拉致被害者家族会 キム総書記宛 初の人道支援メッセージ発表

北朝鮮に拉致された被害者の家族会が、26日、キム・ジョンウン(金正恩)総書記に宛てた新たなメッセージを発表しました。
家族の高齢化を踏まえ「親世代が存命のうちに全員の帰国が実現するなら、政府が北朝鮮に人道支援を行うことに反対しない」と明記。人道支援にまで踏み込んだメッセージは初めてで、早期解決に向けた政府の取り組みとキム総書記の決断を強く促すねらいがあります。

拉致被害者の家族会は、26日、支援組織のメンバーと都内で会議を開き、はじめに、家族会代表で横田めぐみさんの弟の拓也さんが「被害者は厳しい環境の中で数十年も自由を奪われており、このような反人権、反人道の実情を許してはなりません。日本政府は速やかに日朝首脳会談を行いすべての拉致被害者の帰国を図ってほしいし、私たちも諦めることなく声を上げ続けたい」と述べました。

会議では、家族が高齢化し時間にかぎりがある拉致問題の早期解決をどう実現させるか意見が交わされた後、キム・ジョンウン総書記に宛てたメッセージがとりまとめられました。

メッセージには、子どもとの再会を果たせずに亡くなる家族が相次いでいる現状を踏まえ、「親世代が存命のうちに全拉致被害者の帰国が実現するなら、政府が北朝鮮に人道支援を行うことに反対しません」と初めて明記しました。

そして、「さまざまな人道問題を一括して解決しようではないかと提案いたします」とした上で、「1日も早く日朝首脳会談に応じ全拉致被害者を即時一括で帰国させてください」と訴えています。

家族会は、来月で結成から26年が経過しますが、北朝鮮の最高指導者にメッセージを出すのは3度目で、「人道支援」に初めて踏み込むことで、これをカードにした政府の取り組みとキム総書記の決断を強く促すねらいがあります。

家族会 過去に2回、キム総書記に宛てにメッセージ

拉致被害者の家族会は、肉親の早期帰国につなげようと、過去2回、キム総書記に宛てたメッセージを出してきました。

最初のメッセージは、米朝首脳会談が開かれるなど北朝鮮が対話に乗り出していた4年前の2019年。

「被害者全員の早期帰国が実現するなら、帰国した被害者から秘密を聞き出し国交正常化の妨げになるようなことはしません」と強調し、被害者を帰せば秘密が暴露されるのではないかという北朝鮮側の懸念を取り除くねらいがありました。

2度目のメッセージはおととしの2021年。

前の年に家族会で中心的な役割を担ってきた▽有本恵子さんの母親、嘉代子さんと▽横田めぐみさんの父親、滋さんが相次いで亡くなったことを受けたもので、「最初のメッセージの思いは変わっていない」とした上で、「このメッセージには期限があります」と強調。

親の世代が健在なうちに被害者との再会がかなうよう、日朝首脳会談の早期実現をキム総書記に求めました。

「人道支援」言及の背景とねらい

今回、3度目となるメッセージの背景にある被害者家族の高齢化。2度目のメッセージ以降もこう着状態が続く中、田口八重子さんの兄で家族会代表を長く務めた飯塚繁雄さんが83歳で死去しました。

体調に不安を抱える家族は年々増えており、今も健在な親は、
▽今月87歳になった横田めぐみさんの母親、早紀江さんと
▽94歳の有本恵子さんの父親、明弘さんの2人となっています。

拉致・核・ミサイルの問題を抱える北朝鮮に対して、日本政府は、
▽国連安全保障理事会の決議に基づく制裁措置に加え、
▽独自制裁として、北朝鮮との輸出入を全面的に禁止する措置などを実施していますが、国際機関を通じて北朝鮮に医薬品や食料などの人道支援を行うことは「例外扱い」とされています。

家族会が今回初めて「人道支援」に踏み込んだのは、被害者家族が老いに直面し、核やミサイルの問題の解決を待つ時間的猶予がない中、厳しい食料事情が伝えられる北朝鮮の状況も踏まえ、人道支援をカードに突破口を開きたい切実な思いがあります。

家族会が記者会見「親の世代 存命のうちに解決を」

会議の後の記者会見で、家族会代表の横田拓也さんは「 有本恵子さんの父親は車いすでの移動を余儀なくされており、私の母も父が亡くなった年齢と同じになり、いつ何が起きてもおかしくありません。親の世代が存命のうちに解決しないと国交正常化も人道支援も遠のいてしまうことを、キム総書記には真剣に受け止めていただきたい」と話しました。

その上で、今回、人道支援に踏み込んだことについて、「本来であれば被害者側の私たちが人道支援に言及して北朝鮮に譲歩する話ではないが、北朝鮮を動かすために悔しい思いを飲み込んで盛り込みました。日本政府は私たちの思いをしっかりくみ取ってほしい」と訴えました。

横田めぐみさんの母親の早紀江さんは「40年以上も残酷な状態が続いており、拉致は日本にとっても北朝鮮にとっても悲しいだけの問題です。日朝首脳会談が早く開催され、『被害者を帰してお互い平和になりませんか』と日本側の思いをキム総書記に直接投げかけてほしい」と話しました。

田口八重子さんの長男で、母親が拉致された時1歳だった飯塚耕一郎さんは「家族が高齢化する中、被害者を早く帰国させたいという焦りから今回のメッセージの発表に至りました。このメッセージが一石を投じることを願っていますし、政府は真剣に取り組みを進めてほしい」と求めました。