年度予算 概算要求
過去最大105兆円程度に

国の来年度予算案の編成で各省庁からの概算要求が財務省に提出されました。一般会計の総額は、高齢化を背景に社会保障費が膨らむことなどから6年連続で100兆円を超え、過去最大の105兆円程度となる見通しです。

来年度予算の概算要求が30日、各省庁から提出され、財務省では提出されたデータを早速確認していました。

このうち要求額が最も多い厚生労働省は医療や介護といった「社会保障費」がさらに膨らみ、過去最大の32兆6234億円を要求しました。

また、防衛省は宇宙やサイバーといった領域の防衛能力を強化するため過去最大の5兆3223億円を求めました。

国土交通省は南海トラフの巨大地震や首都直下地震への対策として津波に備えた堤防や、帰宅困難者を受け入れる施設などを整備する費用を盛り込み、7兆101億円を要求しました。

このほか国債の償還や利払いのための「国債費」は、今年度の予算より1兆4000億円余り多い、24兆9746億円となります。

この結果、来年度予算の概算要求は一般会計の総額で6年連続で100兆円を超え、過去最大の105兆円程度となる見通しです。

これは最終的に初めて100兆円を超える規模となった今年度予算の概算要求段階での額をおよそ2兆円、上回っています。

さらに消費税率の引き上げに伴う景気対策などは年末までに別途、決めることにしていて、歳出拡大への圧力が強まる中、今後の予算編成で歳出をどう抑制していくかが課題となります。

各省庁の主な施策

来年度予算の概算要求で各省庁が提出した主な事業の内容です。

国土交通省は、豪雨災害などに備えるため、ダムの整備や堤防のかさ上げなどの水害対策として5623億円を要求しました。

厚生労働省は、シベリアに抑留された日本人の遺骨を取り違えていた疑いがある問題を受けて、DNA鑑定などの体制を強化するために30億円、ハンセン病の元患者の家族による集団訴訟が確定したことを受け、元患者や家族の名誉回復のため正しい知識の啓発などに10億円を盛り込みました。

文部科学省は、今のセンター試験に代わって再来年から始まる「大学入学共通テスト」の実施に向けた費用として50億円を要求しました。

総務省は、再来年の3月からマイナンバーカードを健康保険証の代わりに使えるようになることから、取得が進んでいないカードの利用者を増やすため発行や交付を行う自治体への補助や啓発活動にかかる費用として1736億円を要求しました。

警察庁は、来年の東京オリンピック・パラリンピックの警備対策として300億円を盛り込みました。

法務省は、ことし4月から始まった外国人材の受け入れ拡大に対応するため、専用の相談窓口を設けたり在留状況を的確に把握するためのデータベースを構築したりする費用として58億円を要求しました。

環境省は、ことし6月のG20大阪サミットでの合意を受け、海のプラスチックごみの回収や代替素材を開発する費用などとして188億円を盛り込みました。

農林水産省は、農林水産物と食品の年間の輸出額を1兆円に増やすことを目指して、複数の省にまたがっていた衛生管理などの国内の手続きや輸出先の国との交渉などを一元的に管理する組織を設けるため、15億円を要求しました。

暮らしに身近な事業は

子育て・医療・介護
子育て関係では、厚生労働省が待機児童の解消に向け、来年度末までに32万人分の児童の受け皿を確保するため保育園の整備などに1305億円を要求したほか、内閣府は小学校の放課後、保護者が帰るまでの間空き教室などで過ごす「放課後児童クラブ」で受け入れる定員を増やすための費用を求めました。

人手不足が深刻な介護の分野では、厚生労働省が受け入れの拡大が始まった外国人材が仕事を続けられるよう日本語を学ぶ環境の整備や、必要な技術や知識を習得する研修などを行うため、13億円を盛り込みました。

教育
文部科学省は情報通信技術を活用した教育を充実させるため、全国の小中学校や高校などに高速で大容量の通信ネットワークを整備する費用として375億円を要求しました。

いわゆる「就職氷河期」に希望どおり就職ができなかった30代半ばから40代半ばの人たちの就労の促進につなげようと、大学などでの学び直し、「リカレント教育」の支援を強化するための費用も計上しました。

また厚生労働省は「就職氷河期」世代に対する就職や資格の取得などへの支援を拡充するための費用として653億円を要求しました。

通学路対策
通学路で子どもが被害に遭う事故や高齢ドライバーによる事故が相次いでいることを受けて、国土交通省は、交通安全対策の推進に1619億円を要求しました。

この中では歩道の拡充や防護柵の設置、それに車のスピードを抑制するため路面に「ハンプ」と呼ばれる段差を設けるなど、通学路の安全対策や高速道路での逆走対策などの費用が盛り込まれています。

働き方
厚生労働省は、賃金の引き上げに向けて生産性の向上に取り組む中小や小規模事業者への助成金を増やすほか、非正規労働者を正社員にしたり、処遇を改善したりした企業への助成金などに1449億円を要求しました。

景気対策と財政健全化の両立が焦点

来年度予算案の編成では、消費税率の引き上げに伴う景気対策と財政健全化の両立をどう図るかが焦点となります。

年金や医療、介護などの社会保障費は歳出のおよそ3分の1を占め、高齢化を背景に税収の伸び以上に毎年増え続けていています。

これを賄うため、借金にあたる新たな国債を発行してやりくりする状況が続いていて、国と地方を合わせた借金は1100兆円を超え、主な先進国で最悪の水準です。

政府は、2025年度に、政策に必要な経費を借金に頼らず税収などで賄えるようにすることを財政健全化の目標の1つに掲げています。

しかし、6年後の2025年にはいわゆる「団塊の世代」がすべて75歳以上となります。75歳以上の人口はおよそ2180万人に達する見通しで、医療や介護、年金などの社会保障給付費は昨年度より20兆円増えて140兆円に急増すると見込まれています。

こうした中で、この秋から本格化する社会保障制度の改革に向けた検討の中で将来を見据えて給付と負担の在り方を抜本的に見直すことができるかが課題となります。

一方、消費税率の引き上げに伴う景気対策をめぐっては、今年度の予算でキャッシュレス決済のポイント還元制度や住宅ローン減税の拡充など、2兆円規模の対策が盛り込まれました。

来年度の予算でも駆け込み需要の反動などが景気に及ぼす影響を見ながら年末までに別途、検討することになっています。

歳出拡大への圧力が強まる中で、来年度予算案は初めて100兆円を超えた今年度予算をさらに上回る可能性も出ています。

年末までの予算案の編成では、社会保障制度の見直しに加えて景気対策と財政健全化との両立をどう図るかが問われることになります。

麻生財務相 歳出抑制に取り組む考え

来年度予算の概算要求で一般会計の総額が105兆円程度となる見通しになったことについて、麻生副総理兼財務大臣は閣議のあとの記者会見で「税収の伸びが悪いわけでは決してないが、基本的に借金の体質が残っている現状は間違いないので、そういう意味では収入が多いからといって、そのまま歳出を増やすということをするつもりはない」と述べ、予算編成の過程で歳出の抑制に取り組む考えを示しました。