民ファンドは国の資金
報酬高すぎる」世耕経産相

ことし9月に発足した官民ファンドの「産業革新投資機構」の役員報酬をめぐり、世耕経済産業大臣は、いったん機構側と合意した報酬額を撤回するという事務的な失態を起こしたとして、嶋田事務次官に対し厳重注意処分としたほか、世耕大臣も給与を1か月分自主返納することにしています。

産業革新投資機構の社長を含めた役員報酬については、経済産業省と機構が業績に連動して支払われる分を合わせて、年間で最大1億円を超える額を支払うことで合意していました。

しかしその後、報酬が高すぎるという指摘が出たことから、経済産業省は方針を転換し、3日、認可しないことを決め見直すように求めています。

これについて世耕経済産業大臣は、4日朝の閣議のあとの記者会見で「報酬額の案を機構の経営陣に提示し、その後、撤回するという事務的な失態を起こし、相互不信の状況を招いた」と述べ、事務方トップの嶋田事務次官に対し厳重注意処分としたことを明らかにしました。

これに関連して嶋田事務次官は給与1か月分の30%を、世耕大臣も給与を1か月分自主返納することにしています。

世耕大臣は「民間のファンドでは資金集めで苦労をしているが、官民ファンドは国の資金を前提としており、今回の報酬は高すぎる面がある」と述べたうえで、嶋田事務次官に対し、事態収拾を急ぐよう指示したことを明らかにしました。

機構 取締役会で対応検討

今回の事態を受けて産業革新投資機構は、今月中旬に改めて取締役会を開き、対応を検討するとしています。

産業革新投資機構の役員報酬をめぐっては、機構が発足する前のことし9月に経済産業省から書面で役員報酬の基準が示され、それに基づいて機構が先月下旬に取締役会で報酬額を決めていました。

しかし、経済産業省は3日、報酬額を認可せず、見直しを求めてきました。

これについて産業革新投資機構は「役員報酬は経済産業省から提示された内容や、会社法などの法律にのっとったものであると認識している」とコメントしています。

日商会頭「人材確保には報酬必要」

経済産業省が「産業革新投資機構」の社長を含めた役員報酬が高額だとして、認可しない方針を決めたことについて、日本商工会議所の三村会頭は、定例の記者会見で「官民ファンドであろうとなかろうと優秀な人間を集めるためにどうしたらいいのか。その意味で報酬は大きな要因なので、その上限が限られると、いい人を引き寄せるのは難しいと思う」と述べ、優秀な人材を確保するためにはある程度の報酬を出すことが必要だという認識を示しました。

そのうえで「経産省と機構の両方の言い分もわからないことはないが、どういう形で決着するのか慎重に見守っている」と述べました。

三村会頭は、今回問題になっている「産業革新投資機構」の子会社の社外取締役を務めています。

産業革新投資機構とは

「産業革新投資機構」は、ことし9月に発足した、2兆円規模の投資能力を持つ、国が主導する官民ファンドです。

9年前にベンチャー企業などへの投資を目的としたつくられた「産業革新機構」の機能を強化していて、AIやIoTといった最新技術への投資や、「ユニコーン」と呼ばれる有望なベンチャーの育成などを目指しています。

社長に「三菱UFJフィナンシャル・グループ」で副社長を務めた田中正明氏、取締役会議長に「コマツ」の相談役の坂根正弘氏が就任し、世耕経済産業大臣は、「経営を任せられる投資のプロに入っていただいた」と評していました。

田中社長は、設立時の会見で「ゾンビ企業の延命はせず厳しくやっていきたい」と述べ経営が悪化している企業の救済を目的とした投資は行わない考えを示していました。

機構に示した報酬水準は

経済産業省は、当初、産業革新投資機構の社長の報酬として、基本的な報酬1550万円と業績に連動して支払われる分を合わせて、年間で最大1億円を超える案を示していました。

また、同様に副社長や2人の専務についても、最大1億円を超える水準を示していました。

この案は世界的に活躍できるファンドの経営者を確保できる水準として、外部のコンサルタントなどの意見を参考にして算出したということです。

一方、国が出資する組織のトップの報酬は、日銀総裁がおよそ3500万円、公的年金の積立金を運用しているGPIF=年金積立金管理運用独立行政法人の理事長がおよそ3100万円です。

また、ほかの官民ファンドのトップは、省庁の事務次官クラスとほぼ同じ2000万円程度の報酬が支払われているということです。

報酬の提示や撤回の経緯

経済産業省は、機構の発足を間近に控えたことし9月下旬に「三菱UFJフィナンシャル・グループ」の副社長を務めた、田中正明氏に社長などの役員に対して、最大で1億円を超える報酬を支払う案を提示しました。

この案を田中氏は受け入れて、社長に就任しました。

しかし、経済産業省によりますと当初の案は、世耕経済産業大臣の了解を得ておらず、あくまで事務レベルの提案だったということです。

そこで世耕大臣や嶋田次官を交えて改めて報酬の水準を議論した結果、官民ファンドは民間のファンドのようにみずから運用資金を集める必要がないことを考慮すると、報酬としては高すぎるという結論に至りました。

このため、いったん白紙に戻し、適切な報酬の水準について経済産業省と機構が話し合いましたが、協議は物別れに終わったということです。

その後、機構は当初、示された報酬を認めるよう求めてきたため、経済産業省は、3日認可しないことを決めました。