70歳まで」希望者が
働き続けられる制度案

希望者が“70歳まで”働き続けられる制度案 政府が取りまとめ

全世代型の社会保障制度の実現に向け、政府は、希望する人が70歳まで働き続けられるようにするための制度案を取りまとめました。定年の廃止や延長に加え、再就職のあっせんや起業支援などを企業側に求める内容で、将来的な義務化の検討も明記しています。

高齢者の雇用をめぐっては、企業には、希望する人全員の65歳までの雇用が義務づけられていますが、政府は、全世代型の社会保障制度の実現に向け、未来投資会議で、70歳までの就業機会を確保するための制度案を示しました。

それによりますと、身体能力や健康状態など、個人差が大きい高齢者の特性を踏まえ、7つのケースを例示し、企業側に対応を求めています。

具体的には、定年の廃止、70歳までの定年延長、継続雇用制度の導入のほか、別の企業への再就職のあっせん、起業支援、フリーランスとして働く場合の資金提供、社会貢献活動を行うための資金提供をあげています。

制度案では、これら7つのケースから、企業が労使の協議で導入するものを選び、従業員が働き方を選択できる仕組みを検討するとしています。

また、法整備は2段階で行うとしていてまず、70歳までの雇用確保を企業の努力規定とする法案を来年の通常国会に提出し、その後、進捗(しんちょく)状況を踏まえ、将来的には義務化を検討すると明記しています。

さらに、公的年金の受給開始年齢を、希望すれば、現在よりさらに遅らせることができるようにすることも盛り込んでいます。

安倍総理大臣は、会議の最後に、「元気で意欲ある高齢者の方々にその経験や知恵を社会で発揮していただけるよう法改正を目指す」と述べ、来月にも決定する成長戦略の取りまとめに向けた最終調整を進めるよう、茂木経済再生担当大臣に指示しました。

高齢者雇用 拡大のねらいは

高齢者の雇用拡大は、安倍総理大臣が2021年までの3年で実現するとしている全世代型社会保障改革の柱の一つです。

内閣府が5年前に行った調査では、70歳以降も働くことを希望する60歳以上の人は8割に上り、政府は、少子高齢化が進み、人手不足も深刻化する中、こうした高齢者がやりがいを持って働ける場を整備することを国家的課題と位置づけています。

ただ、自分の都合のつく時間に働きたいと考える人が一定数いるなど、高齢者の希望する就労形態は多岐にわたることから、政府は、個々の事情に応じて、多様な選択肢から自分に合った働き方を選べるようにする制度の検討を急いできました。

また、65歳までの雇用を義務づけている継続雇用年齢をそのまま70歳に引き上げれば、人件費が膨らむ企業側の反発は避けられないとして、今回の制度案では、別の企業で働くことや起業なども選択肢に取り入れました。

政府は、社会保障費が膨らみ続ける中、元気な高齢者に社会保障の支え手に回ってもらうことで、財政の安定化にもつなげたい考えです。

しかし、医療や年金などの高齢者の負担を今よりも増やすための改革は手付かずのままで、今後は、こうした検討も迫られることになります。

シニア世代の雇用を進める企業は

今回の制度案が取りまとめられたことについて、シニア世代の雇用を積極的に進めている企業の中にはさらに働く人を集められるのではないかと期待する声も出ています。

東京 立川市の警備会社では、人手不足のなか、社員を確保するため、定年を65歳に引き上げたうえ、定年後も健康で働く意欲があれば、年齢に関係なく働き続けることができるようにしています。

現在、364人いる社員のうち、最年長の86歳の男性を筆頭に、60歳以上が184人と、全体のほぼ半数を占めています。

会社では、労災を防ぐため、社員に毎日、勤務前に血圧を測定させ、朝食を食べたか、睡眠は十分に取ったかをチェックするなど社員の健康状態に細かく目配りしています。

また、働く意欲を高めてもらうため、警備業務の国家資格の取得を支援していて、社員が業務の合間に研修を受けることができるようにしたり、受験の費用を負担したりしています。

さらに、資格を取得できた人には手当を支払っています。

15年前に転職してきたという70歳の男性は、「年金だけでは生活が厳しいので働いています。体が動くうちはずっと働きたいと考えています」と話していました。

今回、希望する人が70歳まで働き続けられるようにするための制度案が取りまとめられたことについて、この会社の対馬一社長は、「警備の仕事は対人関係の仕事なので、人生経験が豊かなシニアのほうが向いていると考えています。70歳まで働き続けるための制度が始まれば、警備業界にもっと人を呼び込めるのではないかと期待しています」と話していました。