太の方針原案
就職氷河期世代の支援など

政府は、経済財政諮問会議で、ことしの「骨太の方針」の原案を示し、いわゆる「就職氷河期」世代を対象に、民間のノウハウも最大限活用した切れ目のない支援を行い、3年間で正規雇用で働く人を30万人増やす方針などを盛り込みました。

ことしの経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」の原案では、いわゆる「就職氷河期」に希望通りの就職ができなかった30代半ばから40代半ばの人たちへの支援プログラムを盛り込み、およそ100万人を対象に、支援を通じて正規雇用で働く人を3年間で30万人増やす数値目標を掲げています。

この中では、ハローワークなどによる取り組みと、就労のノウハウがある民間事業者の活用を「車の両輪」と位置づけ、教育訓練から採用まで切れ目のない支援を行うとしているほか、ひきこもりの人たちに対しては「息の長い継続的な伴走支援を行う」として、3年という期間にこだわらず、個々の状況に合わせた支援を継続的に行っていく方針を掲げています。

このほか、社会保障の給付と負担の在り方を含めた総合的な政策を来年夏の「骨太の方針」で取りまとめる方針を明記したほか、消費税率の引き上げをめぐっては、10月に予定どおり10%に引き上げる方針を堅持する一方、今後の海外経済の動向によっては追加の経済対策を講じる可能性に含みを持たせています。

また焦点となっていた最低賃金をめぐっては、引き上げ幅の具体的な数値目標の設定は見送る一方、全国平均で時給1000円の目標の「より早期」の達成を目指すとしていて、過去3年続けて3%程度引き上げられてきた水準を上回る引き上げに期待を示す形となっています。

政府は、「骨太の方針」の来週の閣議決定に向けて、与党側との調整を急ぐ方針です。

首相「実行こそが大事だ」

安倍総理大臣は経済財政諮問会議の最後に「骨太方針は、内閣の経済財政政策の重点課題と方向性を示す、最も重要な政策パッケージだ」と述べました。

そのうえで「就職氷河期」世代への支援プログラムについて「策定するだけではなく、実行こそが大事だ。プログラムの着実な実施を確保していくための体制を整備し、政府一丸となって取り組んでほしい」と述べ、茂木経済再生担当大臣に対し、政府内の支援体制を速やかに検討するよう指示しました。

骨太原案 主な施策

<就職氷河期支援>
いわゆる「就職氷河期」世代への支援プログラムでは、フリーターなど非正規雇用で働く人に加え、ひきこもりの人も含めたおよそ100万人を対象に、支援を通じて正規雇用で働く人を3年間で30万人増やす数値目標を掲げました。

そして、教育訓練から採用まで切れ目のない支援を行うとして、ハローワークへの専門の窓口の設置や人員の配置、短期間で資格を取得できるプログラムの創設を明記しています。

また「民間のノウハウを最大限活用する」として、民間事業者に業務を委託し、採用に結び付くなどの成果に応じて、必要な費用を国が支払う制度の導入も盛り込んでいます。

さらに、ひきこもりの人たちへの支援をめぐっては、地域若者サポートステーションなどの自立支援機関の機能を強化するとしているほか、「本人や家族の状況に合わせた息の長い継続的な伴走支援を行う」として、3年という期間にこだわらず、個々の状況に合わせた支援を継続的に行っていく方針を掲げています。

<消費税率の引き上げ>
10月に迫った消費税率の引き上げをめぐっては、「社会保障の充実と財政健全化にも資するよう、10%への引き上げを予定している」として、予定どおり引き上げる方針を堅持しました。

一方で、米中の貿易摩擦が激しさを増す中、景気が下振れするリスクが顕在化する場合には「機動的なマクロ経済政策をちゅうちょなく実行する」と明記し、今後の海外経済の動向によっては追加の経済対策を講じる可能性に含みを持たせています。

<最低賃金の引き上げ>
企業が従業員に支払わなければならない最低賃金の引き上げをめぐっては、経済財政諮問会議の民間議員が5%程度の大幅な引き上げの必要性に言及する一方、負担が増える中小企業などからは反対の声も上がっていて、調整が難航していました。

最終的に原案では、引き上げ幅の具体的な数値目標の設定は見送る一方、全国平均で時給1000円の目標の「より早期」の達成を目指すとしていて、過去3年続けて3%程度引き上げられてきた水準を上回る引き上げに期待を示す形となっています。

