業規模は総額26兆円
新経済対策を決定 政府

政府は、一連の災害からの復旧・復興や経済の下振れリスクに備えるための施策を盛り込み、事業規模が総額26兆円程度の新たな経済対策を正式に決定しました。GDP=国内総生産を実質で1.4%程度押し上げる効果が見込まれるとしています。

政府は5日夜、臨時閣議を開き、一連の災害からの復旧・復興、経済の下振れリスクへの備え、それに、東京オリンピック・パラリンピック後を見据えた景気活性化策の3つを柱とした、新たな経済対策を決定しました。

災害からの復旧・復興は事業規模が7兆円程度で、河川の堤防などのインフラ強化をはじめ、ハザードマップの作成を加速させることを盛り込んでいます。

経済の下振れリスクへの備えは7兆3000億円程度で、日米貿易協定を踏まえ、農林水産物の輸出拡大に向けた支援の強化や、いわゆる就職氷河期世代の支援として、来年度から3年間、国家公務員への中途採用に集中的に取り組むとしています。

来年以降を見据えた景気活性化策は、11兆7000億円程度で、マイナンバーカードを持つ人に買い物で使えるポイントを付与する制度を来年9月から導入することや、高齢ドライバーによる交通事故を防ぐため、自動ブレーキなどを備えた車の購入を支援することを盛り込んでいます。

また、令和5年度までに小中学生に1人1台のパソコンやタブレットの配備を目指すほか、東京オリンピック・パラリンピックを契機に、外国人観光客をさらに受け入れる環境を整備するとしています。

事業規模の総額は26兆円程度で、第2次安倍政権以降の経済対策としては、3年前の28兆円余りの対策に次ぐ規模となりました。

このうち財政投融資を含めた財政支出は13兆2000億円程度で、政府は、今回の経済対策でGDP=国内総生産を実質で1.4%程度押し上げる効果が見込まれるとしています。

臨時閣議では、来年度予算案について、今年度の補正予算案とあわせた「15か月予算」の考え方で編成にあたるとした基本方針も決定され、政府は、年末に向けて編成作業を加速することにしています。

主な施策は

今回の経済対策は、「災害からの復旧・復興」「経済の下振れリスク」への対応、それに「オリンピック・パラリンピック後を見据えた景気活性化策」を3つの柱として、200を超える施策が盛り込まれています。

災害からの復旧・復興

このうち、「災害からの復旧・復興」では、台風19号など一連の災害の被災地で、被害にあった家屋の解体や災害廃棄物の処理の支援、鉄道の復旧や代行バスの運行を支援するなどして、被災した人たちの生活の再建を後押しします。

また、被災した中小企業や農林漁業者が仕事を再開できるよう支援するとともに、被害を受けた河川や道路の本格的な復旧を進めます。

さらに今後の防災・減災に向けて「国土強じん化」の取り組みに力を入れます。氾濫の危険性がある河川で堤防を強化したり、川底を掘削したりして、水位の上昇を防ぐ工事に対し個別に補助金を出すほか、市街地の浸水被害を防ぐため、地下に雨水をためておく施設を整備します。

また、市街地の緊急輸送道路などで電線を地中に埋める「無電柱化」を加速させるとともに、災害時に拠点となる病院や社会福祉施設で給水設備や自家発電装置の整備などを進めます。

経済の下振れリスク対応

「経済の下振れリスク」への対応としては、経済の好循環を持続させるための施策が盛り込まれました。

最低賃金の引き上げに向けた中小企業への支援や、中小企業が事業承継を進めやすくするため後継者候補の育成や経営改革を支援します。

農業分野では、日米の貿易協定を踏まえ、和牛の増産に向けた酪農家への支援の拡充や、国産チーズの競争力強化に向けた対策を実施します。

さらに、いわゆる「就職氷河期世代」の支援策として、ハローワークに専門の窓口を設置するほか、国家公務員としての中途採用を来年度からの3年間で集中的に取り組むとしています。

