ンセン病家族訴訟
賠償命じた判決に控訴せず

ハンセン病の患者に対する隔離政策をめぐる集団訴訟で、先に、熊本地方裁判所が家族が受けた損害についても、国の責任を認める初めての判決を言い渡したことを受けて、安倍総理大臣は「筆舌に尽くしがたい経験をされたご家族の皆様のご苦労をこれ以上長引かせるわけにはいかない」として、控訴しないことを表明しました。

ハンセン病の患者に対する誤った隔離政策で家族も差別され被害を受けたとして、元患者の家族500人余りが国を訴えた集団訴訟で、熊本地方裁判所は先月28日、元患者だけでなく、家族が受けた損害についても国の責任を認める初めての判断を示し、国に3億7000万円余りの賠償を命じる判決を言い渡しました。

これを受けて、今週12日の控訴期限を前に、安倍総理大臣は9日朝、閣議に先立って、総理大臣官邸で根本厚生労働大臣、山下法務大臣らと対応を協議しました。

このあと安倍総理大臣は記者団に「今回の判決の内容については一部には受け入れがたい点があることも事実だ。しかし、筆舌に尽くしがたい経験をされたご家族の皆様のご苦労を、これ以上長引かせるわけにはいかない」と述べました。

そのうえで「その思いのもと、異例のことだが控訴をしないこととし、この方針に沿って検討を進めるよう関係大臣に指示した」と述べ、控訴しないことを表明しました。

ハンセン病をめぐっては、元患者が起こした裁判で、平成13年に熊本地方裁判所が、国の賠償責任を認めたうえで国会の責任も指摘した判決を言い渡し、当時の小泉内閣が「極めて異例の判断ではあるものの、早期に解決を図る必要がある」などとして控訴を断念しています。

弁護団「控訴断念を歓迎」

ハンセン病家族訴訟弁護団の鈴木敦士弁護士は「控訴断念の判断は国が責任を認める第一歩で、弁護団、原告団として歓迎する。今後は家族への補償のほか、差別・偏見をなくすための施策について当事者と国が協議する場を設けてほしい」と話しています。

ハンセン病をめぐる経緯

ハンセン病はかつては「らい病」と呼ばれ、国は感染の拡大を防ぐ目的で昭和28年に「らい予防法」を定め、患者の隔離政策を進めました。

その後、感染力が極めて弱いことが分かり、治療法が確立されましたが、国は患者を強制的に療養所に隔離する政策を続けました。

この隔離政策は平成8年に法律が廃止されるまで行われました。

ハンセン病の元患者たちは「国の誤った隔離政策で人権を侵害された」として、各地で国に賠償を求めた裁判を起こしました。

平成13年5月に熊本地方裁判所が「国は必要がなくなったあとも患者の強制的な隔離を続け、差別や偏見を助長した」などとして国に賠償を命じる判決を言い渡しました。

国と国会はその年に隔離政策の誤りを認めて謝罪し、元患者や遺族が形式的に裁判を起こしたり申請をしたりすれば、補償金などを支払う救済策を設けました。

一方で、元患者本人だけでなくその家族も隔離政策で差別を受けたという訴えについては、国は補償金の対象に含めていません。

平成28年、元患者の家族561人が、国が進めてきた誤った隔離政策によって差別される立場に置かれ、家族関係が壊れるなど深刻な被害を受けたとして、熊本地方裁判所に賠償を求める訴えを起こしました。

熊本地方裁判所は先月28日、「結婚や就職の機会が失われるなど家族が受けてきた不利益は重大だ」などとして、国に対して総額3億7000万円余りを支払うよう命じました。

家族が受けた損害についても国の責任を認めたのは初めてで、国が控訴するかどうかが注目されていました。