議継続は困難」防衛省
レーダー照射問題で最終見解

韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射問題をめぐって、防衛省は、韓国側に改めて強く抗議したうえで、防衛当局間の協議の継続は、「もはや困難だ」とする最終見解を発表しました。防衛省は事実上、協議を打ち切る方針で、これ以上、この問題が長期化することで、日韓関係がさらに悪化することを避けたい考えがあるものとみられます。

先月20日、海上自衛隊のP1哨戒機が、韓国軍の駆逐艦から射撃管制用レーダーの照射を受けた問題では、韓国側は否定する見方を示し、今月14日に両国の防衛当局による直接協議が行われましたが、平行線に終わっています。

こうした状況を受けて、防衛省は21日夕方、レーダーの電波を探知した時に記録したという「音」を新たに公開しました。公開された音は当時、哨戒機の隊員が探知したレーダーの電波を音に変換する装置を使ってヘッドホンで聞いていたものだということで、甲高い特有の音が18秒間鳴り続いています。

射撃管制用レーダーは、強い電波を出して相手を捕捉して追尾する仕組みになっていて、防衛省は、特有の音が連続しているのは射撃管制用レーダーの照射が一定時間続いたことを示しているとしています。このレーダーは、韓国以外の国も保有しているため、機密保持を理由に音が一部加工されていますが、特徴は残しているということです。比較用として、音が周期的に聞こえる捜索用レーダーを探知した際の一般的な音の事例も用意されていて、防衛省は今回の音の公開によって日本側の説明の客観性がさらに補強されるとしています。

防衛省はレーダー探知の音を公開するとともに、日本側の最終見解を発表しました。最終見解では韓国側に対し、「改めて強く抗議し、事実を認め、再発防止の徹底を強く求める」としています。そのうえで、「客観的な事実認定に応じる姿勢が見られず、レーダー照射の有無について、これ以上、実務者協議を継続しても、真実の究明には至らないと考えられる。このため、協議を続けていくことは、もはや困難だと判断する」としています。

一方で、「日韓や、アメリカも加えた日米韓の防衛協力は、北朝鮮の核・ミサイル問題をはじめ、地域の安定的な安全保障環境を維持するため、極めて重要で不可欠だという認識に変わりはなく、協力の継続に向けて、真摯(しんし)に努力していく」としています。

防衛省は事実上、この問題に関する協議を打ち切る方針で、これ以上、双方が批判を繰り返す状況が長期化し、日韓関係がさらに悪化することを避けたい考えがあるものとみられます。

レーダー探知と「音」の違い

今回、公開されたのは探知したレーダーの電波を音に変換する装置を使って、哨戒機の隊員がヘッドホンで聞いた「音」です。

海上自衛隊によりますと、哨戒機内にはレーダーを探知するための「ESM」という装置が搭載されていて、探知した電波の情報は装置の画面に表示されるとともに、音に変換されて、レーダー情報の分析を担当する隊員がヘッドホンで聞くことになっています。

照射されたレーダーの種類によって、音の聞こえ方が異なり、射撃管制用レーダーの場合は、焦点を絞って強い電波を照射し続けることで相手を補足し追尾するようになっているため、この電波を探知した場合は甲高い音が連続して鳴り続け、音も大きくなるということです。

一方、周囲を広く監視する捜索用レーダーの場合は、アンテナを回転させながら広い範囲に電波を照射するため、短い音が一定の周期で繰り返し、射撃管制用レーダーに比べると音量も小さく聞こえるということです。

今回公開した音について、防衛省は音が連続しているうえ、音量も大きいことなどから射撃管制用レーダーの特徴を示しているとしていますが、機密保持のため、音の特徴を残す形で一部加工しているということです。

海自哨戒機の飛行概要公表

防衛省は、海上自衛隊のP1哨戒機が、当時、どのように飛行したのかについても、概要を公表しました。

それによりますと、哨戒機は当初、韓国の駆逐艦に近づいた際に艦艇の後方を横切り、この際の距離は高度およそ230メートル、距離およそ500メートルだったとしています。その後、旋回して再び駆逐艦に近づき、艦艇の右側を後方から前方に向けて通過し、この際、最も接近したということで、高度およそ150メートル、距離およそ500メートルだったということです。

