来年度の予算案概算要求
過去最大の111兆円余に

来年度=令和4年度の国の予算案の概算要求が各省庁から提出され、社会保障費などの増加を背景に、一般会計の要求の総額は111兆円余りと、過去最大になりました。
新型コロナウイルスの影響もあって財政運営が厳しさを増す中、いかに効率的な予算を編成できるかが問われることになります。

国の来年度予算案の編成に向けて、各省庁は31日までに財務省に対して概算要求を提出しました。

要求額が最も大きいのは、厚生労働省です。

医療や介護などの社会保障費が高齢化に伴って増え続けているため、要求額は過去最大の33兆9450億円に上っています。

また、財務省の概算要求に計上される、国債の償還や利払いに充てる「国債費」も、今年度の当初予算より6兆円余り増えて、30兆2362億円に膨らみました。

その結果、一般会計の要求の総額は111兆円余りと、4年連続で過去最大になりました。

このほか、防衛省は、中国が海洋進出を強める中、5兆4797億円を要求しました。

9月1日に発足する「デジタル庁」の要求額は、5426億円となっています。

一方、新型コロナウイルスの対策では、文部科学省が、国内でのワクチン開発や生産体制の強化に向けて拠点となる大学を整備し、研究費を支援する新たな事業に65億円を、厚生労働省が感染症などの危機管理を専門的に担う「危機管理オペレーションセンター」を省内に新設する経費として2億円を、それぞれ要求しました。

ただ、概算要求の段階では金額を示していない事業も多く、感染の拡大が続けば、一般会計の総額がさらに膨らむ可能性もあります。

財政運営が厳しさを増す中、いかに効率的な予算を編成できるかが今まで以上に問われることになります。

新型コロナウイルスに関する要求

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、各省庁からの概算要求には医療体制の強化のほか、深刻な打撃を受けている事業者への支援などが盛り込まれています。

まずは、医療体制や感染予防策の強化に関する要求です。

厚生労働省は、新型コロナを含めた感染症などへの危機管理体制を強化するため、「危機管理オペレーションセンター」を新たに省内に設置する費用として2億円。

医薬品の確保に支障が出ないよう、海外への依存度が高い原薬や原料を国内で安定供給する体制を強化するため、国内の製造所の新設などへの支援に11億円を要求しました。

文部科学省は、医学部の学生が感染症や救急医療などを横断的に学ぶことができる教育プログラムを設け、地域医療のリーダーとなる人材を育成する新しい事業に16億円、感染予防の対策として、国公立と私立の小中学校や高校、特別支援学校などを対象に、消毒液などの購入を補助する費用を、金額を定めずに要求しました。

また、新型コロナのワクチンの関連では、文部科学省は国内のワクチン開発や生産体制を強化するために拠点となる大学を整備し、研究費を支援する新たな事業に65億円を要求しているほか、外務省が、国際的な枠組みを通じた発展途上国へのワクチン供給の費用として300億円を要求しています。

さらに、景気対策や新型コロナで打撃を受けた事業者の支援などに関する要求についてです。

国土交通省は、新型コロナの影響で需要が落ち込んだ鉄道やバスなどの地域交通の維持や、観光業界や航空業界への支援事業の費用を金額を定めずに要求しています。

経済産業省は、コロナ後の経営を見据えて、新しい分野への事業を展開する中小企業を支援する費用などとして25億円を盛り込んでいます。

農林水産省は、飲食店の感染防止策やテイクアウトへの事業転換などモデルケースになる取り組みを支援する費用として10億円を要求しています。

このほか、厚生労働省は、新型コロナの影響を受ける新卒の専門学校生の支援のためハローワークなどに就職支援の職員を配置する事業に4億円を要求するほか、総務省は、テレワークの定着を図るため、情報通信端末を導入する企業を対象とした支援などに3億円を盛り込んでいます。

脱炭素社会の実現に向けた事業の要求

政府が2050年までの脱炭素社会の実現を目指す中、各省庁からは再生可能エネルギーの導入促進や、二酸化炭素の排出削減に向けた事業の要求が多く寄せられました。

環境省は、太陽光発電といった再生可能エネルギーの導入に意欲的な自治体を支援する新たな交付金などを設けるため200億円を要求したほか、プラスチックごみのリサイクル施設などに二酸化炭素の排出量が少ない設備を事業者が導入する際、経費の一部を補助する事業として108億円を求めました。

経済産業省は、電気自動車や燃料電池車などを購入した人への補助金を拡充し、今年度の2倍となる334億円を要求したほか、洋上風力発電の導入に向けて発電設備の設計やメンテナンスを行う技術者を育成する事業に6億円を盛りこみました。

国土交通省は、住宅やマンションの改修で断熱材を利用する際の補助や木材を活用した建築物を整備する費用などとして、1384億円を要求したほか、航空業界の脱炭素化を進めるため、石油以外を原料とする航空燃料の導入を支援する事業などとして36億円を求めました。

