政府「骨太の方針」決定 防衛力「5年以内」に抜本的強化明記

政府はことしの「骨太の方針」を決定しました。焦点の1つとなっていた防衛費の扱いについて、NATOの加盟国がGDPの2%以上を目標としていることを例示し、防衛力を「5年以内」に抜本的に強化することを明記しました。

政府は6月7日、持ち回りの臨時閣議で、岸田内閣では初めてとなる、ことしの経済財政運営と改革の基本方針「骨太の方針」を決定しました。

焦点の1つとなっていた防衛費の扱いについては、NATO=北大西洋条約機構の加盟国がGDP=国内総生産の2%以上を目標としていることを例示し、防衛力を「5年以内」に抜本的に強化するとしています。

そして台湾をめぐっては「日米首脳会談で両首脳は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促した」と本文の注釈に記されました。

骨太の方針に台湾に関する記述が盛り込まれるのは、初めてだということです。

また、新型コロナへの対応策では、◇感染が拡大した時に病床を増やすなどして確実に入院できる体制を整備し◇都道府県が臨時に設ける医療施設に、公立病院が医療人材を派遣するなど医療提供体制の充実を図るとしています。

さらに、◇出産育児一時金の増額をはじめ妊娠・出産に伴う経済的負担の軽減に向けた議論を進め、◇子どもを性犯罪から守るため性犯罪歴のある人が保育や教育の仕事に就くのを制限する「日本版DBS」の導入に取り組むとしています。

そして、財政健全化目標については「財政健全化の『旗』を下ろさずこれまでの財政健全化目標に取り組む」として、時期は明示しなかったものの、2025年度に基礎的財政収支を黒字化するという、これまでの目標を維持する方針を示しています。

一方で「経済あっての財政だ」としたうえで「状況に応じ必要な検証を行っていく」と明記し、自民党内の積極財政派のグループに配慮して、経済状況によっては目標の見直しにも含みを持たせた形となりました。

焦点の防衛費 岸田首相「将来にわたり国守り抜く防衛力構築」

防衛費をめぐって、岸田総理大臣は、経済財政諮問会議と「新しい資本主義実現会議」の合同会議で「将来にわたり、わが国を守り抜く防衛力を構築すべく、さまざまな取り組みを積み上げていき、そのうえで必要となるものの裏付けとなる予算をしっかりと確保していく。内容、金額、財源の3点セットで議論を行い、具体的な計画は、ことし末に策定する新たな国家安全保障戦略などとして、改めて内閣として閣議決定する」と述べました。

記者はどう見る 政治部 関口裕也記者が解説

焦点のひとつとなっていた防衛費の扱い、政府・自民党内でどんな議論があったのか?政治部関口記者は以下のように解説します。

「骨太の方針」の原案には「5年以内」という文言は入っていませんでした。原案になかったものが加えられた箇所は財政に関する部分も含めいくつかあります。これは政府が党の意向を踏まえて修正を重ねた結果です。

この背景には、安倍元総理大臣らの存在があります。安倍氏は、先週、防衛費のあり方をめぐって党の提言の内容を書き込むよう求めたほか、党内議論でも安倍氏に近い積極財政派の議員が声をあげる場面が目立ちました。総理大臣経験者が政府の原案に注文をつけるのは異例とも言えます。安倍・菅政権当時は「政高党低」とも言われた政府と自民党の関係が、岸田政権になって変化していると見る向きもあります。

野党側からは、いまの物価高は異次元の金融緩和によるものだとして、財政金融政策の見直しを求める声が出ていますので、夏の参議院選挙でも争点の1つになるものとみられます。

ことしの「骨太の方針」に盛り込まれた主な内容

【防衛】

焦点の1つとなっていた防衛費については、NATO=北大西洋条約機構の加盟国がGDP=国内総生産の2%以上を目標としていることを例示したうえで、防衛力を5年以内に抜本的に強化するとしています。

こうした内容は、年末までの国家安全保障戦略などの改定に向けて、自民党がまとめた提言に盛り込まれていて、安倍元総理大臣など党内から「骨太の方針」にも明記すべきだという指摘が相次いでいました。

具体的には、敵の射程圏外から攻撃できる長射程の巡航ミサイルなどの防衛能力を強化するとともに、AI=人工知能や無人機など先端技術の研究開発を進めるとしています。

また、防衛装備品の輸出や移転に関する制度の見直しを含め、より踏み込んだ取り組みを検討するほか、弾薬の確保や装備品の維持整備、自衛隊員の宿舎の老朽化対策にも重点的に取り組むとしています。

そのうえで来年度=令和5年度予算の防衛費は、年末までに改定する国家安全保障戦略などの議論を経て、必要な措置を講ずるとしています。

このほか、台湾をめぐっては「日米首脳会談で両首脳は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促した」と本文の注釈に記されました。骨太の方針に台湾に関する記述が盛り込まれるのは、初めてだということです。

