ワハラであるだけで
なく、さらにひどい発言」

兵庫県明石市の泉房穂市長が、道路の拡幅工事に伴う用地買収が進んでいないとして、担当の職員に「建物に火をつけて捕まってこい」などと暴言を浴びせていたことがわかりました。泉市長は、記者会見を開き「パワハラだけでなく、さらにひどい発言で、職員や市民に申し訳ない」と陳謝しました。

明石市は、市内の国道2号線の拡幅工事を行うため、平成24年から周辺の用地買収をしていましたが、泉市長はおととし6月、一部の建物の立ち退き交渉が進んでいないとして、市長室に担当の幹部職員を呼び出し、暴言を浴びせていたということです。

NHKが入手した録音で、泉市長は「立ち退きさせてこい。火をつけて捕まってこい。建物を燃やしてこい。おまえらが金を出せ。自分の家を売って話をまとめろ」などと発言しています。

これについて泉市長は29日、記者会見を開き、発言内容を認めたうえで「パワハラであるだけでなく、さらにひどい発言だった。職員にも市民にも大変申し訳ない」と陳謝しました。

そのうえで泉市長は「死亡事故も発生している交差点の工事を一刻も早く進めたいという思いがあった。統一地方選挙が迫っており、一連の状況を含めて市民にご判断を仰ぎたい」と述べました。

泉市長は、NHKのディレクターや衆議院議員を経て、平成23年の明石市長選挙で初当選し、現在2期目です。

発言を録音した音声データ

NHKが入手した、発言を録音した音声データでは、泉市長は20分以上にわたって次のように発言しています。

「ふざけんな。あほちゃうか、ほんまに。すまんですむか。立ち退きさしてこい、お前らで。きょう火をつけて捕まってこい。燃やしてこい、建物を。損害賠償は個人で負え。人が死んだんでしょうが、安全対策でしょうが。はよ、せえよ。7年もですよ、事業スタートから。許さんから、ほんまに許さんから。おまえらが金、出せ。自分の家を売れ。それで話をまとめろ。担当に辞めてもらえ。辞表、取ってこい。辞表を出さないなら、7年分の給料を払え。難しかったら私が行って土下座でもしますわ、そんなもん。市民の安全のためやろが。安全な道路つくろうとしているわけでしょ」

暴言浴びた幹部職員「パワハラとは感じていない」

道路の拡幅工事の責任者で、泉市長から直接、暴言を浴びせられた市の幹部職員はNHKの取材に対し、「市長の発言は言ってはいけないことばだったとは思うが、事業が進んでいなかった責任があるので、私自身はパワハラとは感じていない。市長は今回のことを反省し、職員が気軽に相談できるような雰囲気をつくってもらいたい」と話しています。

専門家「典型的なパワハラで言語道断」

各地の企業や団体でパワーハラスメントなどに関する研修や講演を行っている社会保険労務士の藤原寛子さんは「音声からはことば使いや口調にとても力がある印象だ。一方的に相手を罵倒する、罵詈雑言を並べ精神を攻撃する典型的なパワーハラスメントで、どんな背景があったとしても決して許されない発言だ。一般的にパワハラかどうかの線引きは難しいが、今回の発言の内容はそのグレーゾーンには当たらずあるまじき発言で言語道断だ」と指摘しています。

そのうえで、藤原さんは「パワーハラスメントは部長、課長など階級がはっきりとしているフォーマルな組織では民間に限らず、行政でもどこでも起こりうる。昔は教育、指導のためといって許容されていたこともあったが今の時代にはそぐわない。今回のケースでいえば、事業が進まないことを取り上げ部下を怒るのでなく、計画そのものに無理はないかを一緒に考えるといった『マネージメント力』こそが組織のトップに立つ人に重要な要素だ。トップに立つ人はもっとことばを大切にしてほしい」と話していました。

市民からは批判の声

明石市の泉市長の暴言について、市民からは批判の声が上がっています。

JR明石駅前で市民に聞いたところ45歳の男性は「『火をつけてこい』はひどい。立派な人だと思っていたのにヤクザみたいなことを言うんだなと思った。弁護士でもある人がこういうことを言うのは言い訳がつかない」と話していました。

また、31歳の女性は「いままで子育て支援などを充実させてくれたので、いろいろ理解のある人かと思っていましたが、印象が変わりました。怖いかな、と。よい政策もしてきたのでそれは続けてほしい」と話していました。

一方、50代の女性は「発言の一部を切り取って聞かされると『わっ』と思いますけど、子育ての施策を頑張ってやってもらっているから、その足を引っ張る原因になるのはいやだなと思います」と話していました。
330件超の苦情や批判的意見
明石市の泉市長の暴言について、明石市役所には29日午後5時現在、385件の苦情や意見などが電話やメールで寄せられました。

このうち337件は「市長は即刻辞任すべきだ」とか、「市民として情けない」、「放火を指示するのは犯罪ではないか」といった苦情や批判的な意見だったということです。

一方、31件は「市民を思っての発言だったのではないか」などと肯定的な意見だったほか、「なぜ、選挙前に発覚したのか」、「組織内部の話が外部に漏れることが問題だ」といったその他の意見が17件、寄せられたということです。

パワハラ対策中に発覚

今回の問題は明石市がハラスメントの防止対策を進めるさなかに発覚しました。

明石市では去年6月、元・産業文化振興部長が2年間に10人の部下に対して、平手打ちなどの暴力行為や人格を否定する発言をしたり、手や肩をなでたりする、パワハラやセクハラを繰り返していたとして、停職6か月の懲戒処分を受けました。

これを受けて泉市長は、監督責任があったとして給与を3か月分、自主的に減額したほか、再発防止を徹底するとして市は先月、ハラスメント防止のガイドラインを策定していました。

こうした中、発覚したみずからの発言について、泉市長は記者会見で、「許されないものであり、処分を受けるのは当然だと思っている」と述べ、今後、副市長などと協議して具体的な処分内容を決めるとしています。

国道2号線拡幅工事 国が明石市に用地買収を委託

明石市が用地買収を進めていたのはJR明石駅前の国道2号線の拡幅工事をするためです。

東西に走る現場の国道は、明石駅前交差点をはさんで西側が片側2車線なのに対し、東側は片側1車線です。

明石市によりますと、この交差点では交通事故が多く、平成14年からの5年間で40件以上、起きたということです。

事故防止につなげるため、国は平成22年から東側の車線を増やす事業に乗り出し、平成24年に明石市に周辺の用地買収を委託しました。

当初、用地買収は平成27年度に完了する予定でしたが、暴言があったおととし6月の時点で交差点の角にあるビル1棟の用地買収が終わっていませんでした。

この間、平成27年には、交差点でバイクどうしがぶつかる死亡事故が起きていたということです。

現在は用地買収は終わっていて、先月から拡幅に向けた工事が始まっています。