総務省は、通信を効率化して消費電力を抑えるための光ネットワーク技術の研究開発を行う事業として20億円を要求し、警察庁は、ハイブリッド車など燃費がよく環境負荷の低いパトカーや捜査車両を導入する費用として43億円を求めました。

農林水産省は、農林水産業の環境負荷を低減するため、バイオテクノロジーや最新の機械を活用した新たな栽培方法などの研究開発を支援する事業として65億円を要求しました。

各省庁の主な事業内容

来年度予算案の概算要求に各省庁が盛り込んだ主な事業内容です。

国土交通省は、通学路での子どもの事故を防ぐため、歩道の拡充やガードレールの設置など、交通安全対策を進める費用として、2265億円を要求しました。

厚生労働省は、日常的にたんの吸引や人工呼吸器などが必要な「医療的ケア児」やその家族を支援するため、ケアのできる看護師の確保や相談支援センターを設置する費用として、16億円を盛り込みました。

文部科学省は、タブレット端末などを使った「デジタル教科書」について、すべての国公私立の小中学校や特別支援学校に普及させる費用として、50億円を要求しました。

防衛省は、海洋進出を強める中国を念頭に南西諸島の防衛力を強化するため、島しょ部に部隊や装備品を輸送する艦艇を取得する費用として、102億円を要求しました。

総務省は、来年度末までにほぼすべての国民にマイナンバーカードが行き渡るように各自治体での交付態勢の整備を支援する費用などとして1233億円を要求しました。

農林水産省は、農林水産物や食品の輸出額を2030年に5兆円に増やす目標に向けて、生産者や販売業者の海外の販路開拓を支援する費用などとして、59億円を要求しました。

経済産業省は、脱炭素に欠かせない電気自動車向けの蓄電池や、供給が不足している半導体に必要なレアメタルなどの鉱物資源を探査する費用として22億円を要求しました。

法務省は、入管施設でのスリランカ人女性の死亡事案を受けて、施設内で適切な医療措置を講じることができるよう、体制の充実をはかる費用として8億円を要求しました。

警察庁は、深刻化するサイバー攻撃に対応するため、「サイバー局」という新しい部署を設置するほか、サイバー犯罪向けの専門部隊を設ける費用などとして、50億円を要求しました。

豪雨災害への対策を強化するための事業も

来年度予算案の概算要求には、各地で広がる豪雨災害への対策を強化するための事業も盛りこまれています。

このうち、国土交通省は、気候変動による水害リスクの増大に備えるため、流域全体で水害を減らす「流域治水」の対策を進める費用として5401億円、発達した積乱雲が帯状に連なり大雨による被害をもたらす「線状降水帯」について、観測機器の整備を進め、情報発信を強化する費用などとして132億円を要求しました。

また、ことし7月に静岡県熱海市で起きた大規模な土石流を受けて、崩壊のリスクのある盛り土の安全対策の費用について、国土交通省などが具体的な金額を明示せずに要求しているほか、総務省は、災害現場の実態を確実に把握するためのドローンの配備のほか、急傾斜地や障害物がある中で迅速な救助活動を行う小型救助車などの整備に向けて5億円を要求しました。

このほか、防衛関連予算について、防衛省は日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているとして、過去最大だった今年度の当初予算を上回る5兆4797億円を要求しました。

また、9月1日に発足する「デジタル庁」の予算として、内閣官房は5426億円を要求しました。

内訳は、デジタル庁が各府省で整備する情報システムを一括して要求することに伴う、システムの整備や運用に関する経費が5303億円。

デジタルの専門的な知見を持つ人材の確保や育成のための経費に25億円、マイナンバーカードの利便性の向上といった、デジタル社会に必要な機能の整備や普及に関する経費として10億円などとなっています。

一方、政府が東京電力福島第一原発の処理水を海に放出する方針を決めたことを受けて、関連費用が東日本大震災の復興特別会計の概算要求に計上されました。

環境省が海で放射性物質の濃度を測るモニタリングの費用などとして7億円、復興庁が風評対策として福島県などの水産物や水産加工品の販売促進を支援する事業に41億円を求めています。

専門家「これ以上の財政悪化に歯止め掛ける必要」

日本の財政に詳しい慶應義塾大学の土居丈朗教授は「高齢化が進んで社会保障費が増えるわりには経済成長が必ずしも芳しくなく、税収が同時に入ってくるわけではない。どうしても国債の大量発行に依存せざるをえないのが、今の日本の財政状況だ」と述べました。

そのうえで、今回の概算要求については「新型コロナがいつ収束するか見えないので、『備えあれば憂いなし』ということで、ある程度備えておく必要はあるが、全額使い切らなければいけないということではない。予算は上限額を示すものなので、それ以下の支出額で収まるのであればむだづかいをする必要はない」と指摘しました。

そして「コロナが終わったあと、経済、財政をどう立て直すかも考えて、必要な予算をえりすぐって効果的に編成する必要がある。また次の惨事が起こってしまったときに、本当に財政で国民を救えるかというと、ますますその余力はなくなってきている」と述べ、新型コロナの感染を早期に収束させ、これ以上の財政の悪化に歯止めを掛ける必要があるという認識を示しました。