国交省 統計データ二重計上
岸田首相が第三者委設置を指示

国土交通省が建設業の受注動向などを示す統計のデータを二重に計上するなど、不適切な取り扱いを続けていたことが分かりました。国土交通省は、都道府県の統計の担当者に調査票を書き換えるよう指示していたことや、2013年度に統計の手法を見直したことが、二重計上につながったことを明らかにしました。

国土交通省によりますとデータを不適切に取り扱っていたのは、建設業の毎月の受注動向などを示す「建設工事受注動態統計」です。

データは「調査票」の形で都道府県を通じて事業者から集めていますが、期限までに提出がなかった事業者についても、受注実績をゼロとはせず推計の受注額を計上しています。

しかし、事業者から期限に遅れて調査票が提出された際、都道府県の統計の担当者に翌月以降に合算して最新の1か月だけで受注したように調査票を書き換えることを指示していたということです。

その結果、推計値と過去の実績のデータの二重計上が発生したということです。

二重計上された事業者の数は、全体の1割程度とみられるということです。

また、国土交通省は、2013年度にデータの処理方法を見直したことが二重計上につながったことを明らかにしました。

2000年度にこの統計が始まった際には、期限までに提出がなかった事業者のデータはゼロとして処理していましたが、より実態に近づけるため2013年度以降は、推計値を入力する方法に改めたということです。

しかし、遅れたデータを翌月以降に合算する都道府県への指示も継続していたことから、二重計上につながったと説明しています。

会計検査院から、おととし秋ごろの時点で、調査票の取り扱いが不適切だという指摘があり、ことし4月以降、新たな処理方法にもとづく結果の公表を始めたということです。

国土交通省は、詳しい経緯をさらに調べることにしています。

国交省の担当者「法令違反という認識ない」

国土交通省の担当者は15日夕方、記者団に経緯を説明し、この中で「われわれとしては法令違反という認識はないが、統計法を所管する官庁がどう判断するかはわからない」と述べました。

北海道 少なくとも3年8か月にわたり書き換え

北海道は、国土交通省からの指示で、少なくとも3年8か月にわたって建設業者から受け取った受注額を書き換えていたことを明らかにしました。

国土交通省が建設業の受注動向を示す統計のデータを二重に計上するなど不適切な取り扱いを続けていていたことが明らかになり、北海道は、15日の記者会見でこれまでの対応を説明しました。

それによりますと、道内の建設業者、およそ500社から、受注額が書かれた複数の月の「調査票」が、まとめて提出された場合、直近の1か月の受注額に合算する形に書き換えていたということです。

国土交通省の指示に基づいて、鉛筆で書き込まれた「調査票」の内容を消しゴムで消したうえで書き換えていたということで、書き換えは、少なくとも資料が残っている平成28年4月以降、3年8か月にわたって行われていたことを確認したということです。

国土交通省から「集計方法を変更する」という連絡があったおととし12月の調査以降は書き換えは行われてないということです。

ただ、実際にどれだけの件数を書き換えたのかは分からないとしています。

北海道建設部の斎藤知郷建設業担当局長は「過去の担当者にも確認したが書き換えや改ざんという認識はなく、国の指示に従って作業を行っていたので疑問をもたなかった。国でデータをどのように処理していたのか、事実関係を確認したい」と述べました。

愛知県 おととし12月まで書き換え

愛知県の大村知事は会見で国土交通省から県に対して、事業者が複数の月の調査票を提出した場合、提出された月に受注実績をまとめて計上するよう書き換えの指示があったことを明らかにしました。

県では、指示に従っておととし12月まで調査票を書き換えていて、どれぐらいの件数が書き換えられたかは分かっていませんが、県が、過去6年の担当者に聞き取りを行ったところ、一部の担当者は、「疑義は感じていたが、やらなければならないと思ってやった」と回答したということです。

大村知事は会見で「国の意図はわからないが大いに反省してもらい2度とこんなことがないようにしてほしい」と述べました。

福岡県 「国の指示どおり対応していただけ」

福岡県も国からの指示で一部書き換えを行っていたことを明らかにしました。

福岡県によりますと、建設業の毎月の受注動向などを示す「建設工事受注動態統計」で、県内ではおよそ400社に対し調査票を送付して回答を回収し国土交通省に提出する業務を行っていました。

