イヌ民族「先住民族」と
初めて明記 交付金創設へ

政府は、15日の閣議で、アイヌ民族を先住民族として初めて位置づけ、アイヌ文化を生かした地域振興策を行うための交付金の創設などを盛り込んだ新たな法律案を決定しました。

閣議決定された法律案では、アイヌ民族を「先住民族」と初めて明記し、「アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、その誇りが尊重される社会の実現を図る」としています。

また、国や自治体がアイヌ政策を実施していく責務を負っているとしたうえで、地域の活性化を目指してアイヌ文化を生かした事業を計画する自治体を対象に、新たな交付金を創設することも盛り込まれています。

さらに、アイヌの人たちが独自の文化を継承するのを後押しするため、国有林で樹木を採取したり、川でサケを捕獲したりできるよう手続きを簡素化し、規制緩和を行うなどとしています。

政府はこの法律案を今の国会に提出し、早期成立を図りたいとしています。

北海道アイヌ協会理事長「共生社会を建設する第一歩」

国のアイヌ政策推進会議の委員を務めた北海道アイヌ協会の加藤忠理事長は、法案で初めてアイヌ民族が先住民族と明記されたことについて「深い眠りから覚めた感じがする。共生社会を建設する第一歩だ」と述べ、今後アイヌ民族への理解が広がり、先住民族としての権利の獲得につながると期待感を示しました。

その一方で、加藤理事長は、法案に協会がこれまで求めてきたアイヌ民族個人への生活支援などが盛り込まれていないとして、「一歩一歩進んでいくことが大事だと思っているが、全体の完成度は70%だ」と述べました。

政策の変遷

アイヌ民族は国の長年の同化政策で使うことばや生活スタイルを大きく変えることを余儀なくされました。

いまから150年前、明治政府が「えぞ地」を「北海道」と命名し、開拓使が置かれてからはアイヌ民族の子どもたちが学校で日本語を学ぶようになるなどアイヌ語を使う機会が極端に減り、生活や儀式のためサケを川で取ることも禁止されました。

そして120年前、アイヌ民族を「旧土人」と位置づけ同化政策を決定づける「北海道旧土人保護法」が公布され、この法律は22年前の平成9年まで残り続け、差別を助長する根源となりました。

アイヌ民族の求めに国が応じる形で「北海道旧土人保護法」に代わり「アイヌ文化振興法」が公布されると、これまでの同化政策で消滅の危機にあったアイヌのことばや文化を復興するため国の予算が投じられるようになりましたが、生活水準の格差は残ることになりました。

その後、12年前の2007年、国連で先住民族の権利に関する宣言が採択され、よくとし、国会も政策を広げるよう求めたことから政府としてもアイヌ政策をさらに進めるための議論を始め、今回の法律案につながりました。

先住民族政策各国の状況は

アイヌ民族に関する新たな法律案では、「近年における先住民族をめぐる国際情勢にも鑑み」と海外の事情にも言及しています。

先住民族は、北欧やオーストラリア、アメリカ大陸など各地に暮らし、かつては同化政策などで政府からの抑圧を受けていましたが、1970年代に入り、先住民族の権利の保障を求める声が高まり、各国でさまざな政策が打ち出されるようになりました。

このうち、北欧の先住民族「サーミ」は、主にノルウェーやフィンランド、それにスウェーデンなどに暮らし、中でも先進的な政策を進めているとされるのがノルウェーです。

ノルウェーでは、憲法に「政府は、サーミが言語や文化、生活様式を維持し発展させられるような環境を整備しなければならない」と明記したうえで、独自の言語であるサーミ語を学べる専門の学校を政府が整備しているほか、土地や水を使用する権利を認めるなど、手厚い支援を行っています。

カナダでは、1982年に制定された憲法で、イヌイットなどが先住民族と規定され、今では土地を使用する権利や自治権などが認められるようになりました。

オーストラリアの先住民族アボリジニも、土地を使用する権利を含む幅広い権利が認められています。
例えば、「エアーズロック」の名前でも知られる巨大な一枚岩「ウルル」は、アボリジニが土地の所有者となったうえで、政府とリース契約を結び、収入を得ています。

国連でも先住民族の権利を保障する動きが広がっていて、2007年の国連総会で、先住民族が独自の文化を守ったり、固有の言語で教育を行ったりする権利を認める宣言が採択されました。

先住民族をめぐっては、歴史的な背景が異なることから、各国ではそれぞれの状況を踏まえた議論が続けられています。

首都圏在住のアイヌ女性は

首都圏に住むアイヌの女性は「これをきっかけに、アイヌだということを打ち明けられるような環境になってほしい」と話していました。

相模原市に住む島田あけみさん(62)は、北海道でアイヌの両親のもとに生まれ、20歳の時に就職のため、関東に移り住んできました。現在は、首都圏に住むアイヌの人たちでつくる団体のうちの1つで代表を務め、アイヌ独自の文化の継承活動に取り組んでいます。

今回の法律案について、島田さんは「課題は残されているものの、アイヌが先住民族であると明記されたことは、自分たちの自信につながるし、いいことだと思います」と話していました。

30年前の東京都の調査では、都内に約2700人のアイヌの人たちが暮らしていたとされていますが、現在は、首都圏にどれくらいいるのか分かっていません。

道外では、アイヌであることを話すと差別を受けるのではないかと考え、隠している人もいるということで、島田さんも、45歳まで周囲に打ち明けられなかったと言います。

島田さんは「今回の法律案で、アイヌだということを打ち明けられるような環境になって、多くの人にアイヌの文化に触れてもらいたいです」と話していました。

石井国交大臣「施策を交付金で推進」

石井国土交通大臣は15日の閣議のあとの記者会見で「地域振興や観光振興に向けた施策を交付金を使って総合的に推進し、アイヌの人々の抱える課題に応えていきたい」と述べました。

官房長官「課題解決に取り組む」

菅官房長官は閣議のあとの記者会見で、「アイヌの方々が民族としての名誉と尊厳を保持し次世代に継承していくことは、多様な価値観が共生し、活力ある共生社会を実現するために必要だ。アイヌの人々に寄り添いながら、未来志向のアイヌ政策という観点から、アイヌの人々の抱えている課題の解決に向けた取り組みを着実に実施していきたい」と述べました。