国 8県水産物輸入禁止
日本が逆転敗訴 WTO

原発事故による汚染水問題を理由に、韓国政府が福島など8つの県の水産物の輸入を禁止していることについて、WTO=世界貿易機関の上級委員会は、韓国側に是正を求めた第1審にあたる小委員会の判断を取り消すとした報告書を公表しました。日本の主張が退けられ、事実上、敗訴した形となります。

東京電力・福島第一原子力発電所の事故を受けて、韓国政府は、水産物への汚染が懸念されるとして、2013年から福島県など8つの県の水産物の輸入を禁止しています。

日本政府は規制は不当だとしてWTOに提訴し、1審にあたる小委員会では日本の訴えを認め、韓国側に是正を求める判断が示されましたが、韓国側が不服として上級委員会に上訴していました。

この判決にあたる報告書が11日、公表され、小委員会の判断には誤りがあるとして、これを取り消すとした判断が示されました。日本の主張は退けられて事実上、敗訴した形となります。

WTOの紛争処理は2審制のため、これが最終的な判断となり韓国側が行っている輸入禁止措置は継続されると見られます。

水産庁によりますと、規制が導入されたあとの1年間、韓国への水産物の輸出額は20%以上減少し、以前は盛んに輸出されていたホヤが廃棄を余儀なくされるなどの影響が出ていました。

判断の理由は

今回、日本が事実上敗訴したのは、WTOの上級委員会が第1審にあたる小委員会における議論の手続きが不十分だと判断したためです。

水産庁によりますと、WTOの報告書では、韓国が国内に流通する食品の放射性物質の基準をできるだけ低い水準におさえたいとしていたのに、小委員会がこの主張を十分に議論しないまま判断したとしています。

また、日本産の食品が差別的な扱いを受けているかどうかの議論で、小委員会は放射性物質の水準を他の国の食品と同じ条件で比較できていない可能性があると指摘しています。

このため、上級委員会は韓国側に是正を求めた第1審にあたる小委員会の判断を取り消しました。

吉川農相「安全性否定していない」

吉川農林水産大臣は、「韓国の措置がWTO協定に整合的だと認められたわけではないが、わが国の主張が認められなかったことは、復興に向けて努力をされてきた被災地の人たちのことを思うと誠に遺憾だ」と述べたうえで、今後は韓国との2国間の協議で規制の撤廃を求めていく考えを示しました。

また、吉川大臣は「上級委員会の判断は1審にあたる小委員会の判断に誤りがあることを指摘したもので、日本の食品の安全性を否定したものではない」と述べました。

そのうえで、「日本が出荷規制で放射性物質の基準値を超えた食品は流通させない体制を構築し、徹底したモニタリングをしていることを改めて伝えていきたい」と述べ、韓国だけでなく日本の食品の輸入を規制しているほかの国や地域に対しても、引き続き規制の撤廃や緩和を求めていく考えを強調しました。

河野外相「韓国との協議を通じ 措置の撤廃求めていく」

河野外務大臣は「日本の主張が認められなかったことは誠に遺憾だ。報告書の内容を分析し、今後の対応を検討していく。日本としては、韓国に対して規制措置全体の撤廃を求めるという立場に変わりはなく、報告書を踏まえて韓国との協議を通じて、措置の撤廃を求めていく」という談話を出しました。

渡辺復興相「風評払拭(ふっしょく)に粘り強く取り組む」

渡辺復興大臣は閣議のあとの記者会見で、「日本の主張が認められなかったことは大変遺憾だ。復興庁としては、輸入規制の撤廃と海外での風評の払拭に向けて、関係省庁と連携し、粘り強く取り組んでいきたい」と述べました。

菅官房長官「遺憾 敗訴に当たらず」

菅官房長官は、「韓国側の輸入規制措置がWTO協定に違反するとした1審の判断が取り消されたことは事実で、わが国の主張が認められなかったことは誠に遺憾だ」と述べました。

そのうえで「日本産食品は科学的に安全で、韓国の安全基準を十分クリアするものだとの1審の事実認定は維持されており、韓国が措置を強化した際に周知義務などを果たさなかったことを協定違反と認めた1審の判断も支持されている。したがって、わが国が敗訴したとの指摘はあたらない」と述べました。

また、菅官房長官は、農林水産物や食品の年間の輸出額を1兆円に増やすとした政府の目標の達成が視野に入ってきているとしたうえで、「原発事故に伴う諸外国の輸入規制措置の撤廃・緩和は大変重要な課題だ。撤廃・緩和が進むよう粘り強く働きかけていきたい」と述べました。

鈴木五輪相「五輪・パラでも被災地食材を積極活用」

鈴木オリンピック・パラリンピック担当大臣は閣議のあと記者団に対し、「被災地の皆さんは、風評被害に大変苦労されているわけで残念だ。オリンピック・パラリンピックに関しても、被災地の食材を積極的に活用したいと思っている。そういうことも通じて、風評被害を払拭するため、被災地でできる食材のすばらしさをぜひ発信していきたい」と述べました。

韓国の輸入規制 8県で水揚げされた水産物

韓国政府による水産物の輸入規制は、2011年3月の東京電力・福島第一原子力発電所の事故のあと導入されました。

原発から排出された汚染水により、安全性への懸念が高まっているとして、福島県や宮城県など8つの県で水揚げされた水産物の一部に対して、輸入を禁じました。2年後の2013年には、輸入を禁止する対象をすべての水産物にまで広げました。

これに対し日本政府は、2015年、放射性物質に関する厳しい基準を満たした水産物を出荷しているため安全で、韓国の規制は不当な差別にあたるなどとして、WTOに提訴しました。

第1審にあたる小委員会では、日本の主張が認められ、韓国に対し規制の是正を求める判断が示されました。これを不服とした韓国側は第2審にあたる上級委員会に上訴していました。

中国の規制緩和の対応にも影響か

WTO=世界貿易機関の上級委員会で、日本が事実上敗訴したことで、東北地方などの農産物の輸入の規制緩和を検討している中国政府の対応にも影響を与える可能性が出ています。

中国は東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと、福島県や宮城県など10の県や都の農産物や水産物の輸入停止を続けていて、安倍総理大臣は去年10月に中国を訪問した際、習近平国家主席に対し規制の解除を求めました。

これに対し、中国側は「科学的評価に基づき規制緩和を積極的に検討する」と表明し、去年11月、新潟県産のコメについては規制が解除されています。

日本政府は14日、両国の閣僚が参加して北京で開かれる「日中ハイレベル経済対話」で輸入停止措置の解除を求める方針ですが、中国では原発事故をめぐり、日本の東北地方などの食品の安全性に対して批判的な意見も根強く残っていて、今回のWTOの判断が中国政府の対応に影響を与える可能性も出ています。