五輪パラ後を見据えた景気活性化策

「オリンピック・パラリンピック後を見据えた景気活性化策」として、消費を下支えするため、来年9月から再来年3月までの7か月間、マイナンバーカードを持つ人に対し、買い物に使えるポイントを付与する新たな制度を導入し、1人当たり最大2万円までのキャッシュレスでの決済や入金に対して、5000円分のポイントを付ける方針です。

デジタル化の時代に対応する人材を育てるため、令和5年度までに小中学校の児童・生徒に1人1台のパソコンやタブレットを配備することを目指し、事業を実施する自治体への補助制度を作ります。

高速・大容量の通信規格、5Gのさらに次の世代にあたる「ポスト5G」の技術開発を支援する基金を設けることや、高齢ドライバーによる交通事故を防ごうと、65歳以上の人が自動ブレーキを搭載した車などを買う場合の補助制度を創設することも盛り込まれました。

今後の焦点は

新たな経済対策は、事業規模が26兆円にのぼり、前回3年前の平成28年8月に策定した28兆1000億円の対策に匹敵する規模です。

国と地方の支出は9兆4000億円で、これに加えて、国が「財投債」と呼ばれる債券を発行して民間の事業に低金利で資金を供給する「財政投融資」を3兆8000億円行って、インフラ整備などを進めます。

巨額の財政投融資を活用することで「財政支出」を13兆2000億円として事業の規模を確保した形です。

政府としては、対策の規模を可能なかぎり大きくすることで、海外経済の減速が国内の景気に悪影響を及ぼす懸念に対して、先手を打って万全の対応をしていると強調するねらいがあります。

しかし、巨額の規模を確保しても施策の実施には課題もあります。対策のうち、国土強じん化などに充てる「公共投資」は6兆円程度と見込まれますが、建設現場で人手不足が続く中、巨額の予算を計上しても十分に執行できないおそれがあります。

また、財政支出を除いた、残りの13兆円近くは民間の支出や政府系金融機関による企業への融資などですが、想定通り利用されるかは現時点では不透明です。

一方、支出を賄う財源をどう確保するかも課題となります。政府は、編成作業を進めている今年度の補正予算案に対策に必要な経費として4兆3000億円を計上する方針です。

これに対して、財源は、公共事業などに使い方を限った建設国債を発行するほか、経費の削減や使われなかった予算の活用などを検討しています。

歳入の3割程度を借金にあたる国債の発行で賄う厳しい財政状況の中、対策に必要な支出の一部はさらなる借金に頼らざるをえない形で、財政健全化に向けた目標の達成は一段と厳しくなります。

安倍首相「今こそアベノミクス加速を」

安倍総理大臣は、臨時閣議に先立って開かれた経済財政諮問会議で、「海外経済を要因とする経済の先行きリスクが視界に入りつつある中、まさに今こそ、アベノミクスを加速し、課題の克服に取り組むべき時だ」と述べました。

そのうえで、「今年度補正予算や来年度予算の臨時・特別の措置を組み合わせて、しっかりとした規模の切れ目ない予算措置を講じていく。実効ある『15か月予算』の編成を進めてもらいたい」と述べ、関係閣僚に編成作業を急ぐよう指示しました。

麻生財務相「未来の安心のため」

麻生副総理兼財務大臣は臨時閣議のあとの記者会見で、「日本経済は内需を中心に緩やかな回復基調だが、ことしは台風19号など自然災害が広範囲で発生し、被災者の生活や経済への影響の解消が急務だ。また、米中の摩擦など通商問題をめぐる緊張から海外発のリスクが出て、設備投資や個人消費が下押しされる可能性が否定できない。東京オリンピック・パラリンピック後も民需を中心とした自律的な成長を実現する必要があり、未来の安心のため新たな経済対策を実施する」と述べました。

また、対策に必要な財源について麻生大臣は「今後、補正予算の編成作業を開始するが、財源については編成過程において検討するので、この段階で答えることはできない」と述べました。

