里城で大規模火災
「必ず復元を」

那覇市にある「世界遺産」の首里城跡に復元された首里城で起きた大規模な火災で、「正殿」など主要な建物が全焼し、琉球王国時代から伝わる貴重な収蔵品の多くが焼けたものとみられています。

31日未明から那覇市にある首里城で11時間にわたって続いた大規模な火災では、城の主要な建物の「正殿」や「北殿」、それに「南殿」などが全焼しました。

消防によりますと火元とみられるのは「正殿」で、火災による熱が強くて消防隊が現場に近づけない間に火が風にあおられ、燃え広がっていったということです。

1時間前まで機材設営

消防によりますと、首里城では琉球王国時代の儀式を再現する「首里城祭」の準備のため、31日の午前1時すぎまでイベント会社が「正殿」の前の「御庭(うなー)」と呼ばれるスペースで、照明などの機材を設営していました。

そして午前1時半までにはスタッフは作業を終えて現場から撤収したということです。

それからおよそ1時間後の午前2時34分、異常を検知するセンサーが「正殿」で作動したため、警備員が駆けつけたところ、「正殿」の中で煙が充満していたということです。

警察は業者らから作業当時の状況などについて話を聞くとともに、1日午前10時からは消防と合同で現場で検証を行うなどして詳しい出火原因を調べることにしています。

首里城とは

首里城は琉球王国時代の500年以上前に建てられました。戦前に3回焼失し、再建後、正殿は大正14年に国宝に指定されました。

しかし、太平洋戦争中の沖縄戦で焼失しました。

平成4年に正殿が復元され、平成12年には九州・沖縄サミットで各国首脳の夕食会の会場にもなりました。

また城の跡は、独立王国としての琉球が本土とは異なる独特の文化を発展させたことを示す歴史的な遺産だとして県内のほかの「グスク」と呼ばれる城の跡とともに「世界遺産」に登録されています。

貴重な収蔵品も消失か

首里城を管理する沖縄美ら島(ちゅらしま)財団によりますと、全焼した「正殿」などの建物の中には琉球王国時代から伝わる絵画や漆器、それに染織物などが収蔵されていたということです。

こうした貴重な収蔵品は焼けたと見られ、財団は収蔵品の被害の数など、詳細について調査を進めています。

また、県によりますと首里城の収蔵品の中には17世紀前半に琉球王国に仕えた絵師による最も古い絵画など、県指定の有形文化財もあるということです。

「首里城祭」の期間中

首里城公園では、4日前の今月27日から毎年恒例の「首里城祭」が始まり、来月3日までの期間中、さまざまなイベントが行われているところでした。

初日はおよそ700人による華やかな「琉球王朝絵巻行列」が行われ、今週末の3連休中の来月3日には、国王が、国家の安寧と五穀豊じょうを祈願するため、お寺を参詣(さんけい)した様子を再現した「古式行列」など多くのイベントが予定されています。

「正殿」にスプリンクラー設置義務なし

火災のあと、総務省消防庁は那覇市消防局に首里城の防火体制を確認しました。

それによりますと、火元の「正殿」には、消防法に基づいて消火器や自動火災報知器、それに屋内と屋外に消火栓設備が設けられていました。

このほか、火災を知らせたり避難を呼びかけたりする放送設備や誘導灯、防火用水も自主的に設置されていたということです。

ただ火災が起きた際に、早い段階で自動的に消火するスプリンクラーは設置されていませんでした。

消防法では、映画館や百貨店など人が集まる場所や、病院や福祉施設など避難に時間がかかる人がいる施設などには、建物の面積に応じてスプリンクラーの設置を義務づけています。

首里城の「正殿」のような建物は、11階建て以上の場合にスプリンクラーの設置が義務づけられますが、「正殿」は3階建てで義務はありませんでした。

復元建物は“文化財防火”の範囲外

首里城跡は国の史跡に指定され、世界遺産に登録されていますが、城跡の上に復元された正殿などの建物は、その範囲に含まれていません。

文化庁によりますと、国宝や重要文化財に指定されている建物は、消防法や文化財保護法に基づく防火対策が義務づけられています。

またことし4月に起きたフランスのノートルダム大聖堂の火災を受けて、文化庁は、国宝や重要文化財の建物の防火設備などの緊急調査を行うとともに「防火対策ガイドライン」を取りまとめ、管理体制や日常の予防、警報や消火設備などについて点検や対策を求めています。

