衆議院小選挙区「10増10減」など区割り案勧告 1票の格差は1.999倍に

衆議院の小選挙区をめぐるいわゆる1票の格差を是正するため、政府の審議会は、16日、小選挙区の「10増10減」など合わせて25都道府県、140選挙区の区割り案を岸田総理大臣に勧告しました。
見直しの対象は過去最多となりました。

1票の格差は1.999倍に

政府の「衆議院議員選挙区画定審議会」は、総理大臣官邸で会合を開き、おととしの国勢調査の結果などをもとに小選挙区の区割りを見直す案を決定し、岸田総理大臣に勧告しました。

岸田総理大臣は、「内閣としては、勧告を直ちに国会に報告するとともに、勧告に基づき、必要な法制上の措置を講じていく」と述べました。

まず、今回の見直しで、小選挙区の数が変わるのは、15の都県です。

数が増えるのは5つの都と県で、
▼東京は5つ増えて30に、
▼神奈川は2つ増えて20になるほか、
▼埼玉・千葉・愛知では1つずつ増えます。

逆に、減るのは10の県です。
宮城・福島・新潟・滋賀・和歌山・岡山・広島・山口・愛媛・長崎で、いずれも1つ減ります。

見直しにあたっては、法律で決められた、人口比により近い配分ができるとされる「アダムズ方式」という計算法が初めて使われました。

また、10の道府県では、小選挙区の数は今のままですが線引きが変更されます。

北海道・大阪・兵庫・福岡の4つの道府県は、1票の格差を2倍未満にするための変更です。

茨城・栃木・群馬・岐阜・静岡・島根の6つの県では、一つの市や区が複数の選挙区に分割されている状態を解消する変更となります。

こうした見直しによって、合わせて25の都道府県、140選挙区の区割りが変わることになり、過去最多となりました。

今回の区割り案について、おととしの国勢調査をもとに試算しますと、最も人口が多い選挙区は「福岡2区」で、最も人口が少ない「鳥取2区」と比較すると、1票の格差は1.999倍となり、見直し前の最大2.096倍から改善されるということです。

勧告を受けて、政府は、秋の臨時国会で、公職選挙法の改正案を提出し、成立を目指す方針です。

成立すれば、新たな区割りは、1か月程度の周知期間を経て導入されることになっていて、その後の衆議院選挙から適用される見通しです。

区割り案の作成方針

今回の見直しは、おととしの国勢調査のデータを基に、全国の選挙区で最も人口が少ない「鳥取2区」との格差が2倍未満となるように行われました。

一つの選挙区の中にほかの選挙区が入り込む「飛び地」をつくらないことや、市区町村は、原則、分割しないことなどを基本的な方針として、作業が進められました。
格差が是正できない場合などは例外として、分割されました。

また、「10増10減」の対象以外でも、選挙区の数は変えずに、1票の格差を是正するため線引きが見直された道府県もあります。

おととしの国勢調査をもとに見直されたのが福岡と大阪、去年の衆議院選挙の当日有権者数をもとに見直されたのが北海道と兵庫です。

さらに、複数の選挙区に分割されている市や区を可能なかぎり統合する見直しも行われました。

見直しの経緯

2020年の国勢調査に基づいて小選挙区の数を配分することは、2016年に成立した法律で決まっていました。

法律には、人口比により近い配分ができるとされる「アダムズ方式」という計算法で選挙区を割りふることが規定されていて、適用されたのは初めてです。

去年6月に2020年の国勢調査の速報値が発表されたのを受けて、政府の「衆議院議員選挙区画定審議会」が「10増10減」などの区割りの見直し作業を進めてきました。

そして、今月25日の勧告の期限を前に、審議会は、16日、岸田総理大臣に区割りの見直しを勧告しました。

選挙区1つ減少 自民議席独占の滋賀県では…

滋賀県では、小選挙区の数が今の4つから3つに、1つ減ります。

去年の衆議院選挙では自民党が4つの小選挙区で議席を独占しました。次の選挙で勧告通り1つ減れば、県内の選挙区から立候補できない人が出てきます。

▼1区選出の大岡敏孝氏は「4人とも選挙区から出たいと思っていて、調整が難しい。1区は私が地元としてきた地域で、当然ここを大事にしていかなければいけないと思っている」と述べました。

▼2区選出の上野賢一郎氏は「首都圏の議席が大幅に増え、地方の議席が減ることになるが議席を預かっている以上、小選挙区で選ばれるようにこれからも頑張っていきたい」と述べました。

▼3区選出の武村展英氏は「有権者とふれあう機会が減り、地域の声を反映しづらくなるのではないかと危惧している。私自身は小選挙区からこれからも出たいと思っている」と述べました。

▼4区選出の小寺裕雄氏は「地方にとっては、単純に人口比例だけで決められるのは正直しんどい。私自身は、急に何かを変えるということはなく、これまでと同じように仕事を真面目にやっていく」と述べました。

今後の日程は

政府は、小選挙区の「10増10減」など勧告の内容を反映させた公職選挙法の改正案を秋の臨時国会に提出する方針です。

改正案には、比例代表の定数についても、
▼東京ブロックで2、南関東ブロックで1増やし、
▼東北・北陸信越・中国の3つのブロックで1ずつ減らすことが盛り込まれる見通しです。

成立すれば、新たな区割りや定数は1か月程度の周知期間を経て導入されることになっていて、その後の衆議院選挙から適用される見通しです。

1票の格差めぐる司法判断

区割りの見直しの背景には、1票の格差が2倍以上の状態が続いていた平成21年から平成26年にかけて行われた3回の選挙について、最高裁判所がいずれも「違憲状態」と判断したことがあります。

1票の格差をめぐる裁判で、格差が2.3倍だった平成21年の選挙について最高裁判所は「違憲状態」と判断し、すべての都道府県にまず1議席を割り当てる「1人別枠方式」が格差の要因だと指摘して是正を求めました。

これを受けて国会は、「1人別枠方式」の規定を削除し平成24年に小選挙区を5つ減らすいわゆる「0増5減」の法改正を行いましたが、この年の選挙には間に合わず2.43倍の格差となり、「違憲状態」と判断されました。

「0増5減」が反映された平成26年の選挙では、格差は2.13倍まで縮小しましたが、これについても最高裁は「違憲状態」と判断。

たび重なる司法の判断を受けて、国会は平成28年、より人口に比例した議席配分となる「アダムズ方式」という新たな方法を4年後の国勢調査に基づいて導入することを決めました。

そして、おととし行われた国勢調査の結果を受けて、「10増10減」が確定したのです。

一方、それまでの暫定措置として「0増6減」で区割りが見直された平成29年の選挙では、小選挙区制が導入されてから初めて格差が2倍未満に縮小し、最高裁は「合憲」と判断しています。

しかし、去年の選挙は前回と同じ区割りのまま行われた結果、格差は再び2倍を上回り、これについて争われている16件の訴訟で、全国各地の高等裁判所や高裁支部の判決は「合憲」が9件、「違憲状態」が7件と、判断が分かれました。

最高裁判所は15日、この裁判の審理を15人の裁判官全員による大法廷で行うことを決め、判決は早ければ年内にも言い渡されます。