メリカ「臨界前核実験」
被爆者などから怒りの声

アメリカがことし2月に核爆発を伴わない臨界前核実験を西部ネバダ州で行っていたことが分かりました。アメリカが臨界前核実験を行うのはおととしの12月以来で、トランプ政権では2回目です。

アメリカ・エネルギー省が所管するローレンス・リバモア国立研究所は24日、西部ネバダ州の核実験場でことし2月13日に臨界前核実験を行ったことを明らかにしました。

「エディザ」と名付けられた今回の実験では、プルトニウムを反応させるために高性能爆薬を使用し、核分裂の際のデータを測定したということで、研究所では、アメリカが保有する核弾頭の安全性の向上につながったと評価しています。

アメリカが臨界前核実験を行うのはおととしの12月以来29回目で、トランプ政権では2回目です。

トランプ政権は、去年2月、新たな核戦略を発表し、ロシアや中国に対抗するため、実験などを通じて核戦力の近代化を進めるとともに、「低出力核」と呼ばれる威力を抑えた核兵器の増強などを進めています。

今回の実験はことし2月の2回目の米朝首脳会談の直前に行われていて、トランプ政権として、北朝鮮に非核化を迫る一方、みずからは臨界前核実験を通じて核兵器の性能向上を進めていた形で、反核団体などからは強い反発が予想されます。

「低出力核」増強進めるアメリカ

アメリカのトランプ政権は去年2月、中長期の新たな核戦略を示した「核態勢の見直し」を発表し、核なき世界を目指すとしたオバマ前政権からの方針転換を打ち出しました。

新たな戦略では、核戦力を増強するロシアや中国に対抗するため、臨界前核実験などを通じてアメリカの核戦力の近代化を進めるとともに、限定的な核攻撃も辞さない姿勢を示すロシアへの抑止力として、「低出力核」と呼ばれる威力を抑えた核兵器の増強が進められています。

こうした方針を受けて、エネルギー省の傘下にあるNNSA=核安全保障局は、ことし2月、SLBM=潜水艦発射弾道ミサイルに搭載する低出力核弾頭の製造を開始したことを明らかにしました。

NNSAでは、ことし10月までに新たな核弾頭をアメリカ海軍に引き渡す見通しで、「低出力核弾頭は、脅威が高まる中でそれに合わせた抑止力を提供できる」としています。

核兵器関連予算を拡充

トランプ政権は、西部ネバダ州をはじめとするアメリカの核関連施設の半数以上が建設から40年以上経過し、老朽化が進んでいるとして、核戦力の近代化を目指し、関連予算の拡充も進めています。

こうした方針を受けて、ことし3月にトランプ政権が議会に提出した来年度の予算教書では、老朽化した施設の近代化や新しい核弾頭の開発や維持など、核兵器に関連する予算は124億ドル(日本円にして1兆3500億円余り)と、前の年度と比べて11%余り増えています。

日本被団協「訪日のときに発表は意図を感じる」

アメリカが「臨界前核実験」を行っていたことについて、長崎の被爆者で日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会の木戸季市事務局長は「許し難い行為で、トランプ大統領は何をしでかすのか分からない。唯一の戦争被爆国の日本を訪れるときに発表したことは何か意図を感じるし、礼を失している」と述べました。

そのうえで、「原爆は人間の歴史を終わりにしかねないもので、絶対に人間とは相いれない存在だ。核兵器で脅すことはもうやめて、核兵器を廃棄するよう求めたい」と話していました。

広島では抗議の座り込み

アメリカによる「臨界前核実験」が明らかになったことを受けて、広島市の平和公園では、被爆者団体などが抗議の座り込みを行いました。

抗議の座り込みを行ったのは、広島県の被爆者団体など12の団体から集まった合わせて78人で、27日正午すぎに広島市の平和公園にある原爆慰霊碑の前で「ヒロシマからすべての核実験に強く抗議する」などと日本語と英語で書かれた横断幕を掲げて20分間、座り込みました。

このあと広島県被団協=広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之理事長代行があいさつし「核兵器禁止条約が採択されるなど私たちに追い風が吹きつつあると思ったが、相変わらず核兵器廃絶の運動は道半ばだ。今後も国際署名などを通して世論に訴えていきたい」と述べました。

参加した12の団体では、27日にも連名で、トランプ大統領などに宛てた抗議文をアメリカ大使館に送るということです。

広島県被団協の箕牧智之理事長代行は「核実験を知って怒りを感じた。被爆者は、生きている間に核兵器がなくなることを願っている」と話していました。

長崎の被爆者「安倍首相は大統領に抗議を」

長崎原爆被災者協議会の田中重光会長は、26日に行われた核兵器禁止条約を推進するための署名活動の集会で「私たち被爆者が、一番嫌いな核実験をして、アメリカのトランプ大統領が日本に来たということに、怒りを持って抗議したい。このようなアメリカに、北朝鮮やイランに核保有をするなという資格はまったくありません」と述べました。

