75歳以上の窓口負担見直し
各界 世代 専門家の反応は

75歳以上の後期高齢者の窓口負担の見直しについて、各界や各世代、専門家の反応です。

健保連 佐野副会長「相当な方に2割負担をお願いしないと」

大企業の「健康保険組合」でつくる健保連=健康保険組合連合会の佐野雅宏副会長は、NHKの取材に対し、「2割という文字が入ったことは評価しているが、現役世代の負担軽減につながるのか、今後注目していかなければならない。相当な方に2割負担をお願いしないと全体としての改善にはつながらないので、低所得者への配慮は必要だが、負担していただける人には可能な限り負担いただきたい」と述べました。

また、「世代間のアンバランスを解消していくためには、薬の保険適用の見直しも必要だ。2022年まで時間がないので、スピードアップして内容を固めていってほしい」と注文を付けました。

医師会 横倉会長「低所得者へも配慮をしつつ論議を」

日本医師会の横倉会長は、記者会見で、「一定以上の所得の人について、2割負担と明記したことは踏み込んだ表現だと理解している。高齢になれば若いころよりも医療を必要とする機会が増えるため、生活に過度な負担がかからないようにするのが望ましい。低所得者へも配慮をしつつ十分な議論を尽くしていくべきだ」と述べました。

そのうえで、「将来の社会保障のあり方は大所高所から議論すべきであり、財源にとらわれた細かい議論をするべきではない。患者の負担ばかりだけでなく、バランスを取りながら、時代に対応できる給付と負担のあり方という視点で議論することが重要だ」と強調しました。

「負担増は困る」「やむを得ない」

東京・八王子市の病院を定期的に受診している88歳の女性は、「年金だけが収入で、今もそれだけでは足りずに貯金を切り崩しながら生活しているので、これ以上、医療費の負担が増えるのは困ります」と話していました。

また72歳の男性は「年齢や体力的にこれから働きに出ることもできず、収入は変わらないので、今後が非常に不安です。国はもう少し高齢者のことを考えて政策を進めてほしい」と話していました。

一方、現役世代の人などからは「一定の所得がある人の負担を引き上げるのはやむを得ないのではないか」という声も聞かれました。

59歳の男性は「医療保険制度を維持していくためには所得の多い高齢者の負担を増やしていくのは当然だと思う」と話していました。

また、65歳の女性は「今後、高齢者が増え続けると医療保険の財源が足りなくなるかもしれないので負担の引き上げはしかたがない。医療保険制度がパンクして維持できなくなる方が困ります」と話していました。

子育て中の32歳の女性は「自己負担の引き上げはしかたがないとも思うが、自分が高齢になった時に医療費の負担が重くのしかかってくるかもしれず、不安はあります」と話していました。

医療関係者「自己負担増で受診控える人を懸念」

医療関係者からは自己負担が増えることで受診を控えてしまう高齢者が出てくるのではないかという懸念も出ています。

東京・八王子市で多くの高齢患者を診療している永生クリニックの金子弥樹院長は「診察する高齢の患者さんの中には、医療費の負担が増えることへの不安を口にする人もいる。自己負担の引き上げは高齢者の日々の生活に大きな影響を与えるので、体の調子が悪いのに、我慢して受診を控えようとする人が出てこないか心配している」と話していました。

専門家「制度の抜本的見直しが必要」「ほかの財源 検討を」

社会保障制度に詳しい産業医科大学の松田晋哉教授は「高齢者が急増する中で、一部の人の負担を引き上げることは、世代間の公平性を考えるとしかたがないことだが、低所得者への対策は必要だ」と話しています。

医療費の自己負担を2割に引き上げる対象については、「地域によって物価などが違うので都道府県単位で考えるべきだ」としています。

その上で、「これだけ若者が減少し、現役世代でも所得の低い人が広がっていることを考えると、今後、医療保険制度が行き詰まる可能性もある。今回の改革だけでなく、さらに制度の抜本的な見直しが必要になってくる」と話していました。

一方、社会保障が専門で高齢者の生活実態に詳しい立命館大学の唐鎌直義教授は「高齢者の単身世帯の平均収入は月に11万円ほどで、このうち社会保険料や税金などの支出は増えている。そうした状況のなかで医療費の負担を引き上げると生活への影響は大きい。国は高齢者の自己負担を引き上げる前に、法人税の減税をやめて企業からの支出を増やすなど、ほかの財源確保策を検討すべきだ」と話していました。