【財政目標】

財政健全化目標については「財政健全化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む」として、時期は明示しなかったものの、2025年度に基礎的財政収支を黒字化するという、従来の目標を維持する方針を示しました。

一方で、「経済あっての財政だ」としたうえで、「状況に応じ必要な検証を行っていく」と明記し、自民党内の積極財政派のグループに配慮して、経済状況によっては目標を見直すことにも含みを持たせた形です。

さらに、来年度の予算編成について、歳出改革の内容を盛り込んだ去年の骨太方針に基づいて「経済・財政一体改革を着実に推進する」とする一方、「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」という表現も盛り込みました。

【新資本主義】
岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けて、「人への投資」を重点分野に掲げました。

具体的には、給付型の奨学金や授業料の減免といった制度について、対象を、中間所得層のうち子どもの多い世帯の学生や理系の学生にも拡大します。

最低賃金について、できるかぎり早期に全国平均で時給1000円以上を目指し、引き上げに取り組むとしています。

【新型コロナ】

新型コロナへの対応策としては、感染拡大時に病床を増やすなどして必要な人が確実に入院できる体制を整備するほか、都道府県が臨時に設置する医療施設に、公立病院が医療人材を派遣するなど医療提供体制の充実を図ります。

そのうえで、次の感染症危機に備えて、迅速・的確に対応するため司令塔機能の強化など必要な対応を今月をめどにまとめるとしています。

【社会保障】
社会保障の分野では、マイナンバーカードの健康保険証としての利用を推進するほか、電子カルテの普及など医療分野のデジタル化を進めるため、総理大臣を本部長とする推進本部を設置するとしています。

また、国民すべてが生涯を通じて歯科健診を受けられるよう、具体的な検討を進めることも盛り込まれました。

【少子化・子ども政策】

少子化対策として、出産育児一時金の増額をはじめ妊娠・出産に伴う経済的負担の軽減に向けた議論を進めます。また、子どもを性犯罪から守るため性犯罪歴のある人が保育や教育の仕事に就くのを制限する「日本版DBS」の導入に取り組むとしています。

【経済安保】
新たに国家安全保障戦略などを策定するにあたって、経済安全保障を重要な課題と位置づけたうえで、情勢の変化に機動的に対応するため、内閣府に「経済安全保障推進室」を速やかに設けて、関係する省庁の調整を行います。

【エネルギー】
脱炭素の取り組みを加速させるため、徹底した省エネを進めるとともに、再生可能エネルギーや原子力などを最大限活用するとしています。
さらに「安全最優先の原発再稼動」を掲げ、実効性のある原子力規制や避難経路の確保など原子力防災体制の構築を進めるとしています。

また、化石燃料については、ウクライナ情勢を受けてロシアへの依存度を低下させるため、ロシア以外の調達先の多角化など国の関与を強めて、供給体制を強化する方針です。

自民 茂木幹事長「外交・安全保障体制の強化」を評価

自民党の茂木幹事長は、記者会見で「ウクライナ情勢が緊迫化し、安全保障環境が厳しさを増す中、外交・安全保障体制の強化は喫緊の課題であり、『骨太の方針』にしっかりと盛り込まれた。また、未来をつくる中核になるのが『新しい資本主義』であり、今回まとまった全体構想と実行計画を中心として、日本経済をもう一段高いレベルに持っていくことが極めて重要になる」と述べました。

自民 福田総務会長「党の政治力が発揮された」

自民党の福田総務会長は、記者会見で「自民党の強さや良さが出た。政治は結論を出して、実行に移さなければいけないことがわかっているからこそ、意見や物の見方に違いがあっても最後は1つに結論をまとめることができる自民党の政治力が発揮された」と述べました。
そのうえで、防衛費の増額をめぐっては「現状の防衛費が十分とは思っていない。国民の理解も非常に進んでいて今、増やすことは友好な近隣諸国に、安心感をつくるものであり、心配を与えるものではない」と述べました。

自民 高市政務調査会長「エネルギーや食料安全保障へ強い意識」

自民党の高市政務調査会長は、与党政策責任者会議のあと「ロシアによるウクライナ侵略によってエネルギーや食料の安全保障に対する強い意識も出てきており、こうした事柄も盛り込んだ、しっかりとした『骨太の方針』に仕上がった」と述べました。
また「基礎的財政収支」の黒字化目標の位置づけについて認識を問われ「財政健全化に向けた努力は前提だが、成長がなければ健全化ができない。2025年度の目標を明記したものではない」と指摘しました。

公明 山口代表 防衛費の増額「予算編成過程で検討進める」

また、防衛費の増額をめぐっては「安全保障環境の変化もしっかり捉えていく必要がある一方、負担を伴うものについては国民の理解を得ていかなければならない。今後、予算編成過程で検討を進めていく」と述べました。