しかし、今回焼失した建物はこれらの対象にはなっていないということです。

文化庁通知 復元された建物も点検や確認を

文化庁は首里城の火災を受けて、31日、指定された文化財だけではなく復元された建物についても、防火設備の点検や確認を求める通知を各自治体に出しました。

玉城知事「必ず復元させる」政府に協力を要請へ

首里城での火災を受けて沖縄県は31日午後、幹部を集めた緊急の対策本部を開きました。

この中で玉城知事は、首里城の管理者である県のトップとして、「火災により近隣住民や関係各所に多大なご迷惑をおかけし、大変、遺憾に思う」と述べました。

そのうえで玉城知事は「現場を確認したが、ことばに言い表すことができない喪失感に包まれ、本当に胸が痛む思いでいっぱいだ。同時に琉球王国の象徴であり、歴史と文化の心に彩られた首里城を必ず復元させなければならないという強い思いも沸き上がった」と述べ、一日も早い復元に向けて全力をあげる考えを示しました。

玉城知事は1日、総理大臣官邸を訪れて菅官房長官と会談し、復元に向けた協力を求めることにしています。

城間市長「落胆の思い」

那覇市の城間市長は午前8時すぎから市役所で記者会見を開き、「歴史的な財産、シンボルを失い落胆の思いだ。そして観光でまずは首里城に行こうという人たちのことを考えると残念でならず、観光への影響はとても大きい」と述べました。

琉球国王子孫「復元に向け協力できれば」

琉球王国時代の国王「尚(しょう)家」の23代目の当主で、三重県伊勢市に暮らす衞さんは、毎月、沖縄を訪れていて、10月は23日から27日まで滞在していました。

滞在中、祖先である国王の墓、玉陵(たまうどぅん)を訪れた際に、近くにある首里城を見たのが最後になったということです。

尚さんは「首里城は私にとって、心のふるさとである沖縄の宝ものであり、シンボルでもある。首里城が焼失してしまい非常に残念で心が痛いですし、県民の皆さんも非常に悲しい思いをされていると思う」と話していました。

そのうえで、「祖先は沖縄に暮らしていたが、事情があって沖縄から東京に移住させられた。しかし沖縄に対する心は決して失っていないし、首里城の復元に向け、どんな形でもいいので協力できればと思う」と話していました。

尚さんは去年4月、玉陵を訪れ、およそ40年ぶりに先祖を供養するシーミーを復活させました。

政府 復元に向け補正予算案を検討

今回の大規模な火災を受けて、菅官房長官は、「首里城は沖縄にとって極めて重要なシンボルだ。再建に向けて、政府は全力で取り組んでいきたい」と述べました。

首里城は、国営の沖縄記念公園の施設の1つで、政府は、主要な建物を復元するため、早急に対応する必要があるとして一連の台風による災害を受けて編成する方針の今年度の補正予算案に必要な経費を盛り込む方向で検討に入りました。

また、与党内からは、観光客が減少するおそれがあるとして、支援策を求める声もあり、政府は、財源確保の見通しも考慮しながら、検討を進めることにしています。

米司令官「沖縄にお見舞い」

日本を訪れているアメリカのインド太平洋軍のデービッドソン司令官は、茂木外務大臣と会談した際、「首里城の火災について、心より沖縄、そして日本の皆様にお見舞い申し上げる。また先日の台風19号では、たくさんの皆様が被害にあわれたことにお見舞い申し上げる。どういう状況であれ、日本が何か支援が必要なら、インド太平洋軍はいつでも支援ができる」と述べました。

これに対し、茂木大臣は「首里城の火災は、本当にすばらしい歴史的な施設が、こんな状況になって悲しく思っている。先日の台風被害に対しても司令官からお見舞いをいただき、心から感謝したい」と述べました。

ユネスコ事務局長「人類の損失」

このうち、ユネスコ=国連教育科学文化機関のアズレ事務局長は31日、ツイッターで「美しい首里城が悲惨な火災にあったと知り、深く悲しみ、日本の人々に連帯を示します。すべての人類にとっての損失です」とコメントしました。

ユネスコ「遺産の価値は失われず 再建支援を」

ユネスコのメヒティルド・ロスラー世界遺産センター長は31日、フランス、パリにあるユネスコ本部でNHKのインタビューに応じました。

このなかでロスラーセンター長は、「世界遺産が火災に見舞われたことは過去にもあり、『またか』という思いで深くショックを受けた。日本と沖縄のシンボルであり、心理的なショックの大きさは計り知れないと思う」と述べました。

