「ワクチン・検査パッケージ」
接種で日常生活どうなる?

新型コロナウイルスのワクチン接種がさらに進んだ段階で、日常生活での制限がどう変わりえるか、政府の分科会が提言を取りまとめました。
接種率が若い世代などで十分上がらない場合には、緊急事態宣言が必要になることもあるとしていて、その中で接種歴や検査の結果をもとに他の人に感染させるリスクが低いことを示す仕組みを導入して、日常生活での制約を減らしていくことが重要だとしています。

接種進めば“宣言出す必要なくなる可能性”

提言では、今後、ワクチン接種が進んで
▽60代以上で90%、
▽40代から50代で80%、
▽20代から30代で75%が接種した場合には、
マスクの着用や3密を避けるなどの対策で、緊急事態宣言を出す必要がなくなる可能性があるとしました。

最もありえる接種率では“医療ひっ迫状況によっては宣言必要”

その一方で、今後、最もありえる接種率は
▽60代以上で85%、
▽40代から50代で70%、
▽20代から30代で60%だとしていて、
その場合、接種していない人を中心に、接触機会を感染拡大前の半分程度に下げるために、マスクの着用や会食の人数制限など一定の制限が必要で、医療のひっ迫状況によっては緊急事態宣言が必要になると指摘しています。

「ワクチン・検査パッケージ」

そして、ほとんどの希望者にワクチンが行き渡ると考えられることし11月ごろには、日常生活の制約を減らすために、ワクチン接種を終えた人やPCRなどの検査で陰性が確認された人など、他の人に感染させるリスクが低いことを示す「ワクチン・検査パッケージ」という仕組みを導入することが重要だとしています。

この仕組みを導入することで、たとえば
▽医療機関や高齢者施設での入院患者や入所者との面会、
▽県境を越える出張や旅行、
▽大学での対面授業、
▽部活動などでは行動の制限が緩和できると考えられるとしています。

一方で、
▽同窓会など久しぶりに会う人たちとの大人数での会食や宴会、
▽冠婚葬祭や入学式、卒業式の後の宴会、
▽百貨店などの大規模な商業施設やカラオケなどの従業員、
▽飲食店などについてはこの仕組みをどう適用するか、検討が必要だとしています。

また、
▽修学旅行や入学試験、
▽選挙や投票、
▽小中学校での対面授業などは、
参加する機会を平等に確保する必要があるため、適用すべきではないとしています。

提言では、検査で陰性だったことやワクチン接種を終えたことは、自分が感染しないことや他の人に感染させないことの完全な保証にはならないとしていて、「ワクチン・検査パッケージ」が導入されたあとでも、感染が拡大して医療がひっ迫し再び緊急事態宣言が出された場合には、行動が制限されることもあり得るとしています。

また、この仕組みの導入で、ワクチンを接種していない人たちが一定の制約を受ける不利益を社会的にどこまで受け入れられるのか、海外の例なども踏まえて議論する必要があるとしたほか、国内では社会の分断につながる懸念があるため、「ワクチン・パスポート」ということばは使うべきではないとしています。

提言では、「ワクチン・検査パッケージ」をルールとするかどうかや、どのような場面で活用するかなどについて国民的な議論が必要だとした一方、今の感染状況で対策の緩みにつながらないことが重要だと訴えています。

西村経済再生相「現下宣言のもとで緩和行わない」

西村経済再生担当大臣は、政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会」で「陽性者数の増加に伴って、全国の重症者数も過去最多となっており、今後も厳しい状況になることも考えられる。今やるべきは、医療提供体制の確保に全力を挙げることで、そのためにも、感染者数も抑えていかなければならない」と述べました。

そのうえで、今月12日が期限となる緊急事態宣言の扱いについて「この分科会で、解除を判断するための考え方について、来週にも議論していただければと考えている」と述べました。

