G20「歴史的な合意」
新たな国際課税のルール前進

イタリアで開かれていたG20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議は、法人税の引き下げ競争に歯止めをかけるための新たな国際課税のルールを巡り、「歴史的な合意を成し遂げた」とする共同声明を採択して閉幕しました。目標とすることし10月までの最終合意に向けて前進した形です。

日本から麻生副総理兼財務大臣と日銀の黒田総裁が出席したG20の財務相・中央銀行総裁会議は、議長国イタリアのベネチアで2日間にわたって開かれ、日本時間の11日未明、共同声明を採択して閉幕しました。

それによりますと、OECD=経済協力開発機構の加盟国を中心としたグループの132の国と地域が、法人税の引き下げ競争に歯止めをかけるため最低税率を15%以上とすることや、グローバル企業に対し新たな課税ルールを導入することで大枠合意したことを、「承認する」としたうえで、G20としても「歴史的な合意を成し遂げた」としています。

また、グループのメンバーのうち、低い税率で企業を誘致してきたアイルランドなど7か国を念頭に、「合意にまだ参加していないすべての国と地域に対し参加を呼びかける」としました。

そして、ことし10月に開かれる次回のG20の会合までにルールの詳細を完成させるよう求め、最終合意に向けた交渉の進展を促しました。

今回の閣僚レベルでの合意により、目標とする10月までの最終合意に向けて前進した形ですが、具体的な税率などの制度設計の交渉ではなお曲折も予想され、参加国・地域が足並みをそろえられるかが今後の焦点になります。

コロナからの回復へ 金融・財政政策を維持

また、今回のG20の共同声明では、世界経済の見通しについて前回会合が開かれた4月以降、さらに改善してきているものの、「新型コロナウイルスの新たな変異株の拡大やワクチン接種のペースの違いなどの下方リスクに引き続きさらされている」としています。

このため、「政策的な支援の早まった引き揚げを回避し、回復を持続させる」としたうえで、「必要とされる間は、すべての利用可能な政策手段を用いるという決意を再確認し、世界経済を強固で持続可能な成長へと導くため、国際協力を続ける」として、現在の金融・財政政策を維持することに加えて、必要があればさらなる対応をとる構えを見せています。

また、新型コロナウイルスの影響を受けたぜい弱な国を支援するため、IMF=国際通貨基金が資金の枠を6500億ドル拡大することを受けて、その配分を来月末までに実施するよう求めています。

国際的な課税ルールとは

G20の共同声明には、議論を進めてきた国際的な課税ルールについて、10月に開かれる次回の会合までに、最終合意に向けた交渉の進展を促すことが盛り込まれました。

国際課税をめぐっては、OECD=経済協力開発機構の加盟国など139の国と地域でつくるグループが事務レベルで交渉を進めていて、これまでに132の国と地域が大枠合意しています。

それによりますと、法人税の引き下げ競争に歯止めをかけるため、各国共通の最低税率を15%以上とすることや、音楽や動画のネット配信など国境を越えて事業を展開するグローバル企業に対する新たな課税のルールを導入するとしています。

このうち、グローバル企業に対する新たな課税のルールでは、適用する対象を売り上げが200億ユーロ、日本円でおよそ2兆6000億円、売り上げに占める利益の割合=利益率が10%を超える企業とし、こうした企業が本社や拠点を置いていなくても、サービスを展開している国や地域は、利益の一部に課税ができるようにします。

今後、制度の詳細を詰めて10月までの最終的な合意と、再来年の実施を目指すとしています。

ただ、大枠合意には、139のメンバーのうち低い税率で企業を誘致してきたアイルランドやハンガリーなど7つの国が加わっていません。

また、法人税の最低税率を具体的に何%にするのかとか、低税率の国に配慮した例外措置の導入といった点は、メンバーの間でなお意見に隔たりがあります。

グループは、ことし10月までに再度、交渉会合を開く予定で、G20が「歴史的な合意」を打ち出す中、各国が足並みをそろえられるかどうかが焦点となります。

麻生 財務相「100年ぶりの変化 強く歓迎」

会議のあと記者会見した麻生副総理兼財務大臣は「1国の課税自主権が大きく変わる、100年ぶりくらいの歴史的な変化といえる合意ができた。2013年に私と黒田総裁が出席したG7で初めて国際的な議論を持ち出しこの問題を言い続けてきた。成果を強く歓迎している」と意義を強調しました。

また、旧大蔵省で国際租税課長を務めた経験を持つ日銀の黒田総裁は「デジタル経済が進んだことで、課税のルールを見直さないと主権国家の間での税金の配分が不公平になってしまうという懸念があった。100年くらい続いた課税ルールを変えることに100数十か国が合意しており内容だけでなく、歴史的にみても画期的な合意だ」と合意を歓迎しました。

米 イエレン財務長官「すみやかに行動すべき」

会議のあとアメリカのイエレン財務長官は声明を発表し「世界は法人税を底辺へと向かわせる引き下げ競争を終わらせる準備ができ、それをどのように実現するかについて各国から幅広い同意が得られている。最終的な合意に向けてすみやかに行動すべきだ」として合意の意義と、最終合意の重要性を強調しました。

国際的な課税ルールの議論は、巨大IT企業などを抱えるアメリカが、ことし1月の政権交代後にそれまでの消極的な姿勢を転換しイエレン財務長官が旗振り役となって法人税の最低税率の導入を呼びかけています。

仏 経済相「世紀に1度の大きな変革」

フランスのルメール経済相は声明で「G20の閣僚レベルで国際課税ルールを変革することで合意に達した。後戻りすることはなく、世紀に1度の大きな変革だ」と成果を強調したうえで、ことし10月の最終合意に期待を示しました。