ユネスコは、世界遺産の1つで、2010年に全焼したウガンダにある王墓を再建するプロジェクトも行っていて、首里城についても「日本政府に求められれば、専門家を派遣し、世界的なネットワークを駆使して支援にあたりたい。すでに日本政府と連絡を取り合っていて、来週前半にも話し合いの場を持つことにしている」と述べ、再建に向けた支援に前向きな姿勢を示しました。

また、火災をきっかけに、世界遺産の登録を取り消す可能性については、「首里城跡はほかの関連遺産とともに世界遺産に登録されており、その1つにすぎない。首里城が火災にあったことで、そのほかの遺産の価値は失われていない」と述べ、否定しました。

中国メディアも火災を大きく報道

中国では、沖縄県は観光地として人気が高く、中国メディアも今回の火災について大きく報じています。

また中国版ツイッター「ウェイボー」では、「ことし、首里城に行ったばかりで非常に残念だ」とか、「うそでしょう。先月訪れてとてもきれいだったので、非常に惜しまれる」といったコメントが相次いでいます。

このほかにも「人類の文明遺産の宝物であり、悲しく残念に思う」とか、「一日も早く再建できるよう望んでいます」といった声も寄せられています。

台湾総統「心を痛めている」

首里城の中心的な建物がすべて全焼したことについて、台湾の蔡英文総統はツイッターで「驚きを禁じ得ません」と日本語でメッセージを寄せました。

そのうえで「首里城は重要な世界文化遺産であると同時に、沖縄に行く台湾人観光客が必ず訪れる場所です。多くの台湾人が、私と同じように心を痛めているはずです」とつづっています。

台湾では、沖縄県は人気の観光地の1つで、昨年度は台湾から91万人の観光客が訪れています。このため、台湾のテレビ局はトップニュースとして今回の火災を報じるなど、高い関心を集めています。

京都の“世界遺産”で緊急会議

徳川家康が築いた京都市中京区の二条城は、木造建築の国宝・二の丸御殿をはじめ、多くの文化財を所有・所蔵し、平成6年にユネスコの世界文化遺産に登録されています。

二条城では31日未明に起きた首里城の火災を受けて緊急の会議が開かれ、京都市消防局や文化庁のほか、市内で世界遺産に指定されている神社や寺の担当者など、およそ40人が出席しました。

会議では、二条城の担当者が構内の消火設備の設置状況や定期点検の方法などを説明したほか、市内の寺社の担当者が首里城の火災を受けて、夜間の防火体制などについて急きょ点検したことなどを報告していました。

そして敷地内の消火器などの点検を行い、利用しやすい場所に設置されているかや使用期限に余裕があるかなどを確かめていました。

京都市中京消防署の松山卓司消防司令長は「火の管理や自主消防組織の強化など防災体制の維持と管理の徹底を今後もお願いしたい」と話していました。

元離宮二条城事務所の北村信幸所長は「火災の映像を見て驚き、ひと事とは思えなかった。まずは防火、そのうえで消火という両面から人的な態勢も含めて見直していきたい」と話していました。

東大寺では緊急査察

世界遺産に登録されている東大寺には31日午後、奈良市中央消防署の担当者7人が訪れ、寺の関係者と一緒に国宝に指定されている大仏殿の中やその周辺を見て回りました。

大仏殿にはおよそ30か所に消火器や消火栓が設置されているということで、定められた場所に置かれているかを点検したり、放水銃を消火栓につないで実際に水が出るか確かめたりしていました。

査察の結果、特に不備な点はなかったということです。

東大寺の森本公穣 庶務執事は「首里城の火災は、ひと事ではないと感じています。防災体制を強化し、火災が起きないようにしたい」と話していました。

また、奈良市中央消防署の杉本靖眞 署長補佐は「奈良にはたくさんの世界遺産があるので、それを守りたいとの思いで査察を行いました。文化財は木造建築が多く燃えやすいので、今後も寺と協力して注意したい」と話していました。

消防署は、同じく奈良市内にある世界遺産の春日大社や興福寺にも注意を呼びかけたいとしています。

修学旅行にも広がる影響

那覇市の首里城で起きた大規模な火災を受け、11月以降、首里城を含む沖縄に修学旅行に行く予定となっていた山梨県内の高校では、旅の行程を見直すなどの対応に追われています。

山梨県では今年度、県内の27の県立高校のうち、24の高校が修学旅行で沖縄を訪れる予定で、このうち、山梨県南アルプス市の白根高校では、高校2年生の生徒147人が来月5日から3泊4日の日程で訪れ、最終日に首里城を見学することになっていました。

首里城での火災を受け、学校では31日、引率する教師が旅行会社と電話で打ち合わせをするなど対応に追われ、首里城の見学を取りやめ、「沖縄県立博物館・美術館」に変更したということです。

