自分で担いでいるような状態だった」と話しました。

地元では辞職求める声

自民党の河井案里議員と夫の河井克行前法務大臣の秘書らの逮捕を受けて、地元広島では、いずれも辞職すべきだという厳しい声が相次ぎました。

このうち、広島市中区の30代の女性は「逮捕はちょっと遅かったんじゃないかと思う。正当な理由があるならちゃんとみんなの前で説明すべきだが、そのままうやむやにするのはよくない。2人とも議員を辞めたほうがよいと思う」と話していました。

廿日市市の60代の男性は「秘書が勝手にやっているわけないだろうし、2人の議員にも捜査が及ぶのではないか」と話していました。

連座制の適用範囲は

連座制は候補者本人が選挙違反に関わっていなくても、候補者と一定の関係にある人物が買収などの罪に問われて刑が確定した場合に適用されます。

対象となるのは禁錮以上の刑が確定した候補者の親族や秘書、選挙運動の計画を立てるなど運動に関わる人たちを監督する「組織的選挙運動管理者」、さらに罰金以上の刑が確定した選挙運動の事務を指揮する「総括主宰者」などです。

刑が確定した場合、検察は連座制の適用を求める裁判を起こすことができ、裁判所が認めると候補者の当選が無効になり、同じ選挙区から5年間、立候補が禁止されます。

総務省によりますと、連座制の対象になるかどうかは選挙当時の肩書だけでなく、実質的にどのような関与をしたかで決まるということです。

秘書について連座制の対象となるのは、選挙に立候補した議員本人の秘書に限られ、ほかの議員の秘書や選挙後に秘書になった人物が選挙違反に関与したとしても対象にはならないとしています。

自民党広島県連「地元で説明を」

自民党の河井案里議員と夫の河井克行前法務大臣の秘書らの逮捕を受けて、自民党広島県連の宇田伸幹事長は、NHKの取材に対し「率直に大変驚いた。2人にはみずからの地元に帰って記者会見を開くなり、有権者の前で説明責任を果たしたりするのが筋だと思っている」と述べました。