また、集会のあと田中会長は「安倍総理大臣には被爆国の総理大臣としてトランプ大統領に抗議のことばを発して欲しい」と話していました。

「地球平和監視時計」表示切り替えで抗議

アメリカがことし2月に、臨界前核実験を行っていたことが明らかになり、広島市の原爆資料館は、世界で最後に核実験が行われてからの日数を示す時計の表示を切り替え、抗議の意思を示しました。

広島市の原爆資料館にある「地球平和監視時計」には、広島に原爆が投下されてからの日数と、世界で最後に核実験が行われてからの日数が表示されています。

アメリカが、ことし2月に臨界前核実験を行っていたことが25日明らかになったことを受けて27日、原爆資料館の滝川卓男館長が、時計の日数の表示を切り替え、抗議の意思を示しました。

これまでの時計の表示は、アメリカがおととし12月に臨界前核実験を行ってからの日数を示す「530日」となっていましたが、切り替えた後は、再び実験を行ったとされることし2月13日からの日数を示す「103日」と表示されました。

滝川館長は「核兵器廃絶の機運が高まる中で行われたのは残念でならない。被爆の惨状を世界に発信し続け、広島の願いがかなうよう改めて思い定めている」と話していました。

大阪から訪れた女性は「核実験が行われたことを知りませんでした。もうこの時計がリセットされることのない世界になってほしい」と話していました。

また、インドから訪れた男性は「核実験を行うと、鎖がつながっていくようにほかの国にも連鎖する。このような実験はやめるべきだ」と話していました。

広島 湯崎知事「核兵器廃絶への強い願いを踏みにじる」

広島県の湯崎知事は、トランプ大統領に対して大使館を通じて抗議文を送りました。

この中では、核実験について「核兵器廃絶への広島県民の強い願いを踏みにじるものであり、誠に遺憾だ」などとして、今後、一切の核実験を中止するよう求めています。

そして、トランプ大統領は、核兵器による破壊の現実を理解する必要があるとして被爆地広島への訪問を呼びかけています。

また広島市の松井市長も、26日、記者団に対し「許されない行為で、被爆者を踏みにじるものだ」などと批判し、27日、アメリカに対して抗議文を送ることにしています。

長崎 田上市長「朝鮮半島非核化を期待する人が失望」

長崎市の田上富久市長は、臨界前核実験への抗議文をトランプ大統領あてに出しました。

抗議文では臨界前核実験について「核開発競争を助長し、核使用のリスクを高めかねない動き」だとして「被爆地として強い憤りを感じている」としています。

そのうえで「今回の臨界前核実験は、第2回米朝首脳会談が開催された時期に行われている。北朝鮮側の不信感をあおり、今後の交渉に悪影響を及ぼしかねない行為であり、朝鮮半島の非核化を期待する多くの人々を失望させる行為と言わざるを得ない。今後一切の核実験を中止するとともに、核不拡散条約で約束した誠実な核軍縮に取り組まれるよう強く求める」として、今後、核実験を行わないよう求めています。

長崎 中村知事「極めて遺憾で抗議する」

長崎県の中村知事は、アメリカのハガティ駐日大使あての抗議文を出しました。

抗議文では「アメリカに対し臨界前核実験など核兵器の維持存続や開発につながる一切の核実験を実施することがないよう繰り返し要請してきたが、おととし12月に続き再び臨界前核実験を実施していたことは極めて遺憾で抗議する」と述べています。

そのうえで「核兵器の維持存続や開発につながるすべての核実験を中止し、包括的核実験禁止条約を早期に批准するとともに『核兵器のない世界』の実現に向けた取り組みを加速されるよう強く要請する」などとしています。

また、長崎県議会議長もハガティ駐日大使あてに抗議文を出しました。

官房長官「核軍縮取り組み検討を」

菅官房長官は、午前の記者会見で「本実験は、CTBT=包括的核実験禁止条約によって禁止されている核爆発を伴わないものと承知している。わが国は、この条約の発効を具体的な核軍縮措置として重視しており、まずは発効を目指すべきだ」と述べました。

そのうえで「未臨界実験など、核爆発を伴わない核実験の扱いは、核兵器のない世界を目指す立場から、核軍縮に取り組んでいく中で検討すべき課題だと考えている」と述べました。