また、学校では、修学旅行までの2か月間、首里城が建てられた琉球王国時代など、沖縄県の歴史についての学習もしていたということで、生徒たちも訪れるのを楽しみにしていたといいます。

引率する社会科の長田克仁教諭は「首里城が火災にあい、生徒たちも非常にショックを受けた様子でした。沖縄のシンボルなので長い時間をかけてでも再建してほしいです」と話していました。

直前で中止の学校も

全国の学校の中には、修学旅行で首里城を訪れる直前だったところもありました。

愛知県長久手市にある私立栄徳高校によりますと、2年生の生徒260人余りが、修学旅行で29日から3泊4日の日程で沖縄県を訪れていて、最終日の11月1日、首里城を見学する予定でした。

しかし、今回の火災を受けて、首里城の見学を取りやめ、代わりに沖縄文化の体験施設を見学することになったということです。

生徒たちを引率している森下忠章教頭は、NHKの電話取材に対し、「首里城は沖縄文化を象徴する建物なので、『生徒たちにぜひ見てほしい』と思って毎年、修学旅行のコースに組み入れていました。残念なことですが、生徒たちには、今回の出来事で文化財を守る大切さを知ってほしいです」と話していました。

また、生徒たちは31日朝、テレビやスマートフォンで首里城の火災を知ったということで、心配そうな様子で今後の予定を尋ねたり、見学できないことを残念がったりしていたということです。

各地で募金箱設置の動きも

首里城の火災を受けて各地で募金を行う動きも出ています。

熊本
このうち熊本県は、復興支援として募金を行うことを決め、31日に県庁に募金箱を設置しました。

募金箱は、県庁本館1階の受付のほか、県内に10か所ある県の出先機関にも設けられました。

熊本県文化企画・世界遺産推進課の中山智康さんは「熊本地震の際には沖縄県の皆さんからも温かい支援をいただいたので県民にも協力していだけるとありがたいです」と話していました。

また、熊本県の蒲島知事は「首里城の火災を知り大変ショックを受けた。募金によって熊本県民の思いを沖縄県に届けるとともに、熊本地震の経験で培ったノウハウの提供など、できるかぎりの支援を行いたい」というコメントを出しました。

和歌山
また、同じ世界遺産の金剛峯寺などがある和歌山県高野町でも、再建を支援しようと、義援金の受け付けを始めました。

高野町には、高野山真言宗の総本山、金剛峯寺や、奥の院などの世界遺産があることから、町では、首里城再建の力になりたいときょうから義援金の受け付けを始めました。

募金箱は、高野町役場や観光センターなど3か所に設置され、休日や祝日も含め、毎日、午前9時から午後5時まで受け付けるということです。

寄付をした高野町の60代男性は「ニュースを見て、大変なことが起きたと思い、足を運びました。早期の再建につながればいいと思います」と話していました。

高野町企画公室の倉垣内弘晃室長補佐は「高野町の寺院も過去に火災で焼けたことがあります。同じ世界遺産を抱える町として、1日も早い復興を願っています」と話していました。

東京
那覇市の首里城で31日未明に起きた大規模な火災では、都内にある沖縄の観光を推進する事務所や、物産品などを販売するアンテナショップでも動揺が広がっています。

31日未明、那覇市にある「世界遺産」の首里城跡に復元された首里城から火が出て、「正殿」など中心的な建物がすべて全焼しました。

この火災について、沖縄への観光を推進する、沖縄観光コンベンションビューロー東京事務所の新本康二所長は「非常にショックです。沖縄の歴史、文化を学べるため、修学旅行やツアーでも必ず行程に入れる場所でした。これからは別の場所を案内するなどしていかなければなりません。最近まで外壁を塗るなどの工事があり、やっと完成したという印象だったので、非常にがっかりしています」と話していました。

また、東京 銀座にある沖縄のアンテナショップ、「銀座わしたショップ本店」には、客などから「募金をしたい」という連絡が午前中から相次いでいるということです。

店長で那覇市出身の渡慶次(とけし)憲夫さんは31日朝、沖縄県浦添市にいる妻から、火災の様子を写した映像がスマートフォンに送られてきたということです。

渡慶次さんは「首里城は、子どもからオジイ、オバアまで沖縄みんなのシンボルで、現実とは思えませんでした。火災の動画が送られてきて、『でーじ(大変)』ということばしか出ませんでした。自分が大学生の時に、首里城の復元工事が始まり、完成までずっと見てきたので本当にショックです」と話していました。