憲法改正“必要”35% “必要ない”19% NHK世論調査

ことしの5月3日で日本国憲法の施行から75年。NHKでは憲法改正の必要性や、ウクライナへの侵攻や長引くコロナ禍の影響と憲法への意識について、世論調査を行いました。

NHKは4月15日から3日間、全国の18歳以上を対象にコンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかける「RDD」という方法で世論調査を行いました。
対象となったのは2978人で50.6%にあたる1508人から回答を得ました。

憲法改正の議論への関心

憲法改正の議論に『関心がある』か聞いたところ、「非常に関心がある」は16%、「ある程度関心がある」は49%、「あまり関心がない」は27%、「まったく関心がない」は7%でした。

比較が可能な2018年以降の結果をみると、『関心がある』は減る傾向にありましたが、今回は増加に転じました。

憲法改正の是非

いまの憲法を改正する必要があると思うかどうか聞いたところ、「改正する必要があると思う」が35%、「改正する必要はないと思う」が19%、「どちらともいえない」が42%でした。
去年の同じ時期に行った調査とほぼ同じ結果となりました。
男女別にみると、「必要がある」は、男性が45%で、女性が25%でした。
また「どちらともいえない」は女性が51%と半数を占め、男性は34%でした。
「必要はない」は、男性が19%、女性が18%でした。

憲法改正「必要」の理由

憲法を「改正する必要があると思う」と答えた人に理由を聞いたところ、「日本を取りまく安全保障環境の変化に対応するため必要だから」が57%と最も多く、「国の自衛権や自衛隊の存在を明確にすべきだから」が23%、「プライバシーの権利や環境権など、新たな権利を盛り込むべきだから」が9%、「アメリカに押しつけられた憲法だから」が6%でした。

憲法改正「不必要」の理由

憲法を「改正する必要はないと思う」と答えた人に理由を聞いたところ、「戦争の放棄を定めた憲法9条を守りたいから」が61%と最も多く、「すでに国民の中に定着しているから」が16%、「基本的人権が守られているから」が15%、「アジア各国などとの国際関係を損なうから」が3%でした。

憲法9条改正の是非

憲法9条について改正する必要があると思うかどうか聞いたところ、「改正する必要があると思う」が31%、「改正する必要はないと思う」が30%、「どちらともいえない」も34%でした。
去年の同じ時期に行った調査では「必要はない」が「必要がある」をやや上回っていましたが、今回は、「必要がある」が増えて「必要はない」と同程度となりました。
男女別にみると「必要がある」は、男性が42%、女性が20%で、「どちらともいえない」は、女性が43%で、男性が25%でした。
「必要はない」は男女ともに30%となりました。

9条改正「必要」の理由

憲法9条を「改正する必要があると思う」と答えた人に理由を聞いたところ、「自衛力を持てることを憲法にはっきりと書くべきだから」が64%と最も多く、「国連を中心とする軍事活動にも参加できるようにすべきだから」が20%、「自衛隊も含めた軍事力を放棄することを明確にすべきだから」が8%、「海外で武力行使ができるようにすべきだから」が4%でした。

9条改正「不必要」の理由

憲法9条を「改正する必要はないと思う」と答えた人に理由を聞いたところ、「平和憲法としての最も大事な条文だから」が70%と最も多く、「改正しなくても、憲法解釈の変更で対応できるから」が15%、「海外での武力行使の歯止めがなくなるから」が9%、「アジア各国などとの国際関係を損なうから」が4%でした。

憲法9条の評価

戦争を放棄し、戦力を持たないことを定めている憲法9条について、どう評価するか聞いたところ、「非常に評価する」が23%、「ある程度評価する」が47%、「あまり評価しない」が19%、「まったく評価しない」が7%となりました。
男女別にみると、『評価する』と答えた人は、女性が76%で、男性は63%でした。
「評価しない」と答えた人は、男性が33%で、女性が17%でした。

