国会論戦 反撃能力 防衛増税 少子化 賃上げ 原発めぐり

国会は、1月26日から参議院本会議で岸田総理大臣の施政方針演説に対する各党の代表質問が始まり、「反撃能力」の保有の是非や日本学術会議の組織の在り方などをめぐって論戦が交わされました。

立憲民主党の水岡参議院議員会長は、防衛力の抜本的強化をめぐり、「『反撃能力』の保有や大幅な防衛予算増額などをうたいながら『専守防衛の堅持』などと言うのは矛盾ではないか。重大な安全保障政策の転換について国会に詳しく説明せず、議論する場を設けず閣議決定し、広く公表したのはなぜか」とただしました。
これに対し、岸田総理大臣は「わが国の安全保障政策の大転換だと考えているが、あくまで憲法や国際法の範囲内で行うものだ。反撃能力は、弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力行使の3要件に基づき必要最小限度の自衛の措置として行使するものであり、専守防衛から逸脱するものではない。政府・与党の議論の進め方に問題があったとは考えてはおらず、与野党との活発な国会論戦を行っていく」と述べました。
また水岡氏は、日本学術会議の組織の在り方の見直しをめぐり、「日本学術会議法には会議の『独立性』が明記されており、政府の有識者会議や諮問会議ではない。政府などと問題意識や時間軸を常に共有する必要はなく、時には異なる目線で課題を提起する必要がある」とただしました。

これに対し、岸田総理大臣は「問題意識などの共有とは政府との結論の共有を求めるものではない。一方で政府などへの科学的助言を行うことを役割として国費が投入される機関である以上は、受け手側の問題意識や時間軸などを十分に踏まえながら審議などを行っていただく必要がある。国民から理解され信頼される存在であり続けるためには、徹底した透明化やガバナンス機能の強化が必要だ」と述べました。
一方、岸田総理大臣は少子化対策に関連して「選択的夫婦別姓制度の導入については国民の間にさまざまな意見があることからしっかりと議論し、より幅広い国民の理解を得る必要がある。同性婚についてはわが国の家族の在り方の根幹にかかわる問題であり、極めて慎重な検討を要する」と述べました。

自民党の山本元国家公安委員長は、G7広島サミットについて「ロシアの言動により核兵器をめぐる深刻な懸念が高まるなど厳しい安全保障環境という現実の中で、核兵器のない世界という理想を実現していかなければならない。G7広島サミットに向けた取り組みについて伺う」と質問しました。
これに対し、岸田総理大臣は「G7広島サミットでは広島と長崎に原爆が投下されてから77年間、核兵器が使用されていない歴史をないがしろにすることは決して許されないとのメッセージを力強く世界に発信するとともに、広島アクションプランをはじめ国際賢人会議の英知も得ながら現実的かつ実践的な取り組みを進めていく」と述べました。
また山本氏は、賃上げをめぐり「この物価上昇局面で経済を前向きに転がすには個人消費を冷え込ませないことが大切で、そのカギは賃金の上昇だ。速やかな賃金上昇、そして中長期的には成長産業ヘの労働移動による構造的な賃上げをどう進めていくか」と質問しました。
これに対し、岸田総理大臣は「目下の物価高に対する最大の処方箋は賃上げであり、春の賃上げ交渉に向け、価格転嫁対策の強化や賃上げ税制など政策を総動員して環境整備に取り組む。そのうえで構造的な賃上げの実現に向け、企業間や産業間の労働移動の円滑化などに対する支援として5年間で1兆円の政策パッケージを着実に実行していく」と応じました。
衆議院本会議の2日目の代表質問

衆議院本会議の2日目の代表質問。防衛費の増額に伴う政府の増税方針や、賃上げの実現に向けた取り組みなどをめぐって論戦が交わされました。
維新 馬場代表

日本維新の会の馬場代表は防衛力の抜本的強化をめぐり、「防衛費の増額には賛成だが、増税は避けられないという政府・与党の説明には違和感を禁じえない。なぜ増税という国民に負担を押しつける手段を最初から選択するのか。政治家がまず身を切り、万策尽きた最後の1滴にかぎり最小限の負担をお願いするのが筋ではないか」とただしました。
これに対し、岸田総理大臣は「財源確保にあたっては国民の負担をできるだけ抑えるべく、必要となる財源のおよそ4分の3は歳出改革や決算剰余金の活用、税外収入の確保などあらゆる工夫を行って賄うこととしている。それでも足りない、およそ4分の1について、税制措置でのご協力をお願いしたい」と述べました。
また馬場代表は、有事の際の国民保護をめぐり「台湾に近い先島諸島の住民およそ10万人の避難対策は最優先の課題だ。地下シェルターは国民保護の重要な手段だが、中国、北朝鮮がともに日本を射程に収める弾道ミサイルを所有しているのに、先島諸島にはいまだに1つもない。いつまでに整備する方針か」とただしました。
これに対し、岸田総理大臣は「弾道ミサイル攻撃による爆風などから直接の被害を軽減するための、緊急一時避難施設について指定の促進に取り組んでいる。南西地域の住民避難に関しては今年度末に国と沖縄県、先島諸島の5市町村などが協力して『武力攻撃予測事態』を想定した図上訓練を実施することにしており、迅速な住民避難が行われるよう実効性の向上に努めていく」と述べました。
公明 石井幹事長

