院選「1票の格差」
最高裁が「合憲」の判決

去年10月の衆議院選挙でいわゆる1票の格差が最大で1.98倍だったことについて、最高裁判所大法廷は、「投票価値の平等を確保するという要請に応えつつ、是正を図ったと評価できる」として、憲法に違反しないという判決を言い渡しました。

去年10月の衆議院選挙では、選挙区によって議員1人あたりの有権者の数に最大で1.98倍の格差があり、2つの弁護士グループが「投票価値の平等に反し、憲法に違反する」として、選挙の無効を求める訴えを全国で起こしました。

19日の判決で最高裁判所大法廷の大谷直人裁判長は「おととしなどに行われた法律の改正は投票価値の平等を確保するという要請に応えつつ、選挙制度の安定性を確保する観点から、徐々に是正を図ったと評価できる」と指摘しました。

そのうえで「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえない」として、1票の格差は憲法に違反しないと判断し、訴えを退けました。

最高裁は、2020年の国勢調査の結果に基づいて都道府県への議席の配分を行う「アダムズ方式」が今後、採用されることについて、「格差を相当程度、縮小させ、その状態が安定的に続く」として、「合憲」の大きな理由としています。

また、平成6年に小選挙区制が導入されてから初めて格差が2倍未満に縮小したことについて、格差が2倍未満なら憲法に違反しないという判断は示しませんでした。

一方、15人の裁判官のうち1人が「憲法違反で選挙は無効」としたほか、1人が「憲法違反」、2人は「違憲状態」という意見を述べ、判断が分かれました。

最高裁は、平成26年までの3回の衆議院選挙を「違憲状態」と判断していて、「合憲」の判断は平成17年の選挙以来です。

原告 山口弁護士「大変に不満」

判決の後の会見で、原告の弁護士グループの山口邦明弁護士は「われわれは憲法が保障する平等性や民主主義の実現を求めている。格差を2倍未満とする法律に合致しているから憲法に違反しないと判断しているのは、憲法と法律の関係を逆転して考えている。大変不満であり、次の機会でも訴えていきたい」と話しました。

原告 升永弁護士グループ「大きな前進」

判決のあと、原告の升永英俊弁護士のグループは「人口比例選挙に近づく大きな前進」と書かれた紙を掲げました。

升永英俊 弁護士は「新たな議席の配分方法の『アダムス方式』による選挙をやらなければならないと、司法が宣言したもので、一定の評価ができる」と述べました。

また、伊藤真弁護士は「残念ながら合憲の判断だったが、大きな前進だと考えている。最高裁は2倍を切ったから合憲と判断したのではなく、アダムス方式を採用することが決まっていることを理由としていて、大きな進歩だ。司法の判断に国会が従うことが大事だ」と述べました。

自民「判決は立法府の努力を評価」

自民党はコメントを出し、「わが党が主導して成立させた選挙制度改革の法律に基づき、選挙区の間の最大格差は2倍未満に収められており、今回の判決は、そうした立法府の努力を評価したものと受け止めている」としています。

自民 石破氏「今後も努力」

去年の衆議院選挙で、有権者の数が最も少なかった鳥取1区選出の、自民党の石破元幹事長は、記者団に対し、「厳しい選挙制度改革を行った国会の努力が、真摯(しんし)なものだと認められ、現状では極めて妥当な判決だ。ただ、『2倍を切ったらそれでいい』ということではなく、今後も努力していかなければならない」と述べました。

立民 長妻氏「根本的な定数是正策を」

立憲民主党の長妻代表代行は記者団に対し、「暫定的な、びほう策で抑え込んだ結果なので、与党には『これでよい』と思ってもらっては困る。次の国政選挙では、もう1段階の改革が必要だ。各都道府県に1議席ずつ割り当てる『1人別枠方式』の議論も決着していないので、根本的な定数是正策に取り組んでほしい」と述べました。

国民 古川氏「1日も早く抜本的な是正を」

国民民主党の古川代表代行は記者団に対し、「司法の判断として受け止めたいが、政治の責任として、選挙制度そのものを改革し、1日も早く抜本的な定数是正を行うべきだ。党としても、憲法が要請する1票の価値の平等を図るため、定数や選挙制度の在り方を検討したい」と述べました。

「選挙無効」の反対意見も

判決では、15人の裁判官のうち1人が「憲法違反で選挙は無効」としたほか、1人が「憲法違反」、2人は「違憲状態」という意見を述べ、判断が分かれました。

「選挙無効」だと判断して反対意見を述べた元内閣法制局長官の山本庸幸裁判官は「投票価値の平等は唯一かつ絶対的な基準として真っ先に守られなければならず、代表民主制の本来の姿に合わない状態が続いている。格差は1.0となるのが原則だ」と指摘して、1.2倍以上の格差が生じる選挙制度は憲法違反で無効だとしています。

さらに、「1票の価値が低い選挙区で選ばれた議員は、すべてその身分を失うべきで、国会の議事に加わることは許されない」と述べて、ちゅうちょせずに選挙を無効にするべきだという考えも示しています。

弁護士出身の鬼丸かおる裁判官も「憲法違反」だとして、反対意見を述べました。
鬼丸裁判官は、28の選挙区で1.9倍以上の格差があったことや、36の都道府県で議席の配分が見直されていないことなどを指摘したうえで、「投票価値の平等に沿った選挙制度のもとで選挙が行われたとは言いがたい」としています。

また、外務省出身の林景一裁判官と、弁護士出身の宮崎裕子裁判官は「違憲状態」だとする意見を述べています。

林裁判官は、最大で1.98倍という格差の数値に着目し、「『ほぼ2倍』を合憲と判断できる根拠はない。『お墨付き』を与えたと受け止められる懸念があり、『約2倍』を最終目標と考えるのは適当ではない」と指摘しています。

宮崎裁判官は、判決で合憲の判断の大きな理由とされた「アダムズ方式」についてはまだ導入されていないため、今回の選挙の判断については、考慮すべきではないと指摘しています。