リチウム “海か大気に”
漁業関係者は風評再燃を懸念

福島第一原子力発電所にたまり続けるトリチウムなどを含む水を、どう処分するのか。国の小委員会は、基準以下に薄め、「海に放出する」か「大気中に放出する」という案を中心に議論を進めることを提言する素案を示しました。

これについて、福島県の漁業関係者は、トリチウムを含む水が海に放出された場合、風評が再燃し、これまで続けてきた取り組みが台なしになることを心配しています。

福島県の漁業のいま

福島県沖の漁は、原発事故のあと一時全面的に自粛されましたが、平成24年6月から安全性が確認された魚介類と海域に限定して試験的に行っています。

現在、出荷制限がかかっている魚介類はエイの仲間のコモンカスベ1種で海域の制限もおおむね福島第一原発から10キロまで縮まっています。

一方で、風評による値崩れへの懸念から、漁の回数を限定するなどして水揚げ量は制限されてきました。

しかしここ数年、県や漁業関係者らが、▽魚の安全性をPRするイベントを開いたり、▽首都圏のスーパーに県産の魚の常設コーナーを設けてもらうなどの、取り組みをしてきた結果、販路が徐々に広がり、去年の水揚げ量は、震災前の15%ほどの4010トンまで回復しています。(H22:2万5914トン)

そのため、福島県の漁業関係者は、トリチウムを含む水が海に放出された場合、風評が再燃し、これまで続けてきた取り組みが台なしになることを心配しています。

魚介類の検査は

原発事故のあと、福島県は、定期的に魚介類の放射性物質の検査を行って安全性を確認しています。

県によりますとことしは10月までに4998の検体を調べていますが、国の食品の基準となっている1キログラム当たり100ベクレルを超えたものはなく、99.8%の4987検体では、検査装置で検出できる限界を下回っています。

また、県の検査とは別に、福島県漁連も国の基準より2倍厳しい1キロ当たり50ベクレルという自主基準を設けて、すべての魚種で、水揚げのたびに検査を行っています。

県漁連の検査ではことし1月にエイの仲間のコモンカスベが国の基準を超え、出荷制限が指示されています。

現在、福島県沖の魚介類で出荷が制限されているのは、コモンカスベのみになっています。

また、10月にはシロメバルが自主基準をわずかに超えましたが直ちに出荷を自粛し、安全性の確保を図っています。

福島県漁連会長「海洋放出反対の立場 変わらない」

福島県漁連の野崎哲会長はNHKの取材に対し「有識者会議では、風評被害への対策をどう考えるのかについてしっかり議論されていない。トリチウムを含む水が海に放出されれば、福島の漁業が再び大きな風評被害を受けることは避けられず、海洋放出に反対する立場は変わらない」とコメントしています。

また同じく相馬市の漁師の石橋正裕さん(40)は「これまで、漁師が一丸となって福島の魚の安全性をPRしてきた中で、震災直後、福島の魚を食べて貰えない状態が続いていたのが徐々にみんなに食べて貰えるようになってきた。もし海洋放出しても安全だと言うのであれば、全国の人にこういう理由で安全だというのをまず説明してほしい」と話していました。

福島県相馬市の道の駅で直売所を経営しながら魚の仲買も行っている中澤正邦さんは「震災から8年以上がたち、消費者にも徐々に魚の安全性が浸透して相馬の魚を食べたいという声も多くなってきたように感じる。トリチウムを含む水が安全だとしても、放出されればまた福島の魚は危ないという認識になりかねないので、海洋への放出ではなく陸地での処分を考えてほしい」と話していました。