公明党の石井幹事長は、再来年度に見直される奨学金制度に関連し「中間所得層までの給付型奨学金の対象拡大については、高校生の進路の判断や若者世代の人生設計のために、できるだけ早く年収目安などを発表すべきではないか」と質問しました。
これに対し、岸田総理大臣は「給付型奨学金の対象拡大については、対象となる世帯年収の目安を600万円に引き上げるべきとの提案も踏まえ、その年収目安を早急に明らかにできるよう進めていく。また奨学金の『減額返還制度』について、簡単な手続きや利息負担の取り扱い等に関して具体的な枠組みをつくっていく」と述べました。
また石井幹事長は、防衛費増額に伴う増税をめぐり「負担が大きく増えるのではないかと多くの国民が不安を感じている。所得税額に対して新たな付加税を1%課す一方、現在の復興特別所得税の税率を1%引き下げるが、復興事業の実施への影響はどうなるのか、具体的な説明を求める」と質問しました。
これに対し、岸田総理大臣は「復興特別所得税については家計の負担増にならないよう税率を引き下げるとともに、課税期間を延長する。延長の幅は復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さとしていて、復興事業に影響を及ぼすことはない。国民に理解を深めてもらえるよう引き続き丁寧な説明を行っていく」と述べました。
国民 玉木代表

国民民主党の玉木代表は、賃上げをめぐり「『構造的賃上げ』は重要だが、問われているのはことしの賃上げだ。特に、企業の9割を占める中小企業の賃上げをどのように実現するのか。また、非正規労働者や派遣社員の賃金をどう上げるつもりなのか」と質問しました。
これに対し、岸田総理大臣は「中小企業の賃上げ実現に向け、生産性向上などへの支援を一層強化するとともに、下請け取り引きの適正化や価格転嫁を促進していく。非正規雇用労働者などの賃上げについては、最低賃金の引き上げや同一労働・同一賃金の順守の徹底、希望する人の正社員化の支援などに取り組んでいく」と述べました。
共産 志位委員長

共産党の志位委員長は、原子力発電所の活用方針をめぐり「岸田総理大臣は昨年12月、原発回帰への大転換の方針を決めたが、自民党は昨年の参議院選挙で『原発の新規建設は考えていない』と公約していて、文字どおりの公約違反だ。原発事故の教訓を忘れ、被災者の苦しみを忘れた新たな安全神話の復活と言うほかない」とただしました。
これに対し、岸田総理大臣は「安全神話に陥ってしまった福島第一原発事故の反省を踏まえ、安全性の確保を最優先として取り組んでいく。既存の原発の再稼働や次世代革新炉への建て替えを進めるとともに、運転期間について最長で60年に制限するという現行制度の枠組みを維持したうえで、一定の停止期間に限って除外を認めるが、安全性に関する原子力規制委員会の厳しい審査を経て認可を受けなければ運転できない」と述べました。

このほか岸田総理大臣は、高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」の最終処分について、「できるだけ多くの自治体に最終処分事業に関心を持ってもらうための掘り起こしに取り組み、手上げを待つのではなくて、政府から調査の検討などを段階的に申し入れ、第1段階となる文献調査の受け入れ自治体に対して、政府一丸となった支援体制を構築するなど具体的なアクションを早急に取りまとめる」と述べました。
また岸田総理大臣は、所得税の「配偶者控除」や、厚生年金への加入要件などをめぐり「配偶者控除の廃止については丁寧に議論する必要がある。被用者保険のいわゆる『130万円の壁』については、これを意識せず働くことが可能となるよう、その解消に向けて短時間労働者への適用拡大を進めている。女性の就労の壁となっている制度の見直しに取り組んでいく」と述べました。
維新 馬場代表「根拠になる制度や財源を考えたほうがいい」
日本維新の会の馬場代表は記者会見で、「防衛費の増額や、子どもに対する投資の財源策は、岸田総理大臣とわが党は全く違う。子どもへの投資に関しては具体策もはっきり言わない状況で、アドバルーンをあげるのはいいが、根拠になる制度や財源をきちんと考えたほうがいい」と述べました。
公明 石井幹事長「丁寧に答弁をしていただいた」
公明党の石井幹事長は記者団に対し、「岸田総理には丁寧に答弁をしていただいた。今国会は多数の論点があるので、引き続き国民の理解が深まるよう取り組んでいきたい」と述べました。
また、少子化対策で焦点の1つとなっている児童手当について、「子どもを社会全体で支えていく趣旨からすると所得制限を撤廃するのが望ましい。野党もそれほど抵抗はないと思うので多くの政党に賛同してもらえれば、政府もしっかり検討してもらえると思う」と述べました。
国民 玉木代表「即効性ある対策が必要」
国民民主党の玉木代表は記者団に対し、「賃上げに向けて岸田総理大臣が言っていることは中期的な対策であり、ことし春の賃上げには即効性のある対策が必要だ。少子化対策の中身や財源も具体策がないとよくわかったので、児童手当の所得制限の撤廃などを与野党が協力して実現に結びつけていきたい」と述べました。
共産 志位委員長「ことごとく答えなかった」
共産党の志位委員長は記者会見で、「『敵基地攻撃能力』の保有や大軍拡、『原発回帰』は明らかな方針転換だが、岸田総理大臣はことごとく答えられなかった。新型コロナの問題も、現状についての答えがないまま医療体制の責任を放棄することは認められない。予算委員会で、さらに問題点を明らかにしていきたい」と述べました。