自民 二階氏「われわれの思うような方向で」

自民党の二階幹事長は、記者団に対し、「私が10兆円規模の補正予算案を編成すべきだと申し上げた時は、かなり驚きの声も上がったが、政府に決意を促してきた。結果的にわれわれの思うような方向で政府も取り組んでいて結構だ」と述べました。

西村再生相「規模ありきでない」

西村経済再生担当大臣は臨時閣議のあとの記者会見で、「規模ありきではなく、効果のある施策を積み上げた。経済を下支えし、民需主導の持続的な成長軌道につながる十分な規模だ。実質GDPの押し上げ効果を1.4%程度と見込んでいるが、実際には、さらに乗数効果が発揮され、消費拡大などの間接的な効果も期待できる。早期に効果が表れるよう、しっかりと予算編成を行い、施策の実現と進捗(しんちょく)を確認していきたい」と述べました。

公明 山口氏「政府与党で結束し実施」

公明党の山口代表は、記者団に対し、「与党の提言も十分に反映された経済対策になったと思う。相次いだ災害からの復旧・復興を図り、世界経済の下振れリスクに対応し、来年の東京オリンピック・パラリンピックまでの勢いがその後も持続できるような対策を講じるという3つが柱になっており、実行に移すことが大事だ。政府・与党でしっかり結束して実施に当たりたい」と述べました。

国民 原口氏「ばらまきはやめたほうがいい」

国民民主党の原口国会対策委員長は、記者会見で、「毎回のごとく経済対策を行っても結果が出ていない。日銀の黒田総裁は、『デフレから脱却する』と言ってもう7年もやっている。結果が出ていない中で、いつまでも税金だけをばらまくのはやめたほうがいい」と述べました。

安倍政権 過去の経済対策は

平成24年の第2次安倍政権発足以降、経済対策を実施するのは今回が5度目です。

最初の対策は、平成25年1月に決定された「日本経済再生に向けた緊急経済対策」です。東日本大震災からの復興を加速させる施策や、ベンチャー企業の支援ために資金を供給する施策などが実施されました。国としての財政支出は、10兆3000億円程度で、民間などの負担をあわせた事業規模は、20兆2000億円程度となりました。

2度目の対策は、最初の対策と同じ年、平成25年12月に早くも決定されました。翌年4月に消費税率を8%に引き上げるのを前に、景気の下振れリスクに対応することがねらいでした。東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けたインフラ整備や、所得が低い人や子育て世帯への支援策が盛り込まれました。経済対策の規模は、国の財政支出で総額5兆5000億円程度、事業規模としては18兆6000億円程度となりました。

3度目の経済対策は、平成26年12月に閣議決定されました。消費を喚起することや地方の活性化を目指したもので国の財政支出で、3兆5000億円程度の規模となりました。

そして4度目の経済対策は、3年前、平成28年8月に決定され、リニア中央新幹線の全線開業の前倒しなどを盛り込みました。国と地方の財政支出に、国が低い金利で資金を供給する財政投融資をあわせた「財政措置」は13兆5000億円程度で、事業規模は、28兆1000億円程度となりました。今回の新たな経済対策は、単純に事業規模を並べると4度目の対策に次ぐ大規模なものとなっています。

専門家「中身の吟味が不十分な可能性」

新たな経済対策について三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は、「災害からの復旧復興を迅速に進めるためには、それなりの規模の資金を準備する必要があり、このタイミングでの経済対策の上乗せは、評価できる」と述べました。

その一方で、「政府が緩やかに景気は回復していると評価する中で、これだけ大規模な経済対策が本当に必要なのかを考えるとやはり多すぎるのではないか。まずは規模の大きさとスピードが必要だということで、中身の吟味が十分でない可能性がある。消費税率の引き上げに踏み切ったのに、財政再建の遅れにつながるおそれがある」と指摘しました。

また、経済対策を実施していく上での課題について小林主席研究員は「災害からの復旧復興は第一にやっていくべきだ。ただ、建設業は人手不足の課題で工事があってもすぐに着手できない状態になっていて、いかに優先順位をつけて取り組んでいくかが問われる」と述べました。