ウクライナ侵攻で憲法意識するようになったか

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、憲法に関して意識するようになったことはあるか聞いたところ、「意識するようになった」と答えた人は、「戦争の放棄と戦力を持たないこと」が71%、「基本的人権の保障」が69%、「言論や表現の自由、知る権利」が71%でした。
憲法9条で定めた「戦争の放棄と戦力を持たないこと」を「意識するようになった」と答えた人のうち、憲法9条を「改正する必要があると思う」と答えた人は34%、憲法9条を「改正する必要はない」と答えた人は30%、「どちらとも言えない」と答えた人は33%でした。

コロナ禍で自由や権利が損なわれることがあったと思うか

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、憲法で保障されている国民の自由や権利が損なわれることがあったと思うかどうか聞いたところ、「思う」(14%)と「どちらかといえば、思う」(29%)をあわせた『思う』は42%でした。
一方、「どちらかといえば、思わない」(26%)と「思わない」(25%)をあわせた『思わない』は50%でした。
去年の同じ時期の調査と比べると、『思う』は38%から42%に増え、『思わない』は55%から50%に減りました。

自由や権利が“損なわれることがあった”理由

憲法で保障されている国民の自由や権利が損なわれることがあったと『思う』と答えた人に理由を聞いたところ、「移動や営業の自由が制限されたから」が28%、「最低限の生活を維持できない人がいたから」が26%、「必要な医療を受けられない人がいたから」が22%、「感染者などへの差別や偏見があったから」は20%でした。

※調査結果は四捨五入しているため合計が100%にならないことがあります。
※複数の選択肢を合計する場合は、実数を足して%を再計算しているため%の合計値とは一致しないことがあります。

“憲法改正に向けた議論を” 関西学院大学 井上武史教授

憲法学が専門で、憲法改正に向けた議論を進めるべきだという立場の関西学院大学の井上武史 教授は「ウクライナへの軍事侵攻でもう少し顕著に9条を改正したほうがいいという人が増えると思ったが、いっときの事態に流されず冷静に考えていこうという姿勢の表れだと思う」と話しています。

そのうえで「実際の大国による侵略を目にしたことや、中国の脅威などもある中で、75年前の前提とは変わり、9条をそのままの形で保つのは無理な面もあるのではと、ある程度の国民が気づいているとも言える。9条の改憲について賛否が均衡しているのは悪くない状態で、両者で対話をして、いい方向を探っていくべきだ」と指摘しています。

そして、施行から75年となった憲法への向き合い方について「制定から75年間、1回も改正していない憲法は、知るかぎり世界でほかになく、時代にあわせて価値観や考え方も変わっている。困難な憲法改正より、法律改正や憲法解釈を変えることで対処できるなら、そちらを選ぼうという考え方は政治家にも多いと思うが、それは本当はよくない。自分たちの憲法を常にチェックして見直し、どんな事態が来てもうまく対処できるように、平時から改憲の議論をしておく必要がある」と話しています。

“今は憲法を変えるべきではない” 東京大学 石川健治教授

憲法学が専門で、今は憲法を変えるべきではないという立場の東京大学の石川健治 教授は「ウクライナ侵攻による現実的な恐怖から、一挙に9条改正へという流れができてしまうのではないかと思っていたが、データを見るかぎり、非常に皆さん冷静だという印象を受ける」と話しています。

そのうえで「憲法9条は、安全保障の目的のための手段として用意された条文ではなく、軍事力の統制という課題に対応するために用意され、究極的には国民の自由を確保するためにある。国防目的の国家にはしないという文明的な選択が、日本国憲法であり、とりわけ憲法9条なので、それを大事に、その前提で議論する必要がある」と指摘しています。

そして、施行から75年となった憲法への向き合い方について「憲法に関する議論は、目先の問題に振り回されず長いスパンで考えていくことが非常に大事だ。コロナ対策やウクライナ侵攻に対する手段をいかにスピード感を持って実現すべきかという考え方の延長線上に、専制主義的な統治のほうが効率的でいいのではないかという見通しが出てきてしまっている。75年という節目に、自由を確保するために立憲主義的な体制を維持するという選択をするかしないかが、実は問われていると思う」と話しています。