レーダーを照射されたのは、このあと、しばらくしてからで、最も接近した時に比べて数倍以上、離れた距離を飛行していたということです。

韓国側は海上自衛隊の哨戒機が駆逐艦に対して、「威嚇的な低空飛行をした」として謝罪を求めていますが、防衛省は最も接近した際にも十分な高度と距離を確保しており、脅威を与えるような飛行は一切行っていないとしています。

また、海上自衛隊の哨戒機は去年4月以降、日本周辺で韓国軍の同じ駆逐艦を確認し、3回にわたって上空から撮影したということで、その時の写真も公開されました。これら3回のうち、最も接近した際には今回と同じ高度およそ150メートル、距離およそ500メートルを飛行していましたが、韓国側からの問題提起はなかったということです。

官房長官「内外に丁寧に説明する必要ある」

菅官房長官は午後の記者会見で、「韓国側から、さまざまな報道や見解が示されている中で、事実関係について、国民をはじめ対外的に丁寧に説明する必要があり、客観的事実を取りまとめた防衛省としての最終見解と、レーダーを照射された際の音を本日中に公表すると防衛省から報告を受けている。本件については、防衛省から韓国側にも丁寧に説明したものだということだ」と述べました。

そのうえで「いずれにしても、北朝鮮問題をはじめとするさまざまな課題に対し、日韓や日米韓で引き続き、緊密に連携していくことが重要であり、今後とも、日韓防衛当局でしっかりと意思疎通を図っていくものと思っている」と述べました。

国民 玉木代表「韓国側の対応は不誠実」

国民民主党の玉木代表は那覇市で記者団に対し、「韓国側の対応は不誠実ではないか。日本側は出せる資料は出し、しっかりと立場を説明してきた。韓国側にも、これ以上、事態を政治問題化させない知恵と工夫を発揮してもらい、未来志向の地域の平和と安定につながる対応を望みたい」と述べました。

韓国国防相「協議中断に深い憂慮」

防衛省が防衛当局間の協議の継続は「もはや困難だ」とする最終見解を発表したことについて、韓国国防省のチェ・ヒョンス(崔賢洙)報道官は「日本側が根拠となる資料の提示なしに電波の『音』だけを公開し、事実関係の検証のための協議を中断するとしたことに深い憂慮を表明する」とのコメントを発表しました。

そのうえで、防衛省が公開したレーダーの電波を探知した時に記録したという「音」について「われわれが要求していた、探知した日時、方位、電磁波の特性などが全く確認できず、実態が分からない機械音だ」として、証拠にはならないと主張しました。

そして「今回の事案の本質は、人道主義的な救助活動中だった韓国軍の艦艇に対する日本の哨戒機による低空での威嚇飛行にあり、日本側の謝罪を重ねて要求する」と述べました。

一方で「韓国政府は強固なアメリカとの防衛体制とともに、日本との安全保障協力の強化に向けた努力は今後も発展させる」とし、これ以上の関係悪化は避けたいという姿勢も示しました。

元海将 早く対立解消を

海上自衛隊で司令官を務めた元海将の香田洋二さんは、防衛省が公開した音について「射撃管制用レーダーは目標に対して一定時間、照射し続けるので、音が鳴り続ける。公開した音は18秒間鳴り続けていて、射撃管制用レーダーの典型的な音だ」と話しています。

その一方で「この音だけではどの艦艇からレーダーを照射されたかまでは判断できない。レーダーの電波には艦艇ごとに特徴があり、電波のデータを分析すればどの艦艇が照射したかはわかるが、データは機密情報にあたり公表は難しいので、音だけだと韓国は否定するだろう」と指摘しています。

そのうえで「始まりはおそらくちょっとしたボタンの掛け違いだったのが、両国が互いに謝罪を要求するような事態にまで発展してしまった。日本周辺の安全保障環境を考えれば両国にとっていいことはないので、互いの主張を飲み込んで大局的な立場に立った対策が必要だ」と述べ、対立状態を早く解消することが必要だという考えを示しました。