このうち、一部の業者については回答がない月もあり、数か月後にまとめて調査票が送られてくるケースもあったということです。

こうした場合に、県は国土交通省からの指示で、回答が遅れた月の受注実績を直近の1か月で受注したようにまとめて提出していたということです。

この際、回答が遅れた月の調査票については空白にして実績が無いことにして提出していたということです。

県は、いつから書き換えていたかや、その件数については把握していないとしたうえで、ことし4月以降は行っていないとしています。

県は「国の指示どおり対応していただけで、国が推計の受注額を計上していたことは全く知らず、二重計上になっているという認識はなかった」としています。

「建設工事受注動態統計」とは

不適切な取り扱いが明らかになった「建設工事受注動態統計」は、全国の建設業者が公共の機関や民間から受注した工事の金額などを示すもので、国土交通省が毎月、公表しています。

およそ1万2000の建設業者を対象に、売り上げなどのデータの提出を受けてまとめられます。

国交省がメールや口頭で具体的指示

国土交通省によりますと、データの書き換えについては、毎年春ごろに東京で開かれる会議の場で都道府県の統計担当者に対し資料を配っていたほか、メールや口頭で具体的な指示をしていたということです。

書き換えを指示したのは、都道府県が毎月、国に提出する「建設工事受注動態統計」の調査票のうち、建設業者が受注した金額を記す実績の欄です。

業者からの報告が遅れることも少なくないため、例えば前月と前々月も含めた3か月分の実績が一度に報告される場合、最新の1か月だけで受注したようにまとめるよう指示していたということです。

都道府県の統計担当者に配布された資料では、遅れて報告があった数字は修正テープなどですべて消すことや、調査票の受注額を足し上げることなどを指示していました。

こうした対応について国土交通省の担当者は「建設業者から遅れて報告されることも多く、まとめれば問題ないという認識が長年の慣習の中であったのだと思う。『なぜ報告された数字を消す必要があるのか』と疑問に思ったことはあるが、言い出すことはできなかった」と釈明しています。

そのうえで「以前の担当者たちがどのような経緯で始めたのかは確認できていないが、報告の遅れによって調査票の回収率が6割にとどまるなどする中で、実態に合わせようとしたことが背景にあるのではないか」と説明しています。

斉藤国土交通相 衆院予算委で事実関係認め陳謝

斉藤国土交通大臣は、衆議院予算委員会で「過去に集計の過程で、事業者から期限をすぎて提出された過去分の調査票の情報を、当月分に含めて集計していたことは事実だ。大変遺憾であり、おわびを申し上げる」と述べ、陳謝しました。

また岸田総理大臣は「大変遺憾であり、再発防止に努めなければならないのは当然のことだ。きょうまでの経緯を確認し、再発防止のためにどういった形でやるべきなのか至急検討し対応したい」と述べました。

一方「建設工事受注動態統計」が、GDP=国内総生産の計算にも使われていることに関連し、岸田総理大臣は「令和2年1月からこの数字の改善を行っているので、令和2年度と3年度のGDPの統計には直接影響がないものと考えており、補正予算案も修正などの必要はない」と述べました。

松野官房長官「説明責任果たし再発防止徹底を指示」

松野官房長官は、午前の記者会見で「政府の統計の信頼性は極めて重要なことで、このような指摘を受けたことは大変遺憾だ。本件は国土交通省で、これまでの経緯を至急整理し、きちんと説明責任を果たすとともに、再発防止を徹底するよう、私からも指示した」と述べました。

また、GDP=国内総生産など過去の統計への影響について問われたのに対し「統計法を所管する総務省をはじめ、関係省庁が連携して、他の統計への影響をしっかりと確認するよう、指示した」と述べました。

会計検査院は9月に「実態反映していない」と指摘

問題の調査について、国土交通省は会計検査院から実態を反映していないと指摘を受けていました。

9月に公表された会計検査院の報告書によりますと「建設工事受注動態統計」は全国のおよそ1万2000社を対象に毎月調査が行われていますが、11の都道府県を検査したところ、業者から提出されたその月の受注実績を、過去の実績も含めて書き換えて報告するよう都道府県に指示していたことがわかったということです。