<痛み伴う社会保障改革>
全世代型の社会保障制度の実現に向けて、原案では、社会保障の給付と負担の在り方を含めた総合的、かつ重点的に取り組むべき政策を来年夏の「骨太の方針」でとりまとめる方針を明記しました。

このうち年金と介護の分野については、必要な法改正も視野に、ことしの年末までに結論を得るとしています。
また議論にあたっては「年齢などにとらわれない視点から検討を進め、負担能力や世代間のバランスを考慮する」としていて、高齢化の進行で社会保障を支える現役世代の負担が増す中、所得が多い高齢者らに一層の自己負担を求める方向性を示唆しています。

さらに働いて一定の収入がある60歳以上の年金を減らす「在職老齢年金」について「将来的な制度の廃止も展望しつつ、在り方などを検討する」として、高齢者の就労を促す観点から、廃止する方向性に言及しています。

<その他>
このほか原案では、「まち・ひと・しごと創生会議」で議論されてきた地方創生の推進策や、地方自治体も含めた行政サービスのデジタル化の取り組み、さらに農林水産業の輸出力の強化に向けた司令塔組織「輸出促進本部」を農林水産省に新たに設置することなども盛り込んでいます。

来年度の予算編成は

「骨太の方針」の原案には、来年度の予算編成にあたっての考え方も盛り込まれました。
この中では、海外からの下振れリスクが現実のものとなった場合には「機動的なマクロ経済政策を躊躇(ちゅうちょ)なく実行する」と明記しました。

政府は、国内の景気について「緩やかに回復している」という判断を維持していますが、中国経済の減速を背景に輸出や、企業の生産は弱含み、製造業では設備投資を先送りする動きも出ています。

このため「骨太の方針」の原案では、海外経済の動向によっては追加の経済対策を講じる可能性に含みを持たせた形です。

また原案には、消費税率引き上げに伴う経済への影響を踏まえて、歳出改革とは別に適切な規模の「臨時・特別の措置」を講じる方針も盛り込まれました。

「臨時・特別の措置」は、今年度予算にも、増税前の駆け込み需要や、その後の消費の落ち込みを抑えるため「キャッシュレス決済でのポイント還元制度」や「プレミアム付き商品券」など総額2兆円を超える対策が盛り込まれています。

政府としては、来年度も増税に伴う景気対策を継続することで、景気の回復基調を持続させたい考えです。

財政健全化と消費税

ことしの「骨太の方針」の原案では、去年、策定した財政健全化に向けた目標を改めて掲げています。

国と地方を合わせた「基礎的財政収支」=「プライマリーバランス」を2025年度に黒字化するという目標で、政策に必要な経費を借金には頼らず、税収などで賄えるようにすることを意味します。

この目標達成に向け、膨らみ続ける社会保障費の安定的な財源を確保するため、原案には、ことし10月に予定どおり消費税率を10%に引き上げる方針も盛り込まれています。

ただ内閣府がことし1月に示した試算では消費税率の引き上げを予定どおり行い、高い経済成長を実現した場合でも、2025年度は1兆1000億円程度の赤字で黒字化は2026年度にずれ込む見通しです。

さらに経済成長率が今と同じ程度だった場合は、2025年度の赤字は6兆円を超える見通しで、目標達成に向けた道筋が見通せているとは言い難いのが実情です。財政健全化に向けては、高い経済成長の実現と、さらなる歳出の削減や歳入の確保が避けて通れない状況です。

最低賃金引き上げの経緯

最低賃金は企業が従業員に支払わなければならない最低限の賃金で、都道府県別で定められています。

企業が守らなかった場合は罰則が科されます。
最低賃金をめぐっては1か月の収入が生活保護の受給額を下回る、いわゆる「逆転現象」が問題となり、12年前に生活保護の水準に配慮して最低賃金を決めるよう法律が改正されました。

このあと比較的高い水準で引き上げが行われるようになり、平成26年度には全国平均で時給780円になり、初めてすべての都道府県で生活保護との逆転現象が解消されました。

さらに、政府は3年前に決めた「一億総活躍プラン」などで将来的に全国の平均で1000円に達するよう毎年3%程度引き上げていくという目標を掲げていました。

これを受けて平成28年度からは3%程度の引き上げが行われていて、昨年度、平成30年度は、全国の平均で時給874円となりました。

都道府県別では最も高い東京が時給985円、最も低い鹿児島が761円となっています。