また、ワクチン接種が進んだあとの制限の緩和の在り方をめぐり「現下の宣言のもとで緩和を行うのではなく、今後、宣言が解除されたあと、ワクチン接種が進んだ段階での提案と受け止めている。議論を踏まえ、今後、行動制限をどのように考えていくか、政府としても早期に示すことができるよう検討を進めたい」と述べました。

尾身会長「ワクチン接種でなんでも自由にということではない」

政府の分科会の尾身茂会長は会合のあと報道陣の取材に応じ、3日の議論について「ワクチン接種がだんだんと進んできて多くの希望者がワクチンが打てる状況になった時、人々の生活がどういう風になるのか、ワクチン接種が進む中で日常生活はどのように変わり得るかというテーマについて議論した。議論の前にきょうの話は緊急事態宣言の解除や延長の判断とは全く関係ないということを西村大臣にも確認した」と述べました。

そのうえで「このテーマについては非常に国民の間で関心が高く、きょうの分科会で議論が固まったわけではない。国民的な議論が必要で市民や事業者が参加できる議論の場を作ってもらうことを国にも要請した。また、専門家の一致した意見としてワクチン接種が進んでもそれだけですべての制限を緩めることは難しいことを確認した。ワクチンを打ったからといってなんでも自由にできるということはあり得ず、感染拡大の予兆の探知や健康アプリなどの活用などフルに対策を行って感染を制御しなければならない。ワクチン接種が進んだあとも当面は基本的な対策を続ける必要がある。このようなテーマを議論したことによって対策のガードを下げることに絶対につながらないように、しっかりとメッセージを出していくことも確認した」と述べました。

さらに尾身会長は、来週にも分科会を開催し緊急事態宣言を解除する判断の条件などについて議論したいという意向を示しました。

このほか、菅総理大臣が9月に行われる自民党総裁選挙に立候補しないことを表明したことについて「菅総理にはときどきお会いする機会があったが、日々なんとか状況を改善しようとコロナ対策に真剣に取り組んでいる気持ちはひしひしと感じていた。今後、新しいリーダーが選ばれるということだと思うが、新型コロナウイルスの対策はこれから特に重要な時期にさしかかるので空白期間をおかず対策の強化を続けていただきたい。長い間、お疲れさまでしたという気持ちだ」と話しました。

尾身会長「提言をたたき台として国民的な議論を」

政府の分科会の尾身茂会長は、会合のあとの記者会見で、取りまとめた提言について「日常生活への制約が長引き、先が見えないことへの不安や不満が高まっていて、感染対策への協力が得られなくなっている。生活を徐々に戻すため、合理的かつ納得感のある感染対策が必要で、提言をたたき台として国民的な議論をしてほしい」と訴えました。

そして「ワクチン・検査パッケージ」について「日本では、ワクチン接種は努力義務だ。接種していない人が制約を受けるという不利益をどこまで受け入れるべきかは、人々の価値観や国によっても異なるので、結論ありきではなく、海外の事例も含めて政府や民間、専門家、一般市民を巻き込んで、国民的な議論をすべきではないか。そのうえで、具体的な運用は、民間の創意工夫に任せたらいいのではないかという意見も出た」と説明しました。

また「ワクチン・検査パッケージ」を導入すれば、同窓会など、久しぶりの人たちとの大人数での会食や宴会ができるか聞かれたのに対し「私たちは感染をゼロにすることを求めているわけではない。ある程度感染があっても、医療のひっ迫に影響しないのであれば許容できるか、みんなで議論してほしい」と述べました。

そして「希望者の全員がワクチンを接種したとしても、感染を制御して社会全体を守ることができる集団免疫の状態になるのは当面無理だというのが、われわれのコンセンサスだ。シミュレーションでは接種が進んでも、ある程度、感染対策を持続しないといけないことが示された」と説明したうえで「トンネルの先に光は見えているのか」という質問に対し「私たちの役割はリアリティー、実際の正しい姿を知ってもらうことだ。光はあるが、光は無条件には来ない」と述べました。