おととし5月から去年3月までの間、延べ8万5093業者の調査結果のうち、全体の1割余りについては、過去の調査結果がその月の統計に含まれていたとしています。

こうした調査方法について、会計検査院は「実態を示すことができないことから、作成された調査結果は精度が低いものになっていると思われる」としています。

会計検査院によりますと、国土交通省は建設行政などに必要な基礎資料を得ることを目的に、平成27年度から令和元年度まで合わせて4億5000万円余りを使って統計調査を行ったということで、この中に「建設工事受注動態統計」も含まれています。

総務省 “会計検査院から指摘 8月に国土交通省から報告”

国土交通省が、建設業の受注動向などを示す統計のデータを二重に計上するなど、不適切な取り扱いを続けていたことに関連し、統計を所管する総務省は、ことし8月に会計検査院から指摘があったと国土交通省から報告を受けていたことを明らかにしました。

統計を所管する総務省の吉開政策統括官は、衆議院総務委員会で、ことし8月20日に国土交通省から報告を受けたと明らかにしたうえで「過去の月の分の受注実績を提出された月の受注実績に足し上げるという運用が、統計の精度を低くするという指摘を会計検査院から受けたという内容だった」と説明しました。

一方「その時は不正があったという話ではなく、二重計上があったかなどについては、これから話を聞いて適切に対応していきたい」と述べました。

また金子総務大臣は「まずは国土交通省で状況を精査することが第一で、事実関係をしっかり整理したうえで、公的統計の信頼回復に向けて適切に努力をしていきたい」と述べました。

総務省の統計データには問題見つからず

国土交通省が、建設業の受注動向などを示す統計のデータを二重に計上していた問題を受け、総務省は、省で実施している、家計調査や労働力調査など18の統計について緊急に点検を行いました。

その結果、二重計上などの問題は見つからなかったということです。

3年前の「基幹統計」一斉点検では不正明らかにならず

国の統計調査をめぐっては、3年前の平成30年、賃金や労働時間について全国の事業所を対象に調査する「毎月勤労統計」で、厚生労働省による不適切な手法が発覚しました。

調査結果がゆがみ、算出される雇用保険や労災保険が本来の額より少なく支給され、推計で延べおよそ2000万人に影響が出ました。

これを受け政府は、特に重要な統計と位置づける56の「基幹統計」について一斉点検を行った結果、7つの省庁の22の統計で延べ31の手続き上のミスなどが見つかりました。

このうち、国土交通省に関しては「建設工事統計」や「建設着工統計」などで、公表した値が実態より大きかったりデータの抽出方法が本来の手順と違っていたりしたことがわかりました。

ただこのときの一斉点検では、今回問題となった「建設工事受注動態統計」についての不正は明らかになっていませんでした。

野党側は来年の通常国会での予算審議前に集中審議求める

衆議院予算委員会のあとに開かれた理事会で、野党側は、国土交通省が統計データの不適切な取り扱いを続けていたことについて、来年の通常国会で予算審議が始まる前に、実態や経緯を明らかにし、集中審議を行うよう求めました。

これに対し、与党側は持ち帰って検討する考えを伝え、引き続き与野党で協議することになりました。

立民 小川政調会長「悪意や故意の可能性」

立憲民主党の小川政務調査会長は、記者団に対し「おととし、厚生労働省の統計不正問題を最前線で取り上げた観点から言うと、今回の問題は、単なる過失をこえて、悪意や故意によるものだった可能性がある。われわれには厳しく検証する責任があり、あすの参議院予算委員会や党の部会でただしていきたい」と述べました。

国民 玉木代表「厳しく追及していきたい」

国民民主党の玉木代表は、党の両院議員総会で「この統計はGDPのもとにもなる基幹統計であり、この統計が間違っていればそこから生み出される政策もすべて間違ってしまうので、あってはならないことだ。この点については厳しく